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元AI少女の異世界冒険譚  作者: シシロ
グロームスパイアの変
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第15話 アドモンの狙い

 アリアの優先順位とは何か。

まずは自分の生存。

アリアは生を尊び、生きている事に価値を感じるからだ。


 錬金術を失わせない事。

これはモリィの遺したものを失わせない為。

そして、文化や技術が失われる事を惜しむ故。


 最後に人の為に尽す事。

これは元AIであるアリアの本能とも言えた。


 本来なら法の遵守も追加されるべきであるが、生憎アリアはこの世界の法律を知らない。

つまり、上記三つのみが彼女の行動原理。


 アリアに害を及ぼす事は彼女の生を脅かす事。

失敗作とは言え薬を奪おうとするのなら、それは文化や技術の破壊とも言える。

錬金術の発展が人の為になると信じるアリアにはこれが許せない。


「少々お仕置き致しましょう」


 何やらやばいと察した男達が後退る。

しかし、アリアはやると決めたらやり遂げるAIなのである。


「待っ―――」


 代表格と思われる男が制止しようとするも、その時にはすでに遅かった。

突如としてアリアが消え、制止した男以外は吹き飛ばされて地面へと叩きつけられていた。


「…うそ…」

「筋肉が足りませんね」


 我を通すなら筋肉を付けねばならない。

アリアがこの世界で学んだ事である。

なお、それが正解であるかどうかについては疑問の余地がある。

 それと、筋肉量で言うなら確実に男達の方が多い。

身体強化で補っているものの、アリアの筋肉は見た目相応でしかないのである。


「お帰りになるか続けるか、お答え頂けますか?」


 無表情で首を傾げるアリア。

この状況でその仕草はただただ怖いだけである。

本人としては和やかに問い掛けたつもりではあるのだが。


「かっ…帰ります! 今すぐ帰らせて頂きます!」


 アリアは、脱兎の如く逃げ出した男の襟首を捕まえる。

かひゅ、と呼吸が止まる音と共に、男は耳元にアリアの気配を感じた。


「お連れの方を忘れないで下さいね?」

「ッ……! は、はいぃ!!」


 なんとか仲間を引き摺りながら、男達はこの場を逃げ出したのであった。


 さて、それを見送ったアリアであるが、腕を組んで彼等の要求について考える。

強盗してまで薬を奪おうとするのである。

ひょっとしたら、薬が足りなくなる事態が起きているかもしれないのだ。


「……やはり、しっかりとした完成品を作らねばなりません」


 決意を胸に、アリアは再び逆立ち歩きを開始する。

彼女は錬金術の失敗を、筋肉が足りない所為だと思っているのである。


 一部始終を見守っていたフォックスは、また始まったとばかりに欠伸した。





「追い返されただと?」

「はい…そのようで…」


 アドモン・レオナレスは部下からの報告を聞き、苛立った様子で聞き返した。


 薬師局の奥に用意された執務室は、今やアドモンの私室であった。

至る所に高価な美術品や貴金属が置かれており、しかし、そのセンスはお世辞にも良いとは言えない。

ただ高い物を集めただけの統一性の無い部屋でしかなかった。


「たった一人の小娘に、ゴロツキを五人も雇ったのにか?」

「は、はぁ…その通りです…」

「その通りです、ではないのだ!!」


 アドモンは飲んでいたワインを部下へとぶちまける。


「も、申し訳ございません!」

「小娘一人に何をしているのだ!」


 アドモンが思い浮かべるのは、以前出会った少女―――アリアである。

他に思い当たる人物などいない。

アドモンからすればただの非力な少女であり、男五人が追い返されるような相手には見えなかった。


「ゴ、ゴロツキ共が言うには、小娘が薬を作ったとの事で…その、手荒に扱ってはいけないかと思ったと…」

「作っただと?」


 勿論、ゴロツキ達の言い訳でしかない。

彼等はアリアに一蹴されただけであり、手加減する間すら無かった。

ただ、アドモンにとって重要なのはそこではない。


「……ならば攫うか。仕事を引き受けそうな当ては?」

「グ、グロームスパイアの…それも、家のある場所まで踏み入れる者がそもそも少ないので…」


 未開拓地と言うのは、危険度に応じてランク付けがされる。

危険度のランクはD~S。

モリィの家があるグロームスパイアは中腹でさえAであり、アリアの見た赤い花の咲く辺りはSに相当する。

アリアが生まれ落ちたあの場所は、歴史を見ても数人しか辿り着いた事の無い場所なのであった。


「錬金術師の家は中腹より手前とは言え、それでも相当な力が無ければ…」

「ババアが一人で住んでいたのだぞ? 運搬ギルドの男も通っていたんじゃないのか? 全く、下らん噂に惑わされおって」


 アドモンはそのランク付けに問題があると睨んでいる。

様々な機関が検証を行ってはいるのだが、それが間違っていると信じて疑わない。

根拠はモリィが平然と住んでいた事だ。


「し、しかし…ワイバーンは毎年何度も確認されていますし、フェルグリムも…」

「奥地はそうかもしれんが、手前の方がそれほど危険とは思えんな」


 と、このように取りつく島もないのである。

ちなみに、フェルグリムとはアリアが倒した巨大な熊だ。

フィジカルに特化した凶暴な魔物であり、本来であれば騎士団が出動するような相手なのであった。


「ですが―――」

「もうよい! 我が家から私兵を出す! 下らんバカ共に金など払うんじゃなかったわい」


 部下の言葉は結局届かず、アドモンは捕まえた後の事を考える。

オード辺境伯の娘、クレアの病気を治せばアドモンの息子との縁談が行われる。

命を救われた以上、向こうも無碍には出来ないはずだ。


(ようやくチャンスが巡って来た…)


 薬師局で作らせた新薬はどれも効果が無く、オード辺境伯は認めないだろうが、恐らくは錬金術師の薬で命を繋いでいたのだろう。

何度かモリィに薬を作らせようとしたものの、送った使者が帰って来る事は無く、手をこまねいている内にモリィの死が伝えられたのだ。

そうなれば、オード辺境伯が頼るのは薬師局しか無い。


(まぁ、少々手違いもあったが…)


 薬師局ではモリィの薬を研究していた。

モリィの薬を再現し、クレアの命を繋ぐ事で恩を売りつつ研究費用をせしめ、最終的に完治させると言う計画であった。


 だが、薬の再現は非常に難しく、一応の効果を示したのはモリィの薬が滞り始めた頃。

ロクに検証も行われないまま、しかし今がチャンスとアドモンは薬を手土産にオード辺境伯を尋ねた。

しかし、再現品を使用しても症状を緩和出来ず、クレアの症状には一切の効果を示さなかったのだ。

結果、解決策のないままクレアは死の淵まで追いやられた。


 そこを救ったのが、またもや錬金術師の薬であった。


「…闇市で売った薬は?」

「どれも売れてしまった後のようで…」


 モリィの薬が品切れの中、闇市では錬金術師の薬に高い値段が付いた。

だからこそ、再現品が手元にあると思っていたアドモンは、それがどんな薬か確認する事もなく、目先の利益の為にアリアの持っていた薬を売り払ってしまったのだ。


 それを買い取ったのがクレアを救った藪医者である。

再現品が効かぬと解った段階で買い戻させようとしたものの、その時にはすでに遅かったのであった。


「忌々しいが、小娘を手に入れれば巻き返しは利く。息子が次期領主になる訳だ」


 オード辺境伯の子はすでに他界している。

残された血筋は孫のクレアのみ。

そんな家に婿養子に入ったとなれば、実質的な乗っ取りが行えると言う事に他ならない。


(薬の製法さえ手に入れば用済みだ。時間さえあれば我が薬師局でもクレアの病ぐらい治せる。必要な情報だけ引き出し、小娘は売り払ってしまうか…。いや、わしのおもちゃとして飼ってやってもいいな…)


 アリアの姿を思い出し、アドモンの口がいやらしく歪む。

ククク、と不気味な笑いを浮かべ、部下を大いに気味悪がらせた。


「よし、兵を連れてわし直々に行ってやるか」

「は!?」


 アドモンはグロームスパイアを甘く見ていた。

そして何より、アリアをただの小娘と舐め切っていたのだった。




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