表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元AI少女の異世界冒険譚  作者: シシロ
辺境伯領の変化
72/77

第71話 休日

「――――……はい?」

「ですから、貴女は本日、休暇とします」


 朝起きて、グレイスが部屋にやって来たかと思えばこれである。

寝惚け眼のAIは、精霊と共に首を傾げた。


「アリアのお陰で料理の方もある程度準備が整いそうです。ドレスも何とかなりそうだと、ロブさんから伺っています。ここ最近は忙しかったようですし、一度ゆっくり休みなさい」

「しかし…」

「クレア様にも許可は取ってあります。もし、外を出歩くなら護衛を連れて行きなさいね」


 そう言って立ち去るグレイスを見送りながら、アリアとフォックスは互いに見つめ合うのだった。





 アリアにとって初めての休日。

こちらへ転移してから『休む』と言う行動を取って来なかったアリアには、行動を決めるだけの材料が無い。

具体的に言えば、『何をすればいいのか解らない状態』であった。


「休む…休む…」

「アンタは何を唸ってるのよ…」


 アリアが休みと聞いたウリネが、一体何をして過ごすつもりなのかと気になって来てみれば、そこには考える人と化したアリアが佇んでいた。

一目見て、休日を過ごしているとは思えない光景である。


「ウリネさん、おはようございます」

「はい、おはよう。…で、何をしてんのよ?」

「休日とは、一体何をすればいいのかと思いまして」


  アリアとて、休日は身体を休める、あるいはリフレッシュする為の期間とは理解している。

ただ、それを自分に当て嵌めてみても、具体的な行動が浮かばないのであった。

このままでは、一日中筋トレをして過ごす事になってしまうだろう。


「休みなのに悩んで過ごしてたら休めないでしょうに…」

「ウリネさんならどうしますか?」

「休まないわ」

「え?」

「私がライオネル様やハンス様のお傍を離れるとでも?」


 うっとりとした目で言い切るウリネを見て、さすがのアリアでも理解出来た。

聞く相手を間違えたのだろうと。


 フォックスと顔を合わせ、互いにその認識を共有すると『そうですか』と興味無さげに頷いた。


「今まで仕事で出来なかった事とかないの? 折角時間が空いたんだから、そう言った時間に当てたらどう?」


 そう言われて、アリアには二つほど思い当たる事があった。


 一つは、この世界の事。

常々、この世界の事を知らな過ぎるとは思っていたのだ。

幸い、まだ辺境伯家にある書物は読み切っていない。

この世界の事を調べるにはいい機会かと、アリアは思い至る。


 もう一つはカッツェとの約束。

碑文の解読を頼まれてはいたものの、時間が取れずそのままになっていた。

今日カッツェが空いているかは解らないが、指針としては十分だろう。


「………なるほど。参考になりました。ありがとうございます」


 そう答えたアリアを見て、何故だか不安に駆られたウリネは、護衛を派遣するようすぐに連絡しに向かうのであった。





 そうして図書室にやって来たアリアは、今は手あたり次第に本を読み進めている。

この国や世界の歴史、地理、経済や地形について。

もはや手あたり次第と言っていいほどには本を読み漁っていた。


 本日の護衛はシェーラと言う女性の私兵であった。

アリアと共に行動するに当たり、同性の方が良いだろうと言うニールの気遣いである。


 シェーラは没落した貴族家の令嬢であり、貴族籍があった頃にはオード辺境伯らとも顔を合わせた事があった。

 そんな彼女がアドモンの私兵になった経緯は、復讐である。

彼女の両親に冤罪を擦りつけ、貴族籍を失わせたのはアドモンの差し金であったのだ。


 そのまま露頭に迷い、野垂れ死ぬ運命を変えてくれたのがニールだ。

貴族籍を奪い、守る者の居なくなった彼女達一家を『処理』するよう命じたアドモンに対し、ニールは『処理』した事にして逃がしたのである。

お陰で、以前ほどの生活は送れないものの、名を変えて生存する事が出来ている。


 アドモンの排除に成功し、過去の冤罪についても明らかになった今となっては、シェーラに強く願う目的は無い。

貴族籍も直に戻ると思えば、私兵として生活する意味も無くなった。

 しかし、そうした経緯を無視してニールと行動を共にしている。

彼女なりの恩返しであった。


 そう言った経緯からか、ニールからも信頼の厚い護衛であると言えるだろう。


「――――」

「………」


 そんな悲運を乗り越えた彼女は、目の前の状況に目を瞬かせるばかりであった。

本を取り、パラパラと高速でめくっては本を戻す。

そんな行動をアリアは一時間近く繰り返している。


 休日とは聞いていたが、いくら暇でもそれは楽しいのかとシェーラは頭を捻る。

まさか、あの速度でちゃんと内容を読めているなどとは思いもよらなかったのだ。


 それから更に一時間ほど時間が経過し、アリアはふぅ、と息を吐いた。

相変わらずの無表情で椅子に座ると、口元に手を当てて思考に耽る。


「――――……」


 結論から言えば、辺境伯家にある書物は情報が偏っていた。

大まかな歴史などは調べられたが、その他は領地周辺の情報に限られる。

辺境と言う地の特性上、これも仕方ない事なのかもしれない。


 首都と呼べるような地であればもっと多くの情報が得られただろうが、現状ではこの辺りが限界かと、アリアは一先ず納得する事にした。


「――――……ふむ」


 膝に乗ってきたフォックスの見、どこからか取り出した櫛を手にすると、フォックスのブラッシングを始める。

傍目から見れば、虚空に対しブラシを前後させると言う不審極まりない行動であった。


 そろそろシェーラがアリアに対して不気味さを覚え始めて来た頃、アリアの頭は情報の整理が落ち着いたようである。


(詳しい内容までは網羅されていませんが、大まかな所は理解出来たでしょうか)


 この世界の歴史は、少々荒れたものであったらしい。

その所為か、一定のタイミングで歴史が失われてしまっている。


 遡れる中で、一番古い歴史は初代魔王の出現まで――――三千年近く前の話である。

初代魔王の出現により、世界は人族と魔族に二分され、大きな戦乱が訪れた。

その過程で互いに争い合った人族ひとぞくと魔族により、書物の多くが失われてしまったらしい。


 人族とは。

魔王に抗う勢力に属した種族を指す。

人間のみならず、人間側に付いたエルフやドワーフなどの亜人を含め、一括りに人族と呼ばれる。


 魔族とは。

魔王側の勢力に付いた種族を指す。

そちら側に付いたヴァンパイアやラミア、オーガなどの種族を総称し、魔族と呼ぶらしい。


 要は、生物的な分類ではなく、所属する勢力によって呼び名が変わるのである。


 その後の歴史についてはかなり曖昧だ。

初代勇者とその仲間によって魔王が討伐され、その後一時的な平和が訪れたものの、二代目、三代目と魔王の出現が続き、長い戦乱の時が続いた。

その間も歴史書は失われ続け、大まかな歴史しか残されなかった。

現在辺境伯家で調べられた内容も、元は殆どが口伝であったと言う。


 戦乱が落ち着いたのは千年以上前になる。


 争いに疲れた人族と魔族の一部で友和が結ばれた事が始まりだ。

元々戦う体力が限界だった事もあり、それを見習うかのように、他の地域でも戦闘が止まって行く事になった。

…尤も、多くの場合は友和ではなく、一時的な休戦を前提としたものであったが。


 一応は平和が訪れたものの、それでも局地的な小競り合いは続き、いずれまた大きな戦になる事を憂いた当時の為政者達は、大陸を二つに分けると言うとんでもない行動に出た。

大陸北側が人族の領域、南側が魔族の領域。

互いに接点を無くす事で、争いを完全に排除しようとしたのである。


 当時は反発もあったようだが、結果的にその計画は上手く行ったと言える。

大きな壁が築かれ、互いに接触が難しくなった人族と魔族は、そもそも争う事自体が出来なくなった。

そうしてお互いに触れずに長い時を経たのが、今のこの世界である。


(僅かながらに貿易や情報の行き来はあるようですが、世界的に見ても極一部のようですね)


 商業ギルドなどで米について聞いた時、魔族領と言う単語が出た。

恐らく、長い時間が経った中で、多少のやり取りは回復しているのだろう。


(そして、気になるのは―――――)


 自らの膝の上で、フォックスが『くぅん』とリラックスした声を上げた。

それに視線だけ向け、一時自分の中に浮かんだ考えを中断するのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ