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病弱な令嬢は公爵家で暴れる  作者: 珠音


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病弱令嬢と、恋をしているかもしれない令嬢

宜しくお願いしますm(_ _)m

セドリックが来たのはどうやら仕事の話らしいのでその場はフィリクスに任せることにして、マリーはその足でブティックに連絡をするようにイーサンに伝えに行った。

カレンが希望したドレスがまだあるか確認する為だ。

すると「お返しに」と、イーサンから一通の手紙を渡された。


「手紙?マーゴット侯爵……令嬢??」


差出人を確認すると、手紙はマーゴット侯爵の令嬢ロザリー嬢からであった。



誰だったかしら??



はて。と、マリーは首を傾げた。


「旦那様宛……では、ないわねぇ」


思い当たる節がないマリーは受取人を確認するも、宛先にはマリーと記されている。


「何かの招待状かしら」


何故だかイーサンがじっとりと視線を送って来る。

どちらにせよ内容を確認しなければ。

マリーはその場で手紙の内容を確認すると眉を顰めた。


「ロザリー嬢は何と?」


「イーサン……あなた、これはいつ来た手紙なの?」


「一週間ほど前でしょうか」


「どうして早く渡さないのよ?!」


「門前払いで良い案件かと思いまして……ですが、彼女はセドリック陛下にご執心でしたので、一応ご報告しておこうかと」


「……どういう理屈よ」


「まさか陛下が今日いらっしゃるとは思いませんでしたので」


だから、それがどういう理屈なのだと訊いているのだが。

涼しい顔で宣うイーサンに、マリーは怒りを通り越して呆れていた。手紙の封は切られていたし『門前払い』等と言っていることから、イーサンは当然その内容を知っていたことになる。

手紙の内容としては、マリーに相談したい事があるらしいロザリーが屋敷を訪問したいというものだった。しかも、その訪問すると言っている日が今日なのだ。


「返事もしないで……失礼になるじゃないの」


それにしても、一週間後の予定を手紙で取り付けようとする辺り、随分と図々しい気もしなくもない。

しかし、取り急ぎ返事をしなければ。急げば三十分ほどで届くだろう。


「イーサン。便箋を用意して!……まずは謝罪と……ええと、それから……」


「奥様」


「何よ。忙しいのよ」


「ロザリー嬢がいらっしゃいました」


「……へ?」


手紙の文章を考えていたマリーが顔を上げると、丁度呼び鈴が鳴った。

それでも、訪問の許可を出していないのに、まさか来るわけがない。と、思ったが、そのまさかだった。


「どうしますか。お帰り願いますか?」


念の為にと訪問者を確認しに行ったイーサンがマリーに伺いを立てる。


「まぁ、来てしまったのなら仕方ないわ。陛下の馬車は?」


「既に裏手に回してあります。陛下がいらっしゃる事は気付かれてはいないでしょう」


「……あ、そう」


「着替えられますか?」


「うーん。やっぱり着替えが必要かしら?」


「追い返しますか?」


「……どうして、そうなるの?」


「面倒そうなので」


イーサンの言う『面倒』とは、マリーの着替えの事か、それとも他の何かか。


「じゃあ、このままでいいわ……話を聞くだけ聞いて、さっさとお帰り頂きましょうか」


イーサンが物凄く嫌そうな顔をした。どうやら面倒なのは着替えではなかったらしい。



さっきも『門前払い』とか言っていたし、そんなに面倒なご令嬢なのかしら……



イーサンが門前払いしたくなるほど面倒な人物。

さっさと帰って頂くにも、怖い娘だったらどうしようか。

マリーは彼女の待つ応接室の前で立ち止まる。少しだけ開けた扉の隙間から、こっそりとロザリーの様子を窺った。

見た感じは普通のご令嬢だ。

噂の人物ロザリー嬢は緊張した面持ちでちょこんとソファーに座って、落ち着かない様子で忙しなく視線をあちこちと泳がせていた。

何だか落ち着きがない印象だが、相談事がある状態ならばそれも仕方がないのかもしれない。



なんだ、普通のご令嬢じゃない。



どんなご令嬢を想像していたのか、マリーはほっと胸を撫で下ろした。

改めてノックをして扉を開けると、ロザリーがぴょんと立ち上がった。


「奥様!突然の訪問で申し訳ございません!」


ロザリーがぺこりと勢い良く頭を下げた。



普通に良い娘じゃないの。



マリーは拍子抜けした。怖い人なのかと緊張したのが馬鹿らしい。


「いえ。こちらこそ、お返事出来なくて悪かったわ」


「急でしたから、仕方ないです」


急だというのは理解していたらしい。

顔を上げたロザリーを見て、マリーは「あ」と、小さく声を上げた。


「あなた……確か、王城で……」


「覚えていて下さったのですね!嬉しいです」


ロザリーが、ぱっと顔を輝かせた。

それにしても。と、マリーは小首を傾げる。

確かに目の前にいるロザリーの顔は、建国祭の時に王城で見かけた顔だった。


だったのだが―――……


「あの時はお名前も伺わずごめんなさいね。でも、あの……違ってたら、ごめんなさい。少し……雰囲気が変わられたかしら?」


あの時はもっと剣のある感じがしたのだが、今のロザリーにはそれがない。寧ろ、ほわんほわんとしたお花畑にいるような雰囲気を醸し出していた。

恐る恐るマリーが尋ねると、ロザリーははっとしてみるみるうちに顔を青くさせ小さくなっていく。


「も、申し訳ございません。その節は、その……ご挨拶も申し上げずに……」


「ああ、別に責めている訳ではないのよ?でもお会いした時と随分雰囲気が違うから、何かあったのかしらって思っただけなの」


王城で会った時は挨拶どころか目も合わせていなかった気がする。

マリーを無視していた事を失念していたのか、ロザリーは今頃になって狼狽えた様子でもごもごと言い訳をしはじめた。

強引に訪問して来るくらい図々しいのに今更である。それとも天然なのか。どちらにしても、自分本位であることには変わりない。

気不味い空気が漂う中、カレンがワゴンを押して部屋に入って来た。

何となく二人ともカレンが二人分のお茶を淹れるのを静かに見守る。


「それで……今日は、相談があるとのことでしたけれど?」


カレンの淹れてくれたお茶でひと心地ついたところでマリーが切り出した。

ロザリーは手にしたティーカップを置くと、言い難そうにその両手をもじもじとさせた。


「ええ。あの、相談と言いますか、お願いと言いますか……こんなこと、夫人にお願いするのも申し訳ないのですが……」


「何かしら?まずは聞かせてくれるかしら。私に出来ることだと良いのだけれど」


マリーが話を促すも、ロザリーは「あの」とか「その」とか言うばかりで、その先に中々進まない。



もしかして……時間が掛かるのかしら、これ?



勿体ぶっているわけではないのだろうが、ロザリーのこの様子では話を聞き出すまでに時間が掛かりそうだ。

許可もなく押し掛けたところで十分申し訳ないことなのに、ここまで来てもじもじしないで欲しい。

マリーは「申し訳ないついでに早く言ってくれ」と、言いかけた言葉を呑み込む。


「あの……ところで、今日は他にお客様はいらしたりしないのですか……?」



おいっ!!



マリーは心の中で盛大にツッコミを入れた。

こちらの質問に質問で返すとは何事だ。それとも、ロザリーにはマリーの声が届いていないのだろうか。

ロザリーはマリーに返事をするどころか話をそらすような発言をして、しきりに部屋の外を気にしていた。

自分の相談とやらをしに来たというのに、なんで人の家の客を気にするのか。


「……お客様?」


マリーは、はっと手を口に当てた。

先程イーサンから、ロザリーはセドリックにご執心だと聞いたばかりではないか。

まさかとは思うが、相談というのはセドリックのことではあるまいか。

そして、どこからか今日セドリックが屋敷を訪問する旨の情報を手に入れた……とか。



もしかして、王妃として推薦してくれ……とか?!



マリー自身には力はないが、それを求められる可能性は大いにある。



どうしよう!!上手く断われる自信がないわ!!



自慢にもならないが、マリーにはその手のプレゼン力は全くない。頼まれても断わるのが妥当なのだが、それすらも上手く立ち回れる自信がなかった。

結果。ロザリーだけでなく、マリーまでそわそわとしはじめた。

そっとロザリーを窺うと、まるで来客が居ることを期待しているような、期待の入り交じる真剣な表情でこちらを見つめていた。



やっぱり、陛下が来訪していることを知っているのだわ!!



「ぁ……えっと、ああ、お客様ね。今日は……いらして……ないわ。どうして、そんな事を?」


嘘をつくのは苦手だ。平静を装ったが無駄に緊張してマリーの声は上擦っていた。


「そ、う……ですか。ですよね」


しどろもどろなところは怪しまれなかったようだが、ロザリーは明らかに落胆した様子で肩を落とした。


「どうして、我が家の来客を気にするのかしら?」


理由は分かっているが、知らぬふりをして訊いてみる。


「ああっ、申し訳ありません……えっと……また、お会い出来たらいいなぁ……と、思いまして……きゃっ、言っちゃった!」


ロザリーはもじもじくねくねしながら赤くなった顔を両手で隠した。

「きゃっ、言っちゃった!」ではない。

マリーは口を真一文字に結び、静かにロザリーから視線を外した。



どうしましょう。これは、間違いなく『陛下との仲を取り持て』という相談よね。



マリーは確信した。しかし陛下と会いたいだけなら、来るべきはマリーのところではないはずだ。


「マーゴット侯爵令嬢。あの……大変言い難いのだけれど、お会いしたいなら私ではなく……直接伺ったらどうかしら?」


「それが出来たら、こんなに悩んではいませんわ!どこにお住まいかも分かりませんのに……」


「え?」


はて。マリーは小首を傾げた。



住まいが分からない??



陛下ならば王城にいる。

ロザリーは何の話をしているのか。



もしかして、約束を取り付けるのが難しいということを言っているのかしら。



確かに陛下となったセドリックは、以前よりも忙しいはずだ。と、マリーは考えを改めた。


「そうだとしても、私にはお二人の間を取り持つ事は難しいわ。何せ、雲の上の御人ですもの」


「そんな……夫人からしても雲の上の御人だなんて……せめて、お手紙だけでもお届けしたいのですが……」

 

フィリクスであれば二つ返事でセドリックに「会ってやれよ」とか、言いそうだ。

それを想像したマリーの口元が思わず綻びそうになったが、ロザリーの落胆ぷりを目の前にしたら間違っても笑ったりは出来ない。


「そうね。お手紙なら、陛下も……」


「……ジャクリーヌ様に」


「……え?」


「え?」


笑いそうになっていた事も忘れて、マリーはロザリーの顔を二度見した。



今、何か予想していなかった人物の名前が聞こえたような……



「あの……ごめんなさい。今、どなたとおっしゃいました?」


「もちろん、ジャクリーヌ様ですわ。夫人もご一緒でしたよね。セドリック様とも仲良さそうにされていたので、セドリック様にどなたなのか伺ったのですけれど……名前しか教えてもらえず……ならばと思い、ご一緒にいらした夫人にお伺いしようとこうして参った次第ですわ」


何を持って『もちろん』なのかは知らないが、何か吹っ切れたのだろうか。先程まで恥ずかしそうにもじもじしていたロザリーが堰を切ったように喋り出した。


「あ、あの……ロザリー嬢の仰っしゃるジャクリーヌ様とは、あのジャクリーヌ様ですか?」


動揺しているせいか、質問がおかしなものになる。


「夫人があの時一緒にいらしたジャクリーヌ様ですわ」


「あの……それでしたら、その……ジャクリーヌ様は、女性ですが?」


「もちろん、存じ上げておりますとも。ですけど……夫人が驚かれるのも無理もありませんわ。私自身、この感情に驚いているのですもの……でも、あの日……確かに私は運命を感じてしまいましたの!」


「はあ……う、運命……ですか」


「最初は少し気になるくらいだったのですが……会えないからこそ、こう……気持ちが昂ると言いますか……今は、もう……会いたくてたまりませんの!」


話しながら気持ちが昂ったのかロザリーは立ち上がり、まるで舞台女優の様に右手を天へと伸ばし潤んだ瞳でその先にある何かしらを見つめていた。

どんなに見つめてもそこには天井しかないが、きっとロザリーには別の何かが見えているに違いない。


「あの……立ち入った事を聞いてごめんなさいね。その……運命のって……恋愛という意味で、かしら?あの、何ていうか……セドリック陛下は……?」


「……確かにセドリック様に運命を感じていた時期もありましたわ。でもそれは、私の勘違いであったことにジャクリーヌ様にお会いして気付きましたの」


「……あ、そう」


「恋愛かと問われると、私も正直なところ分かっておりませんの……ですから、もう一度お会いして確かめたかったのですわ……ですけどっ!!」


「きゃっ!」


突如、ロザリーが両手を伸ばしテーブル越しにマリーの両手を握った。


「せめて、お友達からお願いしますわ!!」


「……いや、私に言われても」


ぐいぐいと迫るロザリーの勢いに、マリーは思わず仰け反った。


「それとも、やはり……こんな感情を抱く私は……気持ち悪いでしょうか……」


一転、顔色を暗くしたロザリーは、ぱっとマリーの手を離すとソファーに沈み込んだ。どうにも情緒不安定のようである。



まあ、悩み事の内容が内容だけにね……



同性に恋慕の情を抱く。

別にそれが良いとも悪いともマリーは思っていない。ただ、この国では許されていないというだけだ。



どうしたものかしら……



こう見えても悩みに悩んでマリーを訪ねたに違いない。

どんな言葉を掛けても気休めにしかならなそうだし、下手な事も言えない。

塞ぎ込んでいる様子のロザリーを目の前に、マリーは唸った。



お二人の年齢も近そうだし……

別に友人ということなら問題はないのではないかしら?



マリーは顔を上げて口を開いた。


「お茶会……」


「お願いしますわっ!!」


「ひぃっ!」


マリーが提案を言い終わる前に、ロザリーがテーブルを飛び越えてすっ飛んで来た。再びマリーの手を取り握り締める。


「あぅ、でも……ジャクリーヌ様の都合とか、あの……色々と、ぇと……確認を……」


そもそもジャクリーヌはフィリクスの従姉妹であり、今は領地にいるはずだ。直ぐにとはいかない。

しかし、きらきらと輝くロザリーの瞳の勢いに押され、マリーの声は尻窄みになっていった。


その時、部屋の扉が勢い良く開く。

マリーもロザリーも、はっと扉を振り返った。


「貴様っ!マリーから離れろっ!!」


フィリクスである。

何故かフィリクスはロザリーを鬼の形相で睨みつけながらどすどすと迫って来た。


「誰の許しを得てマリーに触れているんだ!」


「へっ?」


「誰の」と言われても、少なくともフィリクスの許しを請う必要はないことは確かだろう。しかし、フィリクスにそんな理屈は通用しない。彼は常に己に忠実に行動している。呆気に取られているマリーとロザリーの間に割って入ると、握られた手を引き剥がした。


ロザリーのフィリクスを見る眼差しは、残念なものを見るそれだったという。











お読み頂きありがとうございました。

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