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病弱な令嬢は公爵家で暴れる  作者: 珠音


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病弱令嬢と面倒くさい男

「あなたに、こんな勘違いをさせてしまったのは、偏に俺が愛を伝えられていなかったからだ」


「そんな……私が、勝手に勘違いしただけですから、だから……」



だから、膝から下ろして下さいー!!



マリーは、フィリクスの膝の上に乗せられて、ぎゅうぎゅうと抱きしめられていた。


別棟にて、マリーの様子がおかしいと気付いたフィリクスは、イーサンを問い詰めた。

その結果、イーサンが「自分の言葉で奥様が勘違いしたのかも」と、自白し、現在に至る。


この状況だけでも恥ずかしいのに、部屋には二人を囲むようにメイメイとカレン、そしてイーサンがいた。


「それでしたら、寝室を分けずにご一緒にされたらよろしいのでは?」


飄々とイーサンが言う。

話の展開がおかしい。だがこれにはマリーも、どきりとした。

この家に嫁ぎ、かれこれ半年。

なるべく考えないようにはしていたが、実はマリーもその事は気になっていた。


フィリクスの返事が気になり、そわそわと視線を泳がせる。


「それは駄目だ」


きっぱりと言い切るフィリクスに、マリーは俯いた。



やっぱり。



分かってはいた事だが、ここまではっきりと拒絶されると目の前が暗くなっていく。


「そんなことより。イーサン、話を変えるな。お前の所為でマリーが辛い思いをしたんだぞ。きちんと謝れ」



……そんなこと?



確かにマリーもイーサンに「説明は分かりやすく」と、お願いしたのは、つい最近のこと。

それなのに。と、思うところはあるが、今はそれよりも気になることがある。


「……そんなこと。では、ありません」


「ん?マリー?」


「はっきりと仰って下さい」


「……何を?」


マリーが何の事を言っているのか分からない。フィリクスは困惑していた。

マリーがフィリクスを見上げる。

見開いたフィリクスの金色の瞳は、切実な表情のマリーを映していた。


「その……旦那様は、私がささやかだから、嫌なんですよね」


聞きたくないのに、訊いてしまう。

自虐すぎて、言いながら自分が嫌になる。マリーは俯いた。


「ささやか?どういう……意味だ?」


「だから、旦那様は私とベッドを共にしたくないのですよね……子供みたいですものね」


凄い事を言ってしまった。と、マリーは赤くなる。

フィリクスも理解したのか、つられて顔を赤くさせた。


「そっ……!あぁ、俺もイーサンの事は言えないな。違うよ、マリー。駄目と言ったのは、そういう事ではない」


フィリクスは耳まで赤く染めながら、がしがしと頭をかく。


「これは、俺のケジメなんだ。……そうだよね。言っておかなければ、またあなたに誤解をさせてしまうね」


「ケジメ?」


「そう、ケジメ。君にとっては、無理矢理の結婚だっただろう?だから、状況を整えて、あなたが納得してからちゃんと妻になって貰おうと思ってたんだ。寝室を一緒にしてしまうと、その……俺の理性が……」


最後はごにょごにょと尻窄みになって、よく聞き取れなかった。

が、この人は何を言っているのだろう。

今度はマリーがぽかんとした。



もう既に、妻なんですけれど??



「一年……いや、半年以内には状況を整える。その時に、あなたの答えを聞かせてくれ」



いや、だから。もう既に、妻なんですが??



「その時」がどういう状況を指しているのかは知らないが、マリーが嫌だと言ったら離婚するとでも言うのか。

そもそも、この婚姻は離婚出来ないはずであった。

フィリクスはおかしな事を言っている自覚はないのだろうか。

寝室を共にしない理由は分かったが、謎は深まってしまった。


「けじめだか、いじめだか知らんが、そんな事よりあの娘は何者じゃ?見たところ、夜会で私の邪魔をした使用人のようじゃが」


もう少し追求したいところだったのだが、メイメイが話に割り込んで来た。


「彼女は変装していたらしいが、よく分かったな」


「ふぉっふぉ。そうじゃろう?もっと、褒め称えろ」


「メイメイは、あの女性の事を知っているの?」


メイメイは得意気に鼻を鳴らすと、ひょいっとソファーに飛び乗った。


「作戦の邪魔をした娘じゃからの。よく覚えておる。マリー、お前さんも会った事があるはずじゃが?」


「え?」


どこでかしら。と、思い出そうとしたが、先程見たばかりだというのに肝心の彼女の顔が思い出せない。

物覚えが悪い方ではないと思っていたが、如何せん牢屋は薄暗かった。



えーと、確か……どんなだったかしら??



リリスは良くも悪くも、どこにでもいるような顔だった。

マリーには、「不細工ではない」くらいの印象しか残っていなかったのである。

「可愛らしい」とは思わない辺りが、複雑な乙女心というやつだ。


「彼女は証人として保護している。とはいえ、未遂だが一応罪人だからな。自由は制限している」


「何を、したのですか?」


「いや、何も、まだ何もしていなかった。マリーは何も心配しなくていい。それに、行く行くは君の侍女になってもらおうかとも思っている」


罪人が近くにいる事をマリーが怖がっているとでも思ったのか、フィリクスは慌てて補足した。


「だ、旦那様……今、何と仰いました?!」


しかし、これに即座に反応したのはカレンであった。大袈裟なくらい、わなわなと震えている。


「ん?……何も心配しなくていい……?」


「その後です!」


「マリーの侍女に……」


「納得いきません!!」


自分で訊いておきながら、フィリクスが言い終わる前に言葉を被せた。

カレンのその勢いに、フィリクスも目を丸くさせる。


「いくら、旦那様といえど、そんな事……絶対に認めませんから!!」


今にも泣き出す勢いでそう言うと、カレンは部屋を飛び出した。

主人に対し暴言とも取れる言葉を吐き、謝罪もなくあまつさえ持ち場を離れる。立派な職務放棄であった。

しかし、その程度の事は気にしないのが、フィリクスの良い所でもある。


「なん……だったんだ??」


「反抗期というやつじゃろ」


「……反抗期」


「複雑な乙女心かもしれん」


「……乙女心」


カレンが出て行った部屋の扉を唖然と見つめるフィリクスに、メイメイが適当な事を言う。


「ともかく、じゃ。また私を除け者にしようとしても、そうはいかん。あの娘を使って今度は何をしようとしているのじゃ?」


メイメイが胡乱な目でフィリクスとイーサンを交互に見た。

イーサンは胸の前で腕をバッテンにさせると、静かに首を横に振る。

フィリクスは気不味そうに視線を反らしてから、ちらっとマリーを見やりまた逸らす。


「彼女の事は一先ず保護しているだけだ。メイメイ、その話はここではなんだから……また後で」



私には、言えない話なのね……。



「メイメイ、旦那様もこう言っているし、また明日にしましょ」


言いにくそうなフィリクスの様子に、マリーは空気を読んだ。

気不味いのか、マリーが膝の上から下りてもフィリクスは止めなかった。


「そんな事を言いおって、はぐらかす気じゃろう!今すぐ言え、言うのじゃ!イーサン、お前も知っておるのじゃろう?母にその内容を教えるのじゃ!」


しかし、メイメイは空気を読まなかった。

飛び上がってくるんと前宙し侍女の姿になると、イーサンの肩を人差し指でぐいぐいと押した。


「母さん、私は本当に今後の事は何も知りません。もしかしたら、旦那様と殿下との間で何か話し合われたかもしれませんが……」


イーサンがフィリクスに視線を向ければ、自ずとフィリクスに視線が集まる。

フィリクスは観念したかのように、深く深い溜め息を吐いた。


「まだ決定ではない」


「前置きはよい」


「本当は嫌なんだ」


「だから、前置きはよいと言っている」


「……来月、建国の祝典がある。そこにマリーと参加する」


そこまで言って、フィリクスは暫く黙ってしまった。


「……それだけか?!」


思わずメイメイがフィリクスにつっこみを入れた。

死刑宣告するかのような重々しい雰囲気で勿体ぶったわりには、あまりにも普通過ぎる内容だ。


フィリクスは、気遣うようにマリーをちらっと見やる。


「まさか、旦那様……私の代わりにメイメイを連れて行かれる気ですか?」


もしや。と、思いマリーが口を挟んだ。

再びフィリクスは深く深い溜め息を吐いた。まるで、それが答えかのように。


「そう、なんですね……」


「なんじゃ、芸が無いのぅ。また囮作戦か」


期待外れだったのか、メイメイはつまらなそうに鼻を鳴らす。

マリーとしては複雑であった。

メイメイを身代わりにするのは、マリーを危険に晒さない為だと分かってはいる。

それでも、自分だけ蚊帳の外にいるような、必要とされていない人間なんだと言われているような、そんな寂しさがあった。



メイメイが騒ぐのも、こんな気持ちだからかしら。



フィリクスの仕事を邪魔してしまった前科がある。

必要とされていないならば、大人しくしていなければ。

フィリクスを窺えば、深い溜め息がまだ続いていた。そのまま魂が抜けてしまうのではないだろうか。よく息が続くものだ。


「……嫌なんだ」


「何ですか?」


息を吐き切ったついでにフィリクスが呟いた。

聞き取れずに聞き返すと、フィリクスが勢いよく立ち上がる。


「メイメイならいざ知らず。あんな魔物の巣窟のような場所に、マリーを連れて行くなど正気の沙汰ではない!!」


ぐっと拳に力を込めフィリクスは言う。

これから演説でも始めるつもりなのだろうか。そんな勢いであった。


「何となく失礼じゃな。私とて、本当に魔物の巣窟であれば行きたくはないぞ。面倒くさい」


「殺しても死なないようなメイメイならばいざ知らず。可憐なマリーを連れて行かなければならないとは……」


「こやつ、二度も言いおったな。しかも人の話を聞いとらん。面倒くさい奴だのぅ」


メイメイは腰に手を当て、本当に面倒くさそうな顔をした。

先程の勢いは何処へやら。フィリクスがこの世の終わりかのような顔でソファーに座り込む。


「ぇ、待って下さい。と、いうことは、その祝典には私も参加する。と、いうことですか?」


「そうなんだ……出来ればメイメイに代わってもらいたかったのだが、メイメイには他にやってもらいたい事があってな」


「本当ですか?私……頑張ります!」


それがどういう仕事なのかは知らないが、やっと夫人らしい事が出来る。知らず、マリーの瞳は輝いた。


「マリー……」


フィリクスは顔を上げると、そのまま吸い込まれるようにマリーを抱きしめた。


「なんて……なんて、健気で愛らしいのだ」


「へぁっ……?」


フィリクスはそっとマリーを離すと、手の平で愛おしそうにその頬を撫でる。

思わずおかしな声が漏れたが、その視線と手の平で以ってマリーを愛でるフィリクスに、胸は高鳴っていた。


「マリー、あなたは自分をささやかなどと評しているが、そんな事は気にしなくていい。あなたはただそこにいるだけで、愛おしくて魅力的な存在なんだ。俺は、そんなあなたを愛している」


「……ん?」


「絶対にあなたを守ると誓おう」


フィリクスは、そっとマリーの頭を抱き込んだ。

ささやかだ。と、いうところは否定していない。

人間誰しもに否定して欲しい事、肯定して欲しい事がある。

マリーにとって、そこはたとえ真実であったとしても否定して欲しい事であった。

例えば否定しなくとも「俺はささやかな方が好きだ」くらいの事を言って欲しかったのである。

そこに引っ掛かってしまうと、他に何を褒められようと、その言葉は右から左へと流れて行く。

それを踏まえ、この時フィリクスの放った愛の囁きがマリーへ伝わっているかは定かではなかった。

フィリクスが少々無神経なのかもしれないが、腕の中のマリーが複雑な表情をしていることなど知る由もない。

確かな事をいうとするならば、マリーの胸の高鳴りは半減していた。


「二人で盛り上がっているところ悪いがの、マリーには席を外してもらおう。お前さんがいると話が進まん」


盛り上がっているのはフィリクスだけのような気もする。しかし、話が進んで行かないのは事実。


「ずっと気になっていたのだが、マリーを名前で呼んで良いのは俺だけだ」


フィリクスがメイメイに、びしっと指摘する。

こういうところが話の進まない要因に思えた。


「フィリクス、お前さん……本当に面倒くさい奴じゃのぉ」


呆れて半目になっていたメイメイは、更に呆れてほぼ目を閉じた状態になっていた。

お読み頂きありがとうございました。

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