表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元AI少女の異世界冒険譚  作者: シシロ
辺境伯領の変化
59/77

第58話 ウリネ

「……なるほど」


 辺境伯邸の門を潜った瞬間、急いで来て欲しいとハリスに連れ出された。

行先はクレアの部屋の前。

…そこには、クレアの部屋の前を守っていた護衛を含む五人ほどが這いつくばっていた。


「…これは、何ですか?」


 状況に付いていけず、セーラが問い掛ける。


 この場に居るのはクレアの部屋を守っていた二人の護衛と例の勝気なメイド、ウリネ。

それと、ハルノとユラギの五人だ。


「なんなのよこれはーーー!!」


 立ち上がれずウリネが叫ぶ。

彼女等の足元にはねっとりとした液体。

ツルツルと滑り、立ち上がる事が出来ない。

今も、立ち上がろうとした護衛が盛大に滑っていた。


「ごふっ!?」

「へ、下手に動くな! 剣が抜けたら大怪我するぞ!」

「ハルノ~!!」

「こ、来ないでユラギ! まとめて倒れちゃう!!」


 阿鼻叫喚である。


「悲鳴が聞こえて、駆けつけた時にはこうなっていました」


 頭を抱えたまま、グレイスが言う。

何があったとメイドや護衛達が集まり、この状況を遠巻きに見ている。

この邸内でこれほど人口密度が高くなるなど、そうある事ではないだろう。


「貴女、何を仕掛けたの…?」

「ドアノブを引くとノブが外れるようになっていました。外れたドアノブの穴からは粘着性の油が飛び出す仕掛けを仕込んであります」


 そして、この惨状である。


「ともかく、この者等を救出した方がいいのでは?」

「救出しようとした末路がハルノとユラギです」


 グレイスが頭を抱える訳だ。

事情を聞こうにも、罠に掛かった者に手が出せないのだから放置するより無い。


「…それで、お前達は何をやっているのだ?」


 ニールがクレアの部屋を守っていたはずの二人に問う。

信用されていない事などニールにだって解っている。

ここで波風立てるような行動は、私兵達全員にとってのマイナスとなるのだ。


「そ、それが…そちらのメイドがクレア様の様子を見に来たと、ドアノブに手を掛けまして…」

「腕を掴んだ時にはドアノブを捻っていたようで、ドアノブが吹き飛び、中からこの液体が…」


 どうやら、私兵達は開けようとしたのではなく巻き込まれただけらしい。

つまり、この惨状を作り出したのは――――。


「お屋敷の中になんて仕掛け作ってるのよ―――!!」


 中心で叫ぶ、ウリネである。





 ウリネ達を何とか救い出して風呂へ叩き込んだ後、ようやく話し合いが行われた。

あの後、救い出そうとした者が数名巻き込まれており、伯爵邸全体が疲れ切った様子で静けさを取り戻していた。


「…アリア、あそこの掃除は貴女にお任せします」

「解りました」


 同じく巻き込まれたグレイスが、大きく溜息を吐きながら言った。


 この場に揃っているのはアリア、フォックス、グレイス、ロブ、ニール、ハンスである。

その誰もが疲れて切った様子で、あの蟻地獄のような状況にどれだけの被害が出たのかを連想させた。


「あの液体はなんだったんじゃ…」

「可燃性の樹液がありまして、それの濃度を高めたものです。抽出方法を変えるだけで作れます」


 暗に錬金術で作ったものではないと伝えたのだが、問い掛けた方のロブはこめかみを押さえるだけで返事はしなかった。

ちなみに、錬金術で作ったものではないので、オード辺境伯にも伝えられていない薬品である。

その結果生まれた悲劇とも言えるのだが。


「アリアが仕掛けた罠はアレだけですか?」

「他に七十七個の罠を仕掛けてありますが、皆さんが入浴中に取り除いてあります」


 一つ目で撃退されたのは、ウリネにとって幸運であったかもしれない。


「護衛がしっかりと止めていればこうはなりませんでした。私から謝罪致します」

「気にするな、とまでは言いませんが…今回は、少々イレギュラーでしたからな…」


 護衛の方を庇うならば、一人はドアが開かないよう抑えていたし、もう一人はウリネを止めようと腕を掴んだ。

この時点で侵入は難しかっただろうし、罠が発動しなければ問題無く使命を全うしていたはずなのだ。


「聞けば、問題はウリネの方にあるようじゃしな」

「以前からアリアに絡んで行ったりと問題行動が見られましたな。…ロブ、ウリネの裏については?」


 アリアとウリネの件以降、ロブにウリネの調査を進めさせていた。

それがどうなったかと尋ねれば、ロブは腕を組んで首を振る。


「他家と接点があるようには見えんな。腹芸が出来る性格とも思えんし、繋がりがあれば簡単に割れそうなもんじゃが」


 少なくとも、ロブの調査では何も無かった。

ウリネにそれを隠し切るだけの技能があるとも思えない。

…聞けば聞くほど、ウリネと言う人物が見えなくなってくる。


「しかし、ハンスさんの補佐やクレア様直属のメイドになりたいと言うのは、他家の存在を匂わせます」


 グレイスの言う通り、怪しい言動もあるのは確か。

ふむ、と頷くとロブは自身が調査した内容を伝える。


 ウリネはこの領で産まれ、この領で育った。

親は商人であったが、移動中に魔物に襲われて亡くなっている。

本人は騎士団に救われたものの、その後は孤児院で生活。

五年前にメイドの募集を掛けた時から勤め始め、現在へと至る。


「…孤児院での様子は?」

「あまり社交的では無かったようでな。当時の様子は物静かな子供だったと聞いている」


 孤児院の方も貴族の手が入っているような場所ではない。

支援しているのは辺境伯家だし、繋がりがありそうな貴族と言えば、むしろオード辺境伯の方となるだろう。


「……グレイス、今ウリネはどうしていますか?」

「事情を聞くまでは部屋の中に留めておくつもりです。暫くは謹慎して貰いましょう」


 部屋の前には見張りも配置されている。

経緯はどうあれ、強引にクレアの部屋に入ろうとしたのは確か。

それなりの罰を与える必要があった。

…いや、この後の推移次第ではクビの可能性もあるだろう。


「…ともかく、ロブは引き続き調査を。ニールは警備体制の強化、グレイスはメイド達に不審な動きが無いか目を光らせておいてください。事情聴取はロブの再調査が出た後としましょう」


 それぞれが頷いて答え、本日は解散と言う流れになった。

本人から事情を聞くのもいいが、背後に貴族が居るのなら素直に答える事は無いだろう。

ならば、言い逃れ出来ない根拠を得てからの方がいいと言う事だ。


「―――――……」


 皆が席を立ち上がり始める中、アリアだけは僅かに首を傾げていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ