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元AI少女の異世界冒険譚  作者: シシロ
グロームスパイアの変
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第9話 遭遇戦

 家を整理し必要な物をまとめた後、アリアは家の外へと出る。

今後この家がどうなるかは解らないが、今やるべき事は済ませただろう。

このまま家を放置するのも忍びないが、モリィの事も早めに知らせなければいけない。

この世界に死亡届けのようなものがあるのかは解らないが。


 その辺りの事をフォックスに尋ねてみたものの、返って来るイメージは意味の解らないものばかりだった。

結局、直接行くしかないと言う結論になった訳である。


「他にやり残した事はありませんね?」

「わん!」


 フォックスに問い掛ければ、フォックスは元気よく吠えた。

アリアと契約してから、フォックスは少し活発になっている。

どうも、モリィが弱っていた為にフォックスにも影響が出ていたらしい。


 肩に乗るフォックスの尻尾を撫でながら、アリアは腰に下げたバッグを見つめる。

中にはナイフと幾つかの薬品、食料や水、持ち歩けるサイズの調合器具、最後にモリィが遺していたお金だ。

勝手に貰っていいものかとフォックスに問い掛けると、構わないとばかりに頷いていた。

ただ、フォックスが法律と言う物を理解しているかは怪しく、窃盗にならないと言う保証はないのだが。


「お金の価値は解りませんが、これはガリオンさんに聞いてみましょう」


 目指すは下流にあると言う街。

そして、そこでガリオンにモリィの事を伝える。

具体的に決まっているのはこれだけだ。

その後どうするかを決めるにも、今持っている情報では何も判断が出来ない。


「何かお金を稼ぐ手段を見つけないといけませんね」

「わん!」


 フォックスが同意したのを確認すると、アリアは扉に鍵を閉める。

そして、モリィの墓へと向き合った。


「…行ってきます」


 そこにモリィが居るかのような、そんな態度でアリアは接する。

自分自身、まだモリィの事を整理しきれていないと解っていながら、そうする事をやめられない。

人間とはなんと複雑な生き物なのだろうと、ここ最近のアリアは頭を悩ませるばかりであった。





「この川を下って行けば街ですね」


 モリィの家には周辺を描いた地図があり、それはアリアの頭にインプットされている。

なんなら、整理しながらもモリィの家にあった書物は全て記憶していた。

錬金術について書かれた本を置いて来たのも、その全てを覚えているからだ。

同時に、何時か戻って来ると言う無意識での判断だったのかもしれない。


「グルル…!」


 不意にフォックスが唸った。

視線をやれば、川辺に向かって睨み付けているようである。


 何を見ているのかとそちらを向けば、大型の熊がこちらを振り返る所であった。


「…熊と出会った時は、背を見せず後退する事が重要です。追い掛けて来るようであれば、身体を大きく見せる事で相手を威嚇します」


 そんな事を呟きながら、ゆっくり後退るアリア。

だが、熊はそんな様子を意に介する事なく、牙を剥き出しにして突進して来た。


「異世界では通じないようです」


 咄嗟に身体強化を行い、その場から飛び退く。

近くの木に飛び上がり、枝の上に着地した。


「やはり地球の常識は必要ありませんね。であれば、この世界の常識で対応しましょう」


 アリアが知るこの世界の常識。

つまり筋肉である。

え? と言う顔でフォックスが振り向いた。


「まだトレーニングは行えていませんが、高度からの攻撃であれば多少は補えるでしょう」


 アリアの中での最重要課題、まずは生き残る事である。

モリィの為にもこんな所で死ぬ訳にはいかないのだ。

故に、障害となるなら撃滅する事に躊躇いは無い。


 ダン、と激しい音と共にアリアが飛ぶ。

その衝撃に耐えられず、木が圧し折れた。


 空中を舞うアリアは格闘技の知識を活用しながら、力の流れを意識する。

一切無駄の無い、打力を伝える為の挙動。

空中でそれを行うなど想定されている訳もないのだが、しかし正確にそれが行われた。


 高速で降って来たアリアの足が、熊の額を捉える。

ゴキャ、と言う鈍い音と共に、その巨体が吹き飛んだ。


「……」


 まだ動くかと警戒していたアリアだったが、ピクリとも動かない熊を見てそっと近づく。

覗き込めば首がおかしな方に曲がっており、額は陥没してしまっている。

明らかに致命傷だ。


 生き物を初めて殺したアリアであるが、そこに感傷は無い。

アリアが第一に考えるのは人間。

今は自分の命である。


「…随分と大きな熊ですね」


 五メートルぐらいはあるだろうか。

牙も爪も鋭く、地球上に存在したどんな生物よりも危険に見える。


「わん!」

「熊ではないのですか?」


 流れ込んで来たイメージから察するに、これは熊ではないらしい。

なるほどと、アリアは頷き、納得する。


 イタチが犬だったり狐だったり精霊だったりする世界だ。

見た目で判断してはいけないのである。

フォックスが必死に首を振るが、アリアの視界に入っていない。


「何にせよ、筋肉の有用性が実証されました。今後は積極的に鍛えるとしましょう」


 すでに恐ろしいまでの力を発揮しているのだが、この世界の事を知らないアリアはそれに思い至らない。

魔力を完全制御し、無駄なく筋力を強化する力。

そして、身体を正確に操作し、攻撃力を最大限に発揮する体術。

そのどちらもが、アリアに強靭な戦闘力を与えていた。


「では急ぎましょう。日が暮れると道を見失ってしまうかもしれません」

「クゥン…」


 熊の屍を放置し、アリアは川を下り始める。

フォックスは熊を振り返りながらもアリアに続いた。

その目は同情の念さえ感じるものであった。


「トレーニングを行うには器具の生成も必要となりますね…」


 これだけの強さを持ちながら、アリアは更に高みを目指すようである。


「わう…」


 もういらねぇよと言う気持ちを込めて、フォックスはアリアの頭に手を乗せる。

だが、アリアにその気持ちが届くことは無かった。




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