病弱令嬢、カレンに唖然とする
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あの日以来メイメイがマリーの前に姿を現すことはなく、マリーとしてはもやもやとした時間を過ごしていた。
が。そんなこんなで、登城の当日。
「……何でメイメイもいるの?」
侍女姿のメイメイが当然のようについて来た。
マリーとフィリクス、カレンの三人は呼ばれているので当然。イーサンも従者として、当然と言えば当然だった。
しかし、メイメイは……
「行きたいからじゃ!!だいたい何じゃ、一番の功労者は私であろう?!それを差し置いてお前らは……ふんっ!!」
メイメイがいつもの猫ではなく侍女の姿なのは、動物は城の中に入れないからだ。若干拗ね気味にぷんすかしながらも、勝手について来た自覚はあるのか馬車の中では大人しくしていた。
何なのよ。こっちは本当に殺されるのか何なのか分からなくて、悩んでたのに。
久しぶりに見るメイメイが、以前と変わらない様子であることに安堵しつつ、図々しくも涼しい顔をしていることには腹が立つ。
あの日以降、メイメイを呼び出して真意を確かめることも出来ずに、逆にメイメイを避けるようにしていたのも事実。
ぐるぐると考えていても、結局「あの日聞いた内容は勘違いだった」と、思い込むようにするに至るのである。
「うーん。確かにそうなんだけど……メイメイ、そんなに報奨金が欲しかったのか?」
メイメイは面倒事は嫌だろうと、敢えて呼ばなかったセドリック殿下の気遣いであった。報奨がお金だとは決まっていないらしいが、フィリクスが不思議そうに首を傾げる。
「そんなもん、欲しいわけがあるかっ!!」
メイメイは、ぷいっと顔を背けると口をへの字に曲げてだんまりを決め込んだ。
……拗ねてるだけか。
自分だけ置いてけぼりにされたと思ったのだろう。随分とかわいい事だが、相手にするのは面倒な事この上ない。馬車の中では、実の息子であるはずのイーサンを含んだ四人の生温かい視線がメイメイに向けられていた。
本当にあの悩んでいた時間は何だったんだと思うくらいメイメイらしいメイメイの態度に、マリーの肩の力も抜けた。
と、まあ、そんなやり取りがありつつ王城へ到着すると、謁見の間に向かって五人はぞろぞろと廊下を進む。
途中の廊下の壁には歴代の国王夫妻の肖像画が飾られていて、奥に行くほど時代が古くなって行く。
一番手前には、既にセドリック殿下の肖像画が飾られていた。
少し前に描かれたものなのか今よりもほんの少し若く見えるセドリックが、笑顔で大きな犬の頭を撫でている構図だった。
きっと王妃が決まればまた新たに描かれるのだろう。
歴代の肖像画を眺めながら廊下を歩く。
この国の国王は犬が好きなのだろうか。犬種は違えど、どの肖像画にも一緒に犬が描かれていた。
「うわ。大きい犬」
初代国王と共に描かれていたのは、マリーが背中に乗っても大丈夫そうな大型犬。
「初代国王が愛犬家だったらしくてね、なんでも犬に命を救われたとか、何とか……それ以降も代々犬を飼うのが暗黙の決まりになったと聞いている」
マリーの呟きに、フィリクスがさり気なく説明してくれた。なるほど。それならば、歴代の国王が犬と一緒に描かれているのも頷ける。
「そうなのですね。じゃあ、肖像画に描かれているこの犬が、国王陛下の命を救ったのかしら?」
その二人のやり取りを見ていたメイメイが馬鹿にしたように鼻を鳴らす。マリーからの「声掛けられ待ち」なのか、メイメイは目を細めてちらちらとこちらの様子を窺っていた。
「メイメイ……もしかして、犬が褒められているのが気に入らないの?」
「はっ!そんなわけなかろうっ!」
「私は猫も好きよ?」
「……言うておくが、私は狐ぞ?」
「そう言えば、そうだったわね」
メイメイが呆れた目をマリーに向ける。
以前と変わらない様子で、他愛もない会話が出来たことにマリーは安堵していた。
やっぱり、私の勘違いだったんだわ。
メイメイが私に殺意があるなんて思えないもの。
まだメイメイは何か話したそうにしていたが、その前に謁見の間の扉が開かれた。
急に厳かな空気が漂う。その空気に呑まれたのか、背後でカレンが「ひぃっ」と、息を呑んだのが分かる。カレンが緊張しているのが背中に伝わった。
一行は、静かに部屋の中へ進み出た。
マリーもフィリクスにエスコートされていなければ、手と足が同時に出ていたのではないかというくらいには緊張していた。
さすが旦那様だわ。
緊張なんてしてな……
……ひぃっ?!
歩きながら、ちらっとフィリクスを盗み見したマリーはカレンとは違った意味で息を呑んだ。
なんと、フィリクスはずっとマリーを見ていたのである。しかも何故かほくほくした顔で。
よそ見をしながら、よく真っ直ぐ歩けるものだ。
辛うじて声を出すことは堪えることが出来たが、ここまで来ると笑えて来る。そのお陰なのか、緊張はだいぶ解れていた。
部屋の中ほどまで進み出たところで立ち止まると、程なくして今はまだ殿下であるセドリックがお出ましした。
メイメイが勝手について来た事について、何か咎められるかと思ったが、セドリックはメイメイを認めると彼女が誰なのかすぐに察したようだ。
「君も来てくれたんだね」
とだけ言うと、それ以上の言及はしなかった。
「今日はわざわざ足を運んでもらってすまないな。報奨式という名目で来てもらったのだが、少々内容が込み入っていてね。早速本題に入らせてもらうよ」
報奨式だというのにセドリックは人払いをした。
まだ戴冠式前ではあるが、殿下の言葉は既に国王の言葉なのか、側近を含む騎士たちは不安そうな視線をフィリクスに向けながらも下がって行く。
完全に人払い出来たところでセドリックがおどけたように肩を竦めた。
「あー、何度やっても、この雰囲気は肩がこるね!ね、カレン?」
セドリックとしてはカレンの緊張を解こうとしたのだろうけれど、逆効果だったかもしれない。自分の名が呼ばれた事で、更にカレンは直立不動になってしまった。これにはセドリックも苦笑いするしかない。
「本当だよ。わざわざ登城させて、こんな大袈裟にしちゃってさ」
答えたのはフィリクスだった。人払いしてあるせいか、完全に砕けた調子で腕組みなんかしている。
「まあ、そう言うな。少しは人目にさらさないと、噂も流れようがないじゃないか」
「……で?報奨というのは嘘として、結局どうなったんだ」
「えっ、嘘なの?!」
びっくりして思わず心の声が漏れた。セドリックのきょとんとした視線がマリーに向けられる。
「ああ、すまない。夫人は知らなかったのか」
もしかして、私だけ?と、マリーは振り返る。
イーサンとメイメイは心底どうでもいいという態度だったが、恐らく何のために呼ばれたのか察しているのだろう。
カレンは半ば放心状態で立っている。……恐らく、今の会話は右から左へと流れてしまっているだろう。今の状況を理解しているのかも怪しい感じだ。
「機密事項だろ?まだ完全に安全とは言えないんだ。何かの火種になりそうな情報は伝えていない」
今の状況が理解出来ないのは、フィリクスが話してくれてなかったせいで、しかしどうやらそれは自分を思っての事だったらしいことを理解したマリーは「む」と、フィリクスを見る。
「知っていても、いなくても危険な時は危険だと思いますが??」
確か以前にも似たような事があった気がするのは気のせいか。
「旦那様。何かある時は話して欲しいとお伝えしたつもりでいましたが?」
「えぇ〜……うん。ごめん」
まさかマリーから責められるとは思っていなかったのか、フィリクスがしゅんとする。
「ふふっ。一応は、外に漏らして欲しくない情報だったのでね。あまり責めないでやってくれ」
「あ……も、申し訳ございません!!」
セドリックに言われ、ここが御前であることを思い出したマリーは、かーっと、顔を赤くさせた。
このやり取りを面白がっているのか、セドリックは楽しそうだ。
「では、夫人の為にも改めて説明からしよう……まず、タッセルの爵位を剥奪した今、私は新たな公爵家を起したいと考えている」
広い元タッセル領を国が管理していくのは大変である。セドリックがそう考えるのも頷けた。
領地を分けるのではなく、そのまま上を挿げ替えるつもりなのかしら?
しかも、いきなり公爵だなんて。
それに見合う人間がいたかしら??
マリーは脳内貴族名鑑をぱらぱらとめくっていた。
セドリックがマリーの疑問に答えるように口を開く。
「そう思っていた矢先に、私の兄が生きている事が判明してね」
「……お兄さま?」
「そう。私は全く知らなかったのだが、病死だと思っていた兄は実は生きていたんだよ。なんと、前クリスフォード公爵が、元王妃が兄の暗殺を企てていることを察知して、秘密裏に助け出して保護していたと言うではないか。なので、今日はその件で感謝を伝えたくてね」
セドリックが大袈裟な手振りで「私は知らなかった」を強調した。
前ということは、フィリクスの父親。フィリクスを見ると、何故かじっとりとした視線をセドリックに向けていた。
「では……感謝を伝えられてはいないですけど……そろそろお暇させていただいても?」
「まあ、待て。まだ全然話が終わってない。と、言うか、始まってもいないよ?」
「あと何があるんだよ?もう彼を引き渡したんだから、後はそっちで上手いことやってくれよ」
フィリクスは、さっさと帰りたいらしい。既に半身が後ろを向いている。
「そうもいかなくてね。私としては、王兄となる彼に公爵になって欲しいと考えているのだが……本当に説得するのが大変だったんだよ。最初は爵位すらいらないの一点張りでさ」
その時の事を思い出したのか、セドリックが息を吐きながら額を押さえた。
「まさか、無理強いしたのか?」
「まあ、話は最後まで聞けって」
少し語気を強めたフィリクスに、セドリックが思わず椅子から立ち上がる。
二人のやり取りはまるで家の居間にいるかのようで、最初に感じた厳かな緊張感は既にどこにもなくなっていた。
「いや、まあ……プレッシャーもあるのだろうけれど……兄にどうしたいのかを聞いたんだ」
セドリックが乱暴に椅子に腰を掛け、天を仰ぐように背もたれに背を預ける。天を見つめて「ふっ」と、ニヒルに笑う姿に王子様感はなかった。
「……今までと同じように、公爵家にいたいと言われたよ」
「うちは別に、それでも困らないが?」
「だから、最後まで話を聞けって!それじゃ、うちが困るんだよ」
がばっ!と、食い気味にセドリックが起き上がる。
と、マリーが呆然としていることに気付いたのか「こほん」と、咳払いして一つ息を吐いた。
「そこで、どうして公爵家にいたいのかを聞いてみた」
セドリックが声を落としてそう言うと、そこに集うマリー達に向けて目を細めた。
……ん?
セドリックに視線を向けられて「どきっ」としたが、その視線はどうやらマリーに向けられたものではないらしい。マリーはセドリックの視線の先を辿った。
つつ……と、辿って行くと、その視線はカレンに向けられていた。
「カレン」
「はぃい?」
セドリックがカレンを呼んだ。
まさか自分が声を掛けられるとは思っていなかったのか、カレンの声が変に上擦っている。
「君、公爵夫人になる気はない?」
「えっ……」
突然のセドリックの提案に、カレンだけでなくマリーも「きょとん」である。しかし、マリーとカレン以外の者は特別驚いた様子もない。
カレンの反応にセドリックは「そうなるよねぇ」と、苦笑した。
「だけどね……兄が公爵家にいたいのは、君がいるからみたいなんだよね……」
「セドリック!!」
セドリックが苦笑混じりに言ったその時、その言葉を打ち消すように怒声が響いた。
はっ、と見ると、セドリックがお出ましした扉がいつの間にか開いていた。そして、その奥には何故か真っ赤な顔をしてセドリックを睨み付けている見知らぬ男性が一人。
……え、誰??
マリーより少しばかり身長が高いくらいのその男性は、初対面であったはずだがどことなくどこかで見たような雰囲気ではあった。
「何を勝手に言ってるんだよ!」
驚いているマリーには目もくれず、その男性はずんずんとセドリックに迫っていく。
……どこかで会ったかしら??
声も聞いた事があるような気がする。
失礼ながらまじまじとその横顔を見つめ、正面から見た時に「あっ」と、気付く。
殿下に似ているんだわ!!
表情はなんだか憎たらしい感じだが、そのパーツはセドリックとそっくりだった。表情をきりっとさせて、丸くなっている背筋を伸ばせばもっと似ているのではないだろうか。
もしかして、この方が殿下のお兄様かしら?
フィリクスの父が保護していたというならば、今までは領地にいたのだろう。それでも、そこまでカレンと接点があったとは思えない。
それとも、無理難題で爵位を断ろうって事かしら?
それはそれで、なんて失礼な人なんだとも思う。
マリーはカレンを振り返った。
「カレンは、あの方とお知り合いなの……って、ちょっと、大丈夫?」
カレンはセドリックの兄かもしれない男性を見つめて、これ以上ないほど顔面蒼白になっていた。
「大丈夫?具合が悪いの?」
「……グレ、ン?」
「……え?何、紅蓮?」
カレンは何か呟いたが、乱入して来た男性がセドリックを非難する声が大きくて聞き取れない。
男性はセドリックが何事か耳打ちしたことで、やっと静かになった。
「夫人もカレンも、この姿で会うのは初めてだったかな?」
セドリックが、さも親しげに男性の肩を抱く。
「この姿で」も、何も「そちらはどちら様?」である。
「こんな登場で驚かせてすまないね。こちらが私の兄のグリンバルだ。君達はグレンと呼んでいたと思うが」
「……ぇ、グレン……って、あの?」
黒尽くめの??
天井裏が定位置の??
マリーは驚愕でグリンバルと呼ばれた男をじっと見つめた。
彼はセドリックに肩を抱かれ、バツが悪そうにそっぽをむいている。
何しろ今まで、目元しか見たことがなかったのだ。急に、これがグレンだと言われたら「そうですか」としか言いようはないのだが。
「じゃあ、今まで……殿下に護衛をしてもらってたってこと……?」
知らぬこととは言え、なんてことをしていたんだ。さぁーっと、血の気が引いていく。
旦那様は、知っていてそんな仕事をさせていたの?!
マリーが批難のつもりでフィリクスを見ると、目が合ったフィリクスは嬉しそうに、にこっと微笑み返した。「にこっ」ではない。
「最初から………」
不意にカレンが何か囁いた。
「カレン、どうしたの?」
「……伸びる芽は……結局、種が違うってことなんですね……」
「何の話をしているの?」
マリーは眉を顰めた。先程からカレンの様子がおかしい。
泣きそうな顔をしているカレンに手を伸ばした。
しかし、マリーの手が届く前に、あろうことかカレンは踵を返した。
「えっ!」
マリーが引き留める間もなく、カレンは謁見の間を飛び出していた。
「ぅ、嘘でしょ?!カレンっ、どこへ行くの……」
流石にカレンの行動は想定外だったのか、誰もカレンを止めることはなく、ただカレンの背中を見送っていた。
お読み頂きありがとうございました。




