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病弱な令嬢は公爵家で暴れる  作者: 珠音


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病弱令嬢と年寄りの魔物

マリーが目を覚ますと、見慣れた天井があった。


あの後、どうやって寝室に戻って来たのか覚えていない。

もしかしたら、昨夜の出来事は夢だったのかも。と、一縷の期待を胸に起き上がると、ベッドの上でちゃっかり丸くなっている白猫を発見し、絶望する。



いや、でも。ただの白猫かもしれないし。



白猫は自分の前足に顔を埋める様にして眠っている。

マリーは往生際悪く、「ただの白猫であってくれ」と、願いを込めて白猫に手を伸ばした。


「あ、奥様。お目覚めでしたか。その猫、奥様の事が好きみたいで離れないんですよねぇ」


白猫が喋ったのかと一瞬どきっとしたが、マリーの様子を見に、部屋に入って来たカレンであった。

カレンは寝てる白猫を一瞥すると、「どこから入って来たんですかねぇ」と、顔を顰める。


マリーは、何とも言えない気持ちで「へぇ」と、曖昧に返して、伸ばした手を引っ込めた。


朝方に寝入ったこともあってか、外はすっかり明るい。と、いうか、お昼を大きく回り、既におやつの時間が迫っていた。

午前中、マリーが寝ている間に医者が診察したらしいが、全く気付かなかった。

結果は健康そのもの。「病人がいる時に呼んでくれ」と、やんわりと怒られたそうだ。

それはそうだ。マリーは、ちょっとした切り傷しか負っていない。

マリーも確認したが、既に痂になっていた。

だがカレンは医者の対応が納得いかないのか、むくれている。


「ねぇ、メイメイにお礼を言いたいのだけれど、どこにいるかしら」


白猫の事はひとまず放置し、支度を手伝ってくれているカレンに聞いてみる。

この白猫が本当にメイメイであれば、こう言えば何かしら反応するだろうと思ったのだ。


「あ、そうそう。メイメイさんは、今朝早くに本邸の方に発ったそうですよ」


「え?」


しかし、肩透かしを食らう。

何か良い事でもあったのか、カレンはにこにこと、どことなく嬉しそうに、歌うような口振りだった。


マリーは思わず白猫を見る。

白猫はマリーと目が合うと、慌てて目を閉じた。



狸寝入りしてたのねっ?!

……あ、猫寝入りか?



いや、そんなことはどちらでもいい。

喋らないけれど、この白猫はメイメイに違いない。と、マリーは確信した。


しかし、どういうことだ。と、マリーは首を傾げる。

昨夜の出来事が夢でないのであれば、メイメイはマリーの侍女か、メイリンに化けてばあやになるものだと勝手に思っていた。



ペットになるつもり??

……まあ、どちらでも良いけれど。



どちらにしても、昨夜の出来事が現実であった事に変わりはない。

それに、普通公爵家の夫人ともなれば、侍女は数人付いていてもいいものだと思う。だが、マリーはカレンが一人いてくれれば十分だと思っている。



二人も侍女が付いていてもね……



「あれ?だけど……」


「どうしました?」


「カレンて、いつお休みもらっているの?」


そうだ。使用人は家族ではない。働いているのだった。そして、マリーの記憶が正しければ、毎日カレンは従事している。今のところは休んだ事はないはずだ。


マリーはカレンをじっと見つめた。

見つめられたカレンはきょとんとしている。今更そんな質問ですか。という話なのだろう。


「一人じゃ大変よね。メイメイにお願いして、戻って来てもら……」


「何を仰るのです?!やっと、メイメイさんがいなくなったのに……いえ、私だけでは足りませんか?!そりゃ、時にはメイドの手を借りる事もありますが……でもっ!!頑張りますので、これからも奥様のお世話は私ひとりに全てお任せ下さい!!」


マリーの言葉を、カレンが被せる形で勢いよく遮った。


「あ……うん。そ、か……でも、無理は……しないで?」


二人いたら仕事が楽になるだろうと、良かれと思って言っただけなのだが、メイメイがいたらカレンは解雇されるとでも思ったのだろうか。

マリーの両手を握り締め、必死な勢いのカレンに気圧される。


そのカレン越しに、「くぁ〜」と、呑気に伸びをしている白猫の姿が見えた。






「どういうつもりなの?」


カレンが軽食を用意する為に部屋を出ると、マリーはベッドに鎮座している白猫の隣に腰を下ろした。


「そっちこそ、どういうつもりじゃ!年寄りを働かせようとしてたじゃろ!」


都合よく年を取ったり、若くなったりする人の発言だ。


「……じゃあ、うちのペットにでもなるつもり?」


「ペット!!高貴な存在である私が……ペットじゃと?!」


じゃあ、どうしたいんだ。と、マリーはげんなりする。

このまま白猫の姿でいるつもりであれば、ペット扱いされてしまうのは必然である。


「カレンに正体を明かしては駄目なの?」


天井裏にいるグレンは知っているのだろう。

だから昨夜も、メイメイを追って出て行くマリーをそのままにしたのだろうと思われる。


「……あれ、ちょっと待って。グレンは、知っている?」


マリーは何か引っ掛かるものがあった。

この屋敷に従事する者であっても、メイメイの存在を知っている者と知らない者がいる。まあ、それはいいとして。


「メイメイ。あなた、もしかして、私は一度死んでいる。みたいな事をグレンに話した?」


メイメイは、猫としては細い目を丸くさせ、きょとんとした。


「可能性の話じゃ」


「したのねっ?!」


道理でグレンがマリーを偽物と疑うわけだ。

マリーは天井に視線を向け、声を大きくした。


「私、一度も死んでないから!偽物ではないわよ!」


おかしな台詞であるが、事実である。


「……普通に声を掛けて来んなよ」


返事はないものと思っていたが、意外にもすぐ近くから返事があった。

いつの間にか部屋の中にいたグレンが、腕を組んで壁に凭れている。

その表情は伺い知れないが、どうにも不機嫌そうに見えてならない。


「あ……と、いうわけで、私は本物だから」


「どういうわけだよ。まあ、旦那様がそうだと言うなら、そうなんだろ。もういいよ」


やけにあっさりしている。

と、いうよりも。疑っていた事に対する謝罪はないのか。

マリーがグレンの青い目をじっと見つめていると、それに気付いたグレンは、気不味いのか、ふいっと視線を逸らした。


「別に、カレンに言ってもどっちでも良いぞ」


興味なさそうにメイメイが言った。

要は、世間に得体の知れない存在がある。という事が広まらなければいいらしい。

広まると不味い。という認識はあるようだ。

ただ、人間の姿でいると仕事を振られるから嫌なのだという。


マリーとしても、侍女バージョンのメイメイにうろつかれるのは、なんとなく嫌だった。


「どうして、若い人間の姿になる時はあの容姿なの?」


誰かの姿を模したものではないと言っていたが、あんなに女性らしい曲線を強調しなくてもいいのではないか。不自然というわけでもないが、何となく聞いた。


「ふぉっふぉ。あの姿が最も女の嫉妬を煽るからじゃ。嫉妬した女は面白い行動に出るからのぉ」


メイメイがいやらしく目を細める。


「その昔、適当に粉をかけた男の嫁が私を殺しに来た事があってのぉ。大人しく殺されたフリをした次の日、普通に会いに行ってやったら、あの女、腰を抜かして驚いておった。その顔のおかしい事といったら……ふぉっふぉ」


なんという悪趣味ないたずらか。マリーは引いていた。

メイメイの思う「面白い」は、やはり理解出来ない。

話しながら思い出したのか、メイメイは大爆笑している。

笑いながら転がり、最終的にベッドから転げ落ちたところで落ち着いた。天罰かもしれない。


「何度かやってみて、あの容姿が一番だっただけじゃ」


メイメイは再びベッドの上に飛び乗る。

笑い過ぎたのか、若干息が切れていた。



何度もやったのか!



「お前さんも、もう少し嫉妬してくれれば面白かったかも知れんのぉ」


「私は嫉妬なんて……」


「ふぉっふぉ。自覚なしかぇ」


マリーは言葉に詰まる。確かに、少々嫉妬したような気がしなくもない。

数秒前に侍女バージョンでうろついて欲しくないと思ったのがそもそも嫉妬からなのだが、それはなかった事にした。


「……シズカには、何の効果もなかったがの」


誰に言うでもなく、呟くようにそう言うと、メイメイは前足の上に顎を乗せ、伏せた。

昨夜から思っていたのだが、メイメイが静加の事を話す時、悲哀のようなものが含まれているような気がする。



確かに静加さんなら、多少の事には動じないと思うけど。

そんなに悔しかったのかしら。



静加にはいたずらは失敗していたのだろう。と、マリーは思わずメイメイの頭を撫でていた。

いたずらは看過出来ないが、なんとなく寂しそうに見えたのだ。

大人しく頭を撫でられているメイメイの三角の耳がもっと撫でろと言わんばかりに後ろに倒れた。


「ところで、メイメイ。聞きたいことがあるのだけれど」


「何じゃ」


メイメイが億劫そうに目を開けた。


「侍女の姿のメイメイに関しての使用人たちの発言がおかしかった事があったのだけれど、あれはあなたが何かしたの?」


メイメイは静かに目を閉じ、マリーの手を払うように、ぷいっとそっぽを向いた。


「メイメイ?」


「……だったんじゃ」


「え、何?なんて?」


メイメイは言いにくそうに口を開いたが、よく聞き取れない。


「術がしっかりかかる者と、中途半端にかかる者がおったんじゃ……」


「術?なにそれ」


屋敷の使用人たちに「メイメイは昔からずっとこの屋敷にいた」と、いう催眠を掛けたが、その効果が人によってまちまちで面倒くさくなり、術を解いたのだという。



そのせいでカレンの発言がおかしかったのね。



しかし、記憶の操作まで出来るとなると、それは怖ろしい。



もしかして、私の前世の記憶もメイメイが……?

でも、昨夜のメイメイの態度は本当に知らなかったように見えたわ。


もし、私の前世の記憶はメイメイが植え付けた作り話で、メイメイは初めて聞いたという演技をしてたとしたら?



今まで純粋に自分の記憶だと思っていたものが、実は他から植え付けられたものかもしれない。という不安。

マリーは疑心暗鬼にメイメイをじっと見つめた。


しかし、メイメイはマリーとは別のところに気持ちがあるようだ。しきりに耳をぴくぴくとさせている。


「……昔は、そんな事はなかった……数百人相手でも完璧じゃったのに……」


ぶつぶつと呟くメイメイは悔しそうだ。


「私にも……何か術を掛けているの?」


「そんな面倒な事をするわけなかろう」


素直に本当の事を言っているかは分からないが、面倒な事であるのは間違いないようだ。

出来ていた事が出来なくなっている事が悔しいのか、メイメイは不満そうに鼻を鳴らしている。


「でも、ほら……年を取ると、そういうものなのではないの?」


マリーとしては、気を使ったつもりであった。


「そんな耄碌しておらん!まだ、若いモンには負けんぞ!」


マリーは言葉の選択を間違えた。


しかし、都合よく年を取ったり、若くなったりする人の発言。


「さっき自分の事を年寄りだと言ったばかりじゃないの」


「さっきはさっき、今は今じゃ!」


なんという自己中発言。まるでジャ○アン。


そこへ、ガシャンと食器が触れ合う音が響いた。


「……ね。ね、ね……ねねねねねっ?!」


カレンがワゴンを押して来たのだ。

マリーはカレンが来た事に気付かなかったが、グレンがドアを開けていた。

カレンは目と口を丸くさせ、語彙力を失っている。

「ね」しか言っていないが、恐らくは「猫が喋っている」的な事が言いたいのだと思われた。


「あの猫が、狐の魔物だよ」


グレンが、しれっとカレンにバラしていた。

お読み頂きありがとうございました。

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