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元AI少女の異世界冒険譚  作者: シシロ
辺境伯領の変化
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第66話 不穏な影

「こりゃ……中々いけるじゃねぇか」

「乳製品や卵が手軽に使えないのが問題ですね」


 アリアが作ったのは小さめのショートケーキとホットケーキ、鍋料理、あとは果物の盛り合わせであった。

レシピ自体は色々とあるだろうが、材料の殆どが野菜と果物では限界がある。


 ただ、一つ珍しい物をと言う事で作ったのが天ぷらであった。

手に入る油がリンシードオイルしか無かった為、パン粉や小麦粉でコーティングした食材をリンシードオイルで揚げると言う、本来の天ぷらとは少々違うものではあったが。


「ケーキを作りはしましたが、このサイズを作るのが限界です」

「出来はいいんだが、パーティの目玉には出来ないか」


 例の会議から数日後、現在はナッシュと共に料理の試行錯誤中である。


 アリアが採って来た作物は加工が必要なものもあったが、さすがに時間が無さすぎる為、材料をそのまま使う事しか出来ていない。

乳製品や卵も手に入り難い為、ケーキの完成度もほどほど…そんな不満ばかりの料理体験であった。


 しかし、それでもこの地で作られる料理としては破格。

辛うじて酵母を作る事が出来たので、ふっくらとしたパンが出来ただけでも十分であっただろう。


(しかし…素人の包丁捌きじゃないな。アリアは本当に何者だ?)


 アリアの作業を横目で見ていたナッシュ。

素材の切り方から作業工程、どれを取っても料理人と遜色無い。

その腕前は料理人として、少々焦りすら感じさせるものであった。


 まぁ、それはともかくとして、アリアの言っていた材料の足りなさは確かに問題であった。

畑で手に入るのは野菜や穀物類、果物ぐらいだ。

それ以外の物となると中々難しい。


「卵とミルクか。…例の薬の効果があれば、これから供給も増えるはずだ。それまでの辛抱だな」


 魔物の気配に怯える事が無ければ、動物達もストレスが減るだろう。


 いっそ辺境伯家で育てられないものだろうか。

そんな事を考えながら、口元を赤くしつつイチゴを食べるフォックスを眺める。


「しかし…話には聞いてたが、本当に精霊を連れてるんだな」


 食べ物が消える様を見つつ、ナッシュが呟いた。


 フォックスの件は一応辺境伯達の身内には共有されているが、未だ眉唾の話である。

食べ物が消える光景を見たのはナッシュとハリスのみ。

彼等以外には信じられない話であっただろう。


「そんな事より、食材の加工や他の食材を集める件について対策しなければ、これ以上は望めませんね」


 しかし、そんな話題を一蹴するアリアである。

精霊の実在も何も、目の前に居るのだからどうでもいい事。

周りの人間にフォックスが見えていない事など、アリアは未だに知らないのだ。


「天ぷらなんかはこの辺りで食べられる代物じゃないし、かなりいい線行ってると思うが……俺も実物は初めて見るぞ。パンもこれだけふっくらしている物は王都でもないと食えないぜ?」


 そんなナッシュの言はスルーされ、アリアはあくまで高みを目指す。


(加工用の機材もそうですが、錬金術で使えそうな薬が無いか検証してみましょう)


 この時、錬金術で作られた薬品について、オード辺境伯の胃にダメージが入る事が確定した。





「ほう。あのメイドが食材を、な」


 とある宿屋での事。

薄暗い室内で、商人風の男と堅気では無さそうな風貌の男が話し合っていた。


「それは買ったものか?」

「あれだけの量をここで集められるとは思えん。…あれもどこからか仕入れたものかもな」


 商人風の男がニヤリと笑う。


「それだけの財力があると言う事だ。…どこのメイドかは解ったのか?」

「辺境伯邸のメイドであるらしい」

「辺境伯邸にそれほどの財力が残されていると?」

「そこまでは解らん。ここ最近は情報操作されているのか、荒唐無稽な噂が蔓延っていて何が真実か判然としないのでな」


 そのどれもがほぼほぼ真実である、などとは思わない二人である。


 彼等はアリアが商人ギルドで惜しげもなく金貨を渡していたと言う情報を得ていた。

元々こんな領に来る商人など、スネに傷のある者も多い。

そんな彼等の耳に、アリアが大金を持って歩いていると言う情報が流れればどうなるか。


「攫うか奪うか…どちらがいいと思う?」

「奪えば辺境伯家が動く。攫えば、金を持ってとんずらしたと考えるかもしれない」

「攫ってしまった方が後腐れは無いか。…高く売れそうな娘ではあるが、グロームスパイアにでも捨てて、証拠隠滅した方が足は付かぬだろうな」


 それに、それだけの金を任されるメイドだ。

辺境伯家の情報にもさぞ詳しいのだろう。

それを、他の貴族家へ売ればそちらでの報酬も見込める。


「割に合わない仕事と思っていたが…クク、少しは運が向いて来たじゃないか」

「もう動くのか? 貴族家に関わるメイドだ。もう少し情報を集めた方がいい」

「落ち目の辺境伯家だぞ? 何かに気付いたとて、対策が取れるとも思えん。変に時間を掛けるより、さっさと済ませて逃げた方が安全だろうよ」


 そう言って、商人風の男はワインを煽る。

手に入った金で何をするか――――そんな事に思いを馳せつつ、男は再び笑うのであった。




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