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元AI少女の異世界冒険譚  作者: シシロ
グロームスパイアの変
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第26話 メイド契約

 アドモンが去った後、アリアは改めてオード辺境伯と話をする。

今後の契約についてである。


「先ほど言った通り、表向きはメイドとして働いて貰おうと考えている。役割はクレア付きのメイド兼、ハリスの補佐だ」

「どう言った仕事内容になるのでしょうか?」


 紅茶を含み、オード辺境伯は少しだけ心を落ち着ける。

クレアの事と言い、先ほどアドモンと言い合った件と言い、精神が高ぶっている自覚があった。


「難しく考える必要は無い。建前上はクレア付きのメイドだが、仕事内容としてはクレアの体調管理だ。その他の事に関しては別のメイドに任せていい。ハリスの補佐にしてもそうだ。君が現場を離れている間、ハリスに仕事を任されたと言い訳出来るようにする為の建前だ。その時間は錬金術の研究に当てるといい」


 つまり、錬金術の勉強をしつつ、クレアの体調管理をするのがアリアの仕事と言う訳だ。

メイドと言うのは本当に表向きの物でしかないらしい。


「口裏を合わせる為にも、職場を離れる際はわたくしめに一言下さりますよう、お願い致します」

「以前言った条件、一つはもう必要無くなってしまったが、作成した薬の報告は忘れずに行ってくれ」


 以前は、魔瘴病の薬作成と、作った薬の報告が条件だった。

魔瘴病の薬が存在する以上、こちらの条件は無くなった訳である。


 この話、アリアとしては望ましいものである。

ただ、一つ確認しておきたい事がある。


「メイドとは、住み込みでしょうか?」

「気になっているのはモリィの家か?」

「はい。お墓もありますので」


 そう答えたアリアの袖を、フォックスが引っ張る。

そちらを見れば、フォックスがなんだかドヤ顔をしているようであった。


 フォックスの加護により、街からモリィの家へのルートには魔物が近付かない。

同じように、家にも魔物が寄り付かないのだ。

あと寄って来るとすれば人間であるが、フォックスの手に掛かれば家に辿り着けないようにする事も出来る。

なんとも便利な存在である。


 部分的に理解出来ない所はありながらも、フォックスから問題無いと言う意思だけは受け取れた。

元々モリィと住んでいたフォックスがそう言うのである。

であればと、アリアはそれを信じる事にした。


「……どうかしたかね?」

「いえ、解決しましたので、住み込みで働けます」

「…そうか」


 まだ精霊の事を聞いていないオード辺境伯からすれば、良く解らない反応である。

ただし、この娘に限っては一々気にしていられないのも事実なのだ。

そこかしこに不自然さを抱えているのが、このアリアと言う少女なのだから。


「…そういえば、先ほどは見事なカーテシーだった。どこで教わったのだ?」


 アドモンの前で見せたカーテシー。

プロから見ても遜色のない、見事なものだった。

明らかに教育を受けている――――そんなオード辺境伯の推測は、あっさりと裏切られた。


「このお屋敷に来た際、リゲル騎士団長にメイドさんがしていました。それを真似ただけです」

「……それだけ…か?」

「はい」


 アリアの事情を知られないよう、アリアの対応はオード辺境伯とハリスのみで行った。

彼女がメイドに出会えたのは、この屋敷に来た瞬間だけ。

言っている事に矛盾は無いが、やっている事に矛盾がある。

たった一度見ただけで、それを完全に再現して見せたと言っているのだから。


 一言でカーテシーと言っても、バランスや見せ方、身体全体の動かし方など細かい決まりが多い。

それが教育されたものか、真似たものかなど一目見ればすぐ解るものだ。

……その認識を、一撃で木っ端微塵にしたのがアリアである。

アリアが元AIであったからこそ出来た芸当だと言えるが。


 逆説、教育を受けた者なら一度見て再現したなどとは言わない。

それがどれだけ難しいかを知っている分、言える訳がないのだ。

故に、アリアの言った事は事実なのではないかとオード辺境伯を混乱させた。


「……ハリス、一応、メイド教育は頼む」

「承知しました。メイド長のグレイスにお願いするとしましょう」


 うむ、と頷いて、オード辺境伯はアリアに目線を合わせる。


「信頼出来る者には君の事を話しておくつもりだ。グレイスもその一人」

「他にはどなたが?」

「私とハリス、騎士団長のリゲルには会ったな? 他にはメイド長のグレイス、料理長のナッシュ、庭師のロブ。最後に、幼少期からクレアに付いていたメイドで、セーラだ。クレアを入れたこの八人だけしか知らないと思ってくれ。もし困った事があれば、この誰かに相談して欲しい」


 なるほど、と呟きながらアリアは考える。

…要するに、今の辺境伯家にはたった八人しか信頼出来る者が居ないと言う事だ。

ここだけ聞いてみても、辺境伯家の現状が見えて来る思いである。


「さて、君の方にも準備があるだろう。三日後からでどうだろうか?」

「それだと、クレアさん…クレア様の容態が確認出来ません。本日からクレア様に付き、状態が安定している間を見計らって準備を進めます」

「それは勿論有難いが……それで大丈夫なのか?」


 アリアはコクリと頷き、続ける。


「今は悪い魔力を排出している段階ですが、浸食された魔力が一緒に排出されてしまう場合があります。今が一番不安定な時期とも言えるでしょう」

「それは危険な状態なのか?」

「先ほどお伝えした通り、命の危機は脱しています。ただ、浸食された魔力の放出は再発の予兆でもあり、早くに対処出来なければ本人は苦しい思いをする事でしょう」


 その予兆を見逃せば、クレアを無駄に苦しませる事になる。

アリアとしてはそれを避ける為の提案であった。


「…気を使って貰い感謝する。ハリス、部屋の用意を。それと、準備を手伝う人員を用意してくれ。雑用ならその者にやらせよう」

「畏まりました」


 オード辺境伯に言われ、即刻出て行こうとするハリスの背に、アリアは声を掛けようとする。


「いえ、私一人で―――――」

「人の手を借りた方が早い。その分、クレアの事を診てくれればそれでいい」

「…そう言う事であれば、解りました」


 実際、アリアが爆走した方が早い可能性が高いが。

とは言え、そんなものが突っ走っていたなら、街の住民にとっては迷惑な話であるし、オード辺境伯のこの判断は非常に正しいものだっただろう。


「それと折を見てガリオンさんにご挨拶と、一度だけ家に戻ります。持って来ておきたい物もありますので」

「解った。その時はガリオンを連れて行くといい。運搬ギルドの人間だし、力になってくれるだろう。行く時には私に声を掛けてくれ。私からの書状を渡せば話が早い」


 ありがとうございます、と頭を下げるアリア。

それを見て頷くオード辺境伯は気付いていないだろう。


 これからアリアに求められるのは、クレアの健康管理と錬金術師としての勉強。

言葉で聞けば簡単である。

だがまさか――――錬金術師としての勉強に、筋力トレーニングが含まれているなど、誰が考えるだろうか。




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