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元AI少女の異世界冒険譚  作者: シシロ
辺境伯領の変化
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第62話 街での一幕

 アリアが作った農具が良かったのか、あるいはアリアの身体能力の賜物か。

想像以上の速度で畑作りは進み、たった二日でそれなりの規模の畑を作り、種を撒く所まで終わった。

柵も設置し、栄養剤も撒き終えた。

 唯一の不安としては、泥棒が来ないかどうか。

人目に付かない場所かつ、城壁の外だけあって人が近付くとは思えないが、アリアの目的を阻むのはもはや人のみと言えた。

こんな場所に私兵は配置出来ないし、あとは見つからない事を祈るばかりである。

……まぁ、この場に異変があれば、食に貪欲な精霊が即座に動くだろうが。


 そんなこんなで、畑作成から数日。

今日は大麦のサンプルが来たと言う連絡があり、アリアは商業ギルドへ向かっていた。

同行者は筋肉師匠ことガリオンである。


 何故そんな事になったかと言えば、ロブ達の予定が合わなかったのだ。

ロブとウリネはメイド達の整理を行うとしてオード辺境伯に呼び出された。

ロブが調べた情報とウリネの密告を精査し、味方と敵とを分けるつもりなのだ。

殆どは敵側だろうが、それでも人手の足りない領主邸では使わざるを得ない。

…だから、回す仕事を変え、辺境伯達から遠ざけた仕事を任せようと言うのである。


 前回同行したセーラはクレアの傍に仕えている。

メイド長グレイスや料理長のナッシュ、騎士団長リゲル…そこに、領主側に引き込まれたハルノとユラギ、私兵長となったニールを交え、お披露目の相談をしている。

ハルノ、ユラギ、ニールにとっては、クレアとの初対面でもあり、『身内』と判断されたと言う事でもある。

いよいよ、辺境伯家が動き出したと言う事だろう。


 そんな訳で皆忙しく、予定が付かなかったのであった。

だが、アリアに関わった者達が、アリアを放置と言う選択肢を取るはずもなく、信頼出来そうな者としてガリオンが選ばれたと言う訳だ。

……アリアの行動原理の大元が、この男であると知ったら…彼等はどんな顔をするだろうか。


「いやぁ、給金まで出るって言うんじゃ断れねぇやな」


 運搬ギルドとしてもアリアは重要な人物だ。

事情を聞けば即座にガリオンを派遣して来た。


「薬は足りていますか?」

「在庫が減って来たって言ってたぜ。近々また頼むかもしれねぇ」


 アリアが運搬ギルドに卸す頻度は高い。

一度に卸す数は大量であるし、時間的に余裕をもって卸しているが、それでも消費量の多さからすぐに発注が来るのである。

どうやら運搬ギルドでのポーション使用量はかなりのものであるらしい。


「では、また作っておきます」

「頼んだぜ」


 …まさか、栄養ドリンクとしての効果も高く、今まで以上に仕事が進むとして常用されているなどとは考えもしないアリアであった。





 商業ギルドへ辿り着き、以前も世話になったそばかすの青年に声を掛ける。

人懐っこい笑みを浮かべる彼の名は、ノイと言う。

本来は仕事熱心なようで、アリアの要望にも見事に応えて貰えた。


「こちらが隣の国で扱われている大麦です。手を伸ばせばもう少し種類が増えますが、取り寄せに時間が掛かりますね」

「あまり遠い国の物だと、環境が変わり過ぎて栽培出来ない可能性がありますので、こちらから決めようと思います」

「栽培目的なら、それがいいかと」


 栄養素の保有量を調べたい所だが、この世界にはその機器も薬品も無い。

目でどんな品種に近いか、地球での知識を元に精査するアリア。


「…おや?」

「どうかしたか?」


 首を傾げるアリアを見て、ガリオンが問う。


 目の前に並べられた大麦は、その殆どが二条大麦。

地球では、主にビールやウィスキーに使われていた麦である。

食用として使われるのは、その殆どが六条大麦…アリアが求めていたのもこちらだ。

 六条大麦はサンプルの中には一つだけしかなく、ある種選択の余地は無いと言える。


「……ふむ。では、こちらのと、こちらの二種類頂けますか?」


 とは言え、ビールやウィスキーも料理に使えるのだ。

料理の材料として育てるのも悪くない。


「解りました。値段交渉はご自分でなさいますか? わたくし共で対応する事も出来ますが」

「では、お任せします」


 こう見えてアリアは忙しい。

交渉と言うものがどうやって行われるのか、どんなやり取りになるのか興味はあるが、今やるべき事は山積みだ。

畑の事、クレアのお披露目の事、調べたい事も山とあるし、魔物の牙で暗器を作る予定もある。

時短出来るならするべきだとアリアは考えた。


「では、こちらに数量をお願いします」


 差し出された羊皮紙に依頼数量を書き込み、ノルへと返すアリア。

すると、ノルは若干言い難そうな顔で続けた。


「…その、グロームスパイア近くと言う事もあり、多少値段が高めになる事はご了承ください」

「いくらぐらいになりそうですか?」

「交渉次第ですが、恐らく金貨五枚から八枚ほどでしょうか」


 それにプラス、恐らくは手数料なども掛かるだろう。

アリアはそう考えて、手元の金貨を十枚ほど手渡す。


「え、あの…これは?」

「足りませんか?」

「いえ、そんな事はありませんが…」

「超過分は手数料として納めて頂いて構いません。交渉のほど、よろしくお願い致します」


 そう言って綺麗な礼をするアリアを見れば、ノルは驚いて大口を開けたままとなってしまった。


 ……アリアの知らぬ真実として。

普通、商業ギルドが言った金額は手数料も込みの値段である。

それに上乗せで金貨を渡す客なんて、普通は有り得ない話だ。

 それを平然とし、礼までして『お願い』して来るなど、よほどの事情があるのだろうとノルは納得した。


 ――――そして、そんな『目立つ』行動をすれば、様々な人の耳にも届いてしまう訳で。





「――――それは大変ですね」


 付き合って貰ったので、昼はご馳走すると言い出したアリア。

お勧めの店は無いかとガリオンに尋ねれば、行き着いた先は彼の行きつけの店。

…と言うか、飲み屋であった。


 ガリオンが適当に料理を頼み、料理が届くまでの間、アリアが運搬ギルドについて尋ねている。


 曰く、腰痛やギックリ腰に悩まされる者が多いとか。

腰痛はアリアのポーションで治るが、ギックリ腰については一時的な治療にしかならないらしい。

一度やるとクセが付いてしまうのか、再びギックリ腰を再発する者が多いのだそうだ。


 曰く、魔物と出会う事も多い為、運搬ギルドの者はそれなりの戦闘能力を備えているのだとか。

だが、あまり重い装備を着込んで移動する訳にもいかず、最低限の装備で戦えるような技術を鍛えているとの事だった。


 そんな世間話を聞きながら、ギックリ腰が再発しないようサポーターのような物を作ろうかとか、軽い装備を作ろうか、などと考えるアリア。


「お、アリアじゃないか」


 そんなアリアの思考を遮るように、以前見た顔が現れた。


「カッツェさん。お食事ですか?」

「ああ、まぁな。ガリオンと知り合いだったのか?」


 以前出会った冒険者のカッツェ。

彼とガリオンも知り合いであるらしく、極自然にガリオンの隣へと座った。


「以前お世話になりまして。こちらの街に来てからもお世話になっています」

「運搬ギルドに居ると色んな所に行くからな。これでも顔は広いんだぜ?」

「ほ~、そんなもんか」

「そう言うお二人は?」


 アリアが聞き返せば、重要な荷物の運搬を行う場合、護衛として冒険者が雇われる事があるのだと言う。

その関係で、以前一緒に行動した事があったのだそうだ。


「そうだ。前に言っていた碑文の件だが、予定が付きそうなら見てくれないか」

「碑文ってのはなんだ?」

「ダンジョンで見つけた文字盤だ。何が書かれているのかは解らん」

「…アリアに読めるのか?」


 ダンジョン――――異世界に来た時点で存在する可能性は考えていたが、やはりこの世界にもあるらしい。

そんな事を考えながら、アリアは頷く。


「規則性さえ解れば、全てとは言わずとも解読出来るかもしれません」


 運ばれて来た食事を目で追いながら、アリアはそう答えた。

……碑文の内容より、食事の内容の方が興味深いらしい。


「とは言え、今日はこの後予定がありますので、後日とさせて下さい」

「ああ。別に急いじゃいねぇからよ。暇な時で構わんぜ」


 この後、畑の様子を見に行ってから屋敷に戻る予定だ。

屋敷に戻れば、アリアもクレアのお披露目についての話し合いに参加する事になるだろう。

自由気ままに見えるアリアだが、抱えている仕事は人並み以上に多いのである。




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