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元AI少女の異世界冒険譚  作者: シシロ
グロームスパイアの変
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第11話 前途多難

 あの後、アリアは事情聴取の為に守衛所まで連れて来られた。

絡んで来た男達の方はと言えば、気を失ってしまっていたため別室へと運ばれて行った。


「つまり、絡んで来たのは相手側と言う訳だな」

「周りの証言とも一致していますし、信用してもいいのでは?」


 そんなやり取りをしているのは、最初に現れた中年の門兵と新人らしい若い門兵だ。

アリアはそんな様子を他所に、守衛所の中を観察している。


 守衛所の中は石が露出し、家具の殆どは木製である。

明かりもランプなどの火に頼ったものばかりであり、この街の生活がどのようなものかを連想させた。


「―――で、アンタはこの街に何しに来たんだ?」

「アリアです。…錬金術師のモリィさんが亡くなったので、そのご報告に」


 それまで書類を書いたりと忙しなくしていた二人が、ピタリと動きを止めた。


「……錬金術師と言ったか?」

「…? はい」


 アリアに厳しい視線を向けたかと思えば、二人でヒソヒソと相談を始めてしまった。

訳が分からないまま、アリアはフォックスと見つめ合う。


「行ってきます」

「ああ…」


 何か決まったらしく、若い門兵が守衛所を後にした。

随分と慌ただしかったが、何があったのかとアリアは訝しむ。


「アンタはその錬金術師とどう言った関係だ?」

「迷っていた所を助けて頂きました」

「…アンタも錬金術師なのか?」


 生憎、少し教わっただけのアリアである。

一瞬だけ考えてみるものの、錬金術師を名乗るだけの実力は無いだろうと首を振って見せた。


「…そうか」


 そうとだけ答えて黙り込む門兵。

アリアとしては意味が解らず、首を傾げるばかりである。


 そのまま無言の時間が続き、アリアがフォックスの尻尾を撫で始めた頃、その男は現れた。


「錬金術師が死んだだと!?」


 ドアを乱暴に開き、ドタドタと入って来たのは太った大男。

鎧を着ている訳でもなく、中世貴族を思わせるような恰好から裕福層の人間なのではないかと思われた。

指に嵌められた金の指輪を見てもそれが伺える。


 尤も、地球を知るアリアの感性からすれば、それほど高価な品には見えなかったのだが。


「アドモン殿、突然入らないで頂きたい!」

「黙っておれ! 情報源はそこの女か!?」


 入って来た大男はアドモンと言うらしい。

止めに入った門兵を押し退け、アリアへと詰め寄るアドモン。

強い剣幕で来たかと思えば、今度はアリアを上から下まで舐め回すようにして見ている。


「おい女。お前何者だ?」

「アリアです」


 淡々と答えるアリアに対し、アドモンはグイと顔を寄せる。

思わず顔を退けば、アドモンの口がいやらしく歪んだ。


「あのババアは死んだのか? お前が確認したんだな?」

「…あのババアとは?」

「モリィとか言う錬金術師だ」


 男達に言い寄られた時にも感じた『フツフツ』を、再び感じるアリア

それがイラ立ちや怒りだと言う事を、彼女はまだ理解出来ていない。


「確かに亡くなりましたが…」

「…ククッ、こりゃあいい!!」


 大袈裟に笑うアドモンを見た時、アリアの頭に『醜悪』と言う文字が浮かぶ。

知らず知らずの内にアリアの目が細められ、そこに攻撃的な色が灯った。


 一頻り笑い終えると、アドモンは再びアリアに詰め寄った。


「お前はあのババアのなんだ? お前も錬金術師か?」


 アドモンの質問に答えず、アリアはじっとアドモンを見つめる。


 アドモンを見ていると、胸の辺り、あるいは腹の辺りが冷えるような感情を覚える。

いや、冷えているのか煮えたぎっているのか、正確に判断する事が出来ない。

ただ、嫌な感じであるとは思っている。


「…違うそうですよ。迷っていた所を救って貰ったとか」

「ふん…違うのか」


 見兼ねた門兵が答えれば、アドモンはどこか残念そうにアリアを見た。

だが、すぐに部屋の隅に向かって歩き出すと、そこに置かれていたアリアの荷物を漁り始める。


「アドモン殿! 調査権はアドモン殿には無いでしょう!!」

「錬金術師の知り合いとなれば、薬師局も無関係ではないわ!」


 好き勝手に振る舞うアドモンと、それを抑えようとする門兵。

どうやらあまり仲が良い訳ではないらしい。

 アリアとしても中を見られて困る事は無いが、ああも雑に扱われると気分の良いものではない。


(筋肉で訴えましょうか…)


 そんな考えが浮かんで来た時、アドモンがアリアの持っていた薬品を掴んで門兵へと見せた。


「この女、こんなものを隠していたぞ!」


 別に隠してなどいないが、アドモンにはそのように映ったらしい。


 アリアの持っている薬品は三つ、傷を治す為の薬、病気を避ける為に免疫力を高める薬、それと虫避けの薬だ。

傷薬と虫避けに関してはモリィの遺した錬金術の書に書かれていたものであり、それを見ながらアリアが作ったものだ。

免疫力を高める薬は、それらの知識と地球の知識を掛け合わせ、アリアが試作してみたものである。

一人で街に向かうに当たって、念の為用意していたものだ。


「これは…?」

「魔薬以外になんだと言うのだ?」


 魔薬とは何か。

ここに来てからずっとアリアは置いてけぼりである。


 そんな事は露知らず、何やら勝ち誇った様子でアドモンがアリアに薬を見せつけた。


「これは何だ? 何か言い訳はあるか?」


 ゆらゆらと揺らしながら、アドモンはニヤニヤと笑っている。


「言い訳とは?」


 意味が解らず素直に聞き返せば、アドモンの眉間に皺が寄った。

そして、バン、と大きく机を叩く。

それに反応し、今まで様子を窺っていたフォックスが『グルル』と唸った。


「これは魔薬だろう! 違法な品を持ち込んだんじゃないかって聞いてるんだ!!」


 法律もそうだが、魔薬がどんなものなのかも知らないのがアリアである。

アドモンの様子から冷静に話し合いは難しいと判断し、門兵の方へ視線を向けてみる。


「魔薬とは魔物の素材を使った薬品だ。使用し続けると人を魔物に変えると言われている」

「そう言う事であれば違います」


 アリアが持つ薬品に使われているのは、あくまで自然由来のものだ。

モリィの本には素材についての説明も書かれていたので間違いない。

魔物由来の素材など使用されてはいない。


「どうだかな! こいつを牢に入れておけ!」

「…アドモン殿、さすがに越権行為ですぞ」

「この薬品がどんなものか調べる終わるまで、この者を放置しておくわけにはいかんだろう?」


 門兵はアドモンを睨みつけるが、アドモンはフン、と鼻で笑うだけだ。


「後は任せたからな!」


 そう言うと、アドモンは薬品を手に部屋を後にした。

出て行く時も乱暴にドアを閉め、近くにあった書類が宙を舞った。


「…ハァ…。すまないな、嬢ちゃん」


 何を謝られたのか解らず、アリアは首を傾げる。


「アドモン殿の事だ。薬師局の長でな、薬に関係する事はあの人を通す事になっているんだ」


 薬師局と呼ばれるものの詳細までは解らないものの、恐らくは医療に関する行政機関なのだろうとアリアは理解する。


「…錬金術に関する事も、一応は薬師局の管轄でな」

「…そうですか」


 何やら横暴に振る舞っていたが、この街の役人とはあのような感じなのだろうか。

無意識ながら、役人に苦手意識を持つアリアであった。


「気分を悪くしたなら悪かった」


 そう言って門兵は頭を下げる。


 もしこの場に彼が居なかったなら、アリアは間違いなく筋肉での対話を行っていた。

大惨事を避けられたのは自分のお陰だったなど、門兵は気付いていないだろう。


「気になさらないで下さい。それより、牢に入れるとか仰っていましたが…」

「バカバカしい話だ」

「しかし、魔薬の持ち込みは違法なのでしょう? 疑いがある以上、あの人の言う事にも正当性はあると思います」


 一瞬、門兵が片眉を上げる。

アリアをじっと見ていたかと思えば、頭をガリガリと搔いた。


「あまり法律に詳しく無いらしいな?」


 少し呆れた様子ではあったが、門兵は魔薬に関する法律について教えてくれた。


 魔薬に関して禁じられているのは大きく二つ。

 一つは魔薬の服用。

魔薬と言っても服用される薬だけでなく、家具などに塗ったり、装備の補強に使われる事もあるらしく、用途は様々であるらしい。

だからこそ、服用に関してのみ違法として扱われるのだとか。

 もう一つは偽装。

普通の薬と偽って販売、譲渡する事を禁ずる法律で、間違って服用させるような事が無いようにと作られた法律であるらしい。

 つまり―――。


「仮にあれが魔薬だったとしても、私の行動に違法性は無いと言う事ですね」

「そうなるな」


 アリアはあの薬を飲んだ訳ではないし、誰かに売ったり譲渡したりはしていない。

例え魔薬であったとしても罪には問えないのである。


「理由も無く牢に入れるなんて出来んよ。…ただ、変なのに目を付けられたのは確かだ。悪い噂もあるし、他に行く場所があるなら街には寄り付かん方がいいと思う」


 そう言われ、アリアはもう一度方針を考え直すのであった。




アリアが持っていた薬が魔物避けの薬となっていたのを修正しています。


理由として

①魔物避けの薬は存在するが、下級の魔物にしか効かない。

グロームスパイア周辺に下級の魔物が存在しない為、この薬の効果は無いに等しい。

②嗅覚に訴えかけるものなので、嗅覚の無い魔物には通用しない。

③錬金術師の薬なので、知っている人が殆ど居らず、知名度が低い。


これらの問題を抱えている薬であり、後に作る魔物避けの薬とは別物となっています。

この先触れるかも怪しい設定なので、いっそ虫避けに変えてしまった方が解り易くて良いかと考えました。


以上の事、ご理解頂ければ幸いです。

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