26:メッセージアプリ。
無事にご納得してくれたクレアさんと仲良く手を繋いで屋敷へと戻ると、俺とクレアさんの家族が出迎えてくれた。
ニコニコとしている俺と、湯気が出そうなくらいに顔を赤くしているクレアさんを見て、サグラモール家の皆様は驚かれていた。
だがノエルさんだけが驚きながらも良くやったと言わんばかりの表情を俺に向けてきた。クレアさんの心の変化があったのが分かっているかのような感じだった。
そして俺とクレアさんの婚約を正式なものとするために大人たちが何かしている間に、時間を潰すためにクレアさんを俺の部屋に招待していた。
「どうぞこちらですよ、お嬢さま」
「も、もう……やめてください。恥ずかしいです……」
俺の本気度を分かってくれたクレアさんはどうやら俺の言葉を素直に聞いてくれるようになったようだ。
だからこうしてエスコートしてもひねくれた返しじゃなくて恥ずかしがっている。
ちなみに他の姉三人はシルヴィー姉さんの部屋に行っているようだったから、騒がしいのがなくて安心した。
俺もクレアさんもおそらく静かな方が性に合っていると思う。
「ここが……アーサーさまのお部屋ですか」
「そうですよ。特に変わり映えのしない部屋ですよ」
俺としては色々な物を置きたいところだけれど、まだ段階を踏まないと早いと思っている。
少し段階を早めるためにグッズを置くのはありだと思っているけどね。
「そう言えば、クレアさんは『叛逆の英雄』を知っているのですか?」
「もちろん知っています。知らない人は貴族の中、ブリテン王国ではいないと思いますよ」
本当にそうなんだな。だからこそ、『叛逆の英雄』をマンガにすれば売れると誰もが思っているわけか。
「それなら『叛逆の英雄』の中で誰が好きとかありますか?」
「……笑いませんか?」
「笑いませんよ」
「……絶対にですか?」
「絶対にですよ。笑う要素なんてありませんよ」
どんなキャラを言われても笑うとかないだろ。
そう思ってクレアさんの反応を見ていると、クレアさんは手をモジモジとさせて恥ずかしそうに答えてくれた。
「アニェスさまに……憧れています」
「アニェスって、女王さまでしたね」
「はい……」
叛逆の英雄の主人公、ジャックが叛逆する前よりも前に叛逆を企てていた一国の女王。
女性であろうと舐められることなく勇ましく立ち振る舞っていた女王がアニェスだったはず。
「いいですよね、アニェス。カッコいいですし、誰にも弱さを見せない強さを持っているところが特に」
「そうなんです! アニェスさまは誰に何と言われようとも自分を曲げず自信を持ち、誰よりも頑張っていた人なんです!」
そういうことならクレアさんがアニェスが好きになる理由は分かるな。てかさまつけなのね。
これ、クレアさんにグッズとかアニメとか見せたら発狂しそう。そういうクレアさんも見てみたいところですね。
「……引きましたか?」
俺が生暖かい目でクレアさんを見ているとクレアさんはハッとして少し控えめに聞いてきた。
「いえ全く。好きなものについて語るのは素晴らしいことですよ。気にしなくていいです」
「ほ、本当ですか……?」
「もちろんです。そんなクレアさんのためにとっておきの絵を描きますね」
不思議そうな顔をしているクレアさんをよそに、机の上に置いてあるペンと紙を取って作業を始める。
「これって……」
会話の流れやかいている途中でも分かったクレアさんは俺の顔を見たりかきかけの絵を見たりと忙しなかった。
「はい。できましたよ。アニェスです」
七つの宝石がついた王冠を被り、勇ましく立っているアニェスの絵が完成した。
これは小説の中だけだとあまり外見が出てこないけど、俺のは過去視をしているからバッチリと再現している。
「……私が想像していた通りのアニェスさまです」
「それは良かったです。差し上げますよ、その絵」
「い、いいんですか!?」
「もちろん。そのためにかいたんですから」
「あ、ありがとうございます!」
今日一番で大きくてテンションが高い声を聞いたな。
「そしてこれも差し上げます」
「これは……?」
絵に続いて机の上に出したのはスマホ。
どうせお母上様とゾーイさんのあの感じならスマホを渡すだろうから、クレアさんに渡しても問題はないだろう。問題はなくてもクレアさんは大丈夫だと感じる。
「この四角いものは何ですか?」
「それはスマホと言って、言葉や文字をスマホを持っている同士なら遠くからでもやり取りすることができる魔道具です」
「……どういうことですか?」
「まあ実際にやってみましょう」
とりあえずメールのやり取りをしたり、毎度おなじみの部屋の対角線に立って電話するということをした。
「これ、すごいですね……」
「お父さんにも言われましたね。で、これをスムーズに行えるアプリを作りました」
「はぁ……? 先ほどの説明で頭がいっぱいなので、少し簡単にお願いします」
この世界とは全く違う文明を持ってきたのだからそれはそうか。
「まああまり深く考えなくて大丈夫ですし、あまり理解しなくても大丈夫です。そういう便利なものがあるんだと思っていれば大丈夫です」
「分かりました。理解できるところは理解します」
本当にいい子だなぁ。ルーシー姉さんだったら何も理解しようとしないのに。
ま、ルーシー姉さんとクレアさんの性格のどちらがいいとかじゃなくて、いいところも悪いところもあるという話だな。
「アプリというものは特定の機能を使うために作られたものだと考えてくれたらいいですよ。カメラとかもそういう立ち位置ですね」
「それは理解しました」
俺が一々他の人のスマホをいじってアプリを追加するのはメンドウだから、アプリストアをインターネット上で開設した。
「クレアさん、一度スマホにアプリを入れるためのアプリを追加しますね」
「……それは分かりません」
知っていないとイメージしずらいのかもしれないから、作業しながら説明する。
「アプリを入れるアプリ、アプリストアって名付けているんですけど、そのアプリストアはアプリをスマホに入れるためのお店で、スマホの持ち主が好みのアプリを入れるための場所ですね。アプリストアが露店で、並べられている商品がアプリですね。これからアプリストアに少しずつアプリを増やしていく予定なので、ここからアプリを追加してください」
「露店と商品というので理解できました」
「はい、追加できました。なので早速操作しますか」
「はい」
さっきスマホの説明をしていたからクレアさんは問題なく操作できるようだった。
「アプリストアを開きます」
「開きました」
「そこで、まだ一つしかないですけどメッセージアプリをタッチして、インストールってところをタッチすればアプリがスマホの中に追加されます」
「押しました」
インストール自体は一秒もかからずに終わった。
「アプリをインストールしましたから、次は設定ですね」
「ふぅ……まだあるんですね……」
「もう少しですから頑張ってください!」
「はい……!」
少し疲れてきているクレアさんだが、もう少しだけ頑張ってもらう。
「まずは自分の名前、このアプリ上での名前ですね。これは何でもいいですよ。僕はアーサーにしますけど、フルネームでも、気に入っている名前の人でも」
「……アニェスでもいいんですか?」
「構いませんよ。何ならアイコン、名前と一緒に設定できる写真が登録できるのでさっきのアニェスの絵を撮影して設定しますか?」
「します!」
適当にやっていたけど、何だかんだ上手く繋がっているなぁ。
クレアさんが名前をアニェスにして俺の絵を撮影してアイコン設定をしていた。
「これで設定は終わったので、次は友達追加ですね。メールで言えば相手のアドレスを交換と同じです」
「それは理解しました」
俺がQRコードを出してクレアさんに読み込ませて俺とクレアさんは友達になった。
「このメッセージアプリは会話する部屋を作ることができます」
「部屋、ですか?」
「はい。個人間で行う部屋を作ったり、僕とクレアさん以外に、例えばルーシーお姉ちゃんを呼べば、三人で会話ができるようになります。僕とクレアさんとルーシーお姉ちゃんはその会話を見ることができて、その会話に参加することができるようになるわけです」
「……あまり、よく分からないです」
これは説明するよりも実践した方が早いから、もう一台作って説明することにしよう。
だけど何だか複数の足音がこちらに向かっているのが聞こえてきて、これはもしかしなくてもあの三人だと理解できた。
「アーサーくん! こんな面白いものをどうして隠していたの!?」
扉を開けて入ってきたのはノエルさんで、手にはスマホが握られていた。
そして背後にシルヴィー姉さんとルーシー姉さんがおり、ノエルさんを止めようとしていたのが見て取れた。
「いや、隠していたとかじゃなくてノエルさんとは今日会ったばかりなので」
「こんな面白いものをすぐに教えてくれないのは万死に値するんだよ!?」
「いや万死速すぎでしょ」
「……クレアにはすぐに渡しているみたいだね」
目ざとくクレアさんが持っていたスマホを見るノエルさん。
「渡さないわけではないですよ。はい、どうぞ」
「さすが分かってる~。それでどうやって使うの?」
「それはですね――」
また使い方をレクチャーして、アプリストアやメッセージアプリを三人に対して説明した。
そして待ってくれていたクレアさんにグループを説明するために、五人のグループ『世界で初めてのグループ』ができて全員招待した。
「これでこのグループの会話は全員が見ることができるようになりました」
「逆に誰か特定の人に見られたくなければ、その人だけを抜いたグループを作ればいいということ?」
「そういうことですね」
「それならシルヴィーとルーシーを抜いたグループを作ろっと」
「ちょっと、何の恨みがあるのよ」
「意味不明」
「特にないよ」
何だかんだこの三人は仲がいいのかと思いながらも、メッセージアプリが導入できて良かったと思った。
あるメッセージが俺の個人間の部屋に届いた。
『よろしくお願いします、アーサーさま』
スマホを口のところに持っていき視線をそらしているクレアさんからだった。
何だよそれ、萌えかよ。




