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病弱な令嬢は公爵家で暴れる  作者: 珠音


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病弱令嬢は恐怖する

何の因果かクリスフォード公爵家に生まれるのはもれなく男児。

しかもその何れもが、生涯一人の女性だけに異常な執着をみせる。その為、必然的にその女性が伴侶として選ばれるのだ。


現当主であるフィリクスも例にもれず一人の少女と出逢ってしまった。

ひと目見た瞬間、彼女が唯一だと確信した。


それがマリーだ。


腕を組み「うんうん」と、何かを確認するように頷きながらそう話すのは、侍女メイメイ。


猫の姿のままでも良いのに。と、マリーは少し残念に思ったが、話をするには人型の方が落ち着くのかもしれない。それともマリーの気がそぞろになるからだろうか。ともかく、メイメイは変化していた。


部屋に備えてある椅子を用意してマリーと膝を突き合わせるメイメイは話し込む気満々だ。


「しかしのぅ……フィリクスに言われて探してみたは良いものの……ほれ、お前さんは死にかけだったじゃろ?これは不味いんじゃなかろうかと、取り敢えず私が側にいたんじゃよ」


「何が不味いの?」


からかうように口角を上げているメイメイに、死にかけとは些か失礼ではないか。と、思ったマリーだったが、実際にそうであったので何も言えない。

その上、ここにきて眠気が襲って来た。

聞きたいことは山ほどあるのに、質問が乱暴になる。

話はしたいが、それは今でなくともよい。

そろそろお暇してベッドと仲良くしたいところなのだが、そうは問屋が卸さない雰囲気がそこにはあった。


「そりゃ、お前さん。番を失ったらどうなると思う?」


メイメイは身を乗り出した。どことなく楽しそうだ。


「うーん……どうなるのかしら」


しかし、マリーはそれほど楽しくはない。気を抜くと舟を漕ぎそうになるのを必死に堪える。



つがい?

……つがいってなんだろ??


……扉に付いているやつ?



マリーは、回らない頭で適当に返事をした。

だが二人の間での温度差など、メイメイが意に介すことはないのだ。


「喪失感により、死ぬ。今までも、番が亡くなった後、半年以内に皆死んでいるんじゃ」


さも怖い話をしているかのように、メイメイは声を潜めた。

番とは伴侶のことを指しているのか。と、一歩遅れて理解する。


「それは……でも、男性はそういうことが多いのではないかしら」


女性は伴侶が亡くなり独りになっても、自分なりの楽しみを見つけるのが男性よりも上手いと聞く。

だから、妻に先立たれた夫は孤独と喪失感により、後を追うようにして亡くなる事が多いのだとか。


「それは老齢の場合ではないか?フィリクスはまだ若い。若くして死ぬのは困るのじゃろ……まあ、世継ぎは他にもおるし、そこの問題はないのじゃろうがな」


「じゃあ、私が嫁いで来なければ旦那様は死んでいたということ??」


そんなに凄い執着ならば、幼少期に出逢ってからのここ数年も大変だったのではないだろうか。


「確かにマリーを探せと騒いでいたりしたが、死ぬことはない。番が何処かに存在していると分かっているならば大丈夫なようじゃ。そんなこともあって、お前さんの生死を確認しておく為にも側におったんじゃ」


「番……せめて伴侶と言って欲しいのだけれど。まあ、そういうことなのね」


番と言われると、なんとなく動物的な感じがする。

本能で選んでいる時点で、動物といえば動物なのだが。それは、フィリクスであってマリーではない。


「見付かったからといって引き合わせても、すぐに死なれては困るからのぅ……フィリクスが単独で探しに行こうとするのを止めるのが大変だったとイーサンがこぼしておったわぃ」


もしマリーが亡くなってしまったら、フィリクスが寿命で死ぬまで「マリーは見つからなかった」ということにするつもりだったという。

メイメイの話を聞きながら、そういえばイーサンはメイメイの息子だという話だったっけ。と、ぼんやりと考える。


「それにしても、嫁ぐまでが急ぎ過ぎよ」


「ふぉっふぉ。それは、お前さんの安全を考慮してじゃ」



まあ、そんな話をイーサンから聞いた気がするけれども。



もう少し説明が欲しかった。と、思う反面、説明されたところで納得して嫁いだかと言われれば、微妙なところだ。


「それにしても……正直、お前さんは死ぬものと思っていたからのぅ……本当の事を言え、今なら許そう。お前は何者じゃ?」


「……は?」


メイメイは目を細めて、じっとマリーを見つめた。

だが、そう言われても困る。


前世を思い出した事が関係しているかは不明だが、メイメイの言葉を借りるなら、その頃から魂が元気になったということだ。

つまりマリーはマリーであって、それ以外の何者でもない。


そういえばメイメイは、マリーが初代当主夫人のシズカの生まれ変わりかと疑っていた事を思い出した。


「どうして、私がシズカ……様の生まれ変わりかと思ったの?」


違うと分かっていても、どうしてかマリーの知っている静加と初代当主夫人のシズカが重なるような気がしてならない。


「むぅ。話をすり替える気か。まあよい、教えてやろう」


いちいち偉ぶらないとメイメイは話せないのだろうか。

マリーは欠伸を噛み殺す。


「それはな、シズカも奇声を発しながら奇妙な体操をしておったからじゃ」


「……は?」


奇妙な体操とは?と、マリーに疑問符が浮かぶ。

「シズカも」と、いうことはマリーもしていた。と、いうことなのだろう。


そんな事したかしら。と、マリーが首を傾げていると、それがメイメイにはとぼけている様に映った。


「私自身が見ていたのじゃから誤魔化しても無駄じゃ!『ちゅいーん』とか、『こほー』とか、他にも変な声を出しながら両腕を上げたり、平伏したりしておったじゃろ!シズカも同じ事をしておったぞ?!体操でなければ、何の信仰なのじゃ」


「……あ」


もしかしなくとも呼吸法のことである。

やはりメイリンに見られていたのか。と、少々気恥ずかしく思う。

しかし、初代当主夫人のシズカも同じ事をしていたとなると、ただの偶然で片付けてよいものか。

何しろ茉莉に呼吸法を教えたのは静加なのである。


「やはりな!……じゃが、分からん。どうして、魂はマリーのままなのか。死んだマリーの身体に、シズカの魂が入ったのかと思ったのじゃが……」


「……え?何それ、怖いんですけど」


「シズカは、この世界ではない別の世界から来たのは知っておろう?」


「いや、知りませんけれどもっ?!」


メイメイは、さも知っていて当然という口振りだが、マリーは初耳だ。

しかし、茉莉として生きていた世界と、今の世界は違うような気はしていた。

パラレルワールドなんて言葉も聞いたことがある。今の自分がいる世界とは別の世界があったとしても不思議ではないのかもしれない。


「むぅ。そうか。愚息はこれは説明していなかったか。……この世界で死んだ人間の身体に、何故かシズカの魂が入ったと言っておったぞ」


だから今回も同じ様に、病弱なマリーはいつの間にか死んでいて、その身体にシズカの魂が乗り移ったのでは。と、いうことらしい。



私は一度死んだと思われているの?!



マリーは目をぱちくりとさせた。眠気も何処かへ飛んで行く。


「あー、え、と……じゃあ、あの肖像画のシズカ様は本来の姿ではない?」


「いや、あの頃のシズカは本来の姿だと言っておった」


「??」


そう言ってメイメイが、部屋に飾られた家族写真を指差す。

そこには、若い頃のシズカとそれに寄り添う男性。二人の手前に写っている子供は二人の子供だろうか。男性に似ている気がする。

そしてその隣には、メイメイと厳つい雰囲気の男性も一緒に写って――――……


「えっ!メイメイっ?!……と、イーサン?!」


マリーは写真とメイメイを見比べた。どう見ても写真の中の女性とメイメイは、姿だけでなく年齢までも同じに見える。しかも、その隣の男性はイーサンに似ていた。


「それは、イーサンの父親じゃ。手前にいるチビがイーサンじゃ」


「ぇえっ!」


確かに手前にいる子供の方がイーサンの面影が強いような気がする。

しかし、この写真が撮られたのは、この国の建国後間もなくだったのではなかったか。



何年か前……そう、確か、四年前に建国百周年だったはずだから……


―――――イーサンは、少なくとも百四歳以上!!!



マリーは、そろりとメイメイを窺う。


「……イーサンも狐なの?」


どう考えても普通の人間ではないことは確かだ。


「あやつは欠陥品じゃ。父親は人間じゃったし、人間の姿で出産したのが良くなかったのかのぅ……人型以外にはなれん」


なるほど、ハーフというやつか。人型ではあるが、寿命は長いということか。


では、メイメイは雌ということで間違いないのか。と、じっとメイメイを見つめる。

切れ長の目がマリーを見つめ返した。


「何じゃ、じろじろと。照れるではないか」


「……メイメイは、何歳なの?」


「むぅ。何歳とな……何歳じゃったろうかのぉ。この存在になって……三千年を超えた辺りから数えとらんからのぉ……」


「っ!!!」


メイメイは、ぽりぽりと顎を掻くと視線を落とした。


「本当に……シズカではないんじゃな」


「……違うわ」


「そうか……では、何でシズカと同じ行動をしていたのじゃ?それまで一切したことはなかった事じゃろ」


うーん。と、マリーは言葉に詰まる。どう説明したものか。

説明したところで信じてもらえるものか。と、思ったが、しかし、生まれ変わりどうこうという話はメイメイがしたのだ。そもそもメイメイ自身が信じられないような存在だ。

ここは変に誤魔化すよりも、正直に話した方がいいだろう。何よりも、マリーは嘘が苦手だ。


マリーは、事故を目撃した時に前世の記憶を思い出した事、メイメイが言った「奇妙な体操」は、その前世の人生で出会った静加という女性に教えてもらったものだ。と、いうことを話した。


「ふぉっふぉ。なるほどな。やはり、シズカの関係者であったか」


興味深そうにマリーの話を聞いていたメイメイは、愉快そうに笑った。


「やっぱり……私の知っている静加さんと、シズカ様は同一人物なのかしら」


「ふぉっふぉ。そうであってもなくとも、そうであったとした方が面白いじゃろ」


どうにもメイメイの世界では、面白いか否かで判断されるらしい。


「因みにシズカがいた国は『イッポン』だか『ニホン』だかという名だったと思うが?」


「あ、ああ……ニホンね。だけど、どうして今頃になって、こんな確認するような事を?」


なんなら輿入れ前にするような確認ではないだろうか。

すると、メイメイは何とも微妙な表情をした。


「お前さんが偽物なのかどうかの判断は、フィリクスの坊やに委ねることにしたんじゃ」


偽物であれば、何かしらでフィリクスには分かるらしい。

自分の番なのだから、当たり前といえば、当たり前なのだが、そこまで行くといよいよ本格的に動物である。

もしかしたら、クリスフォード家にも何かしらの化け物の血が混じっているのでは。と、思わなくもない。


「……あれ?でも、待って。確か、お義父様は……」



生きてますよね??

お会いした事はないけれど。



番が亡くなったら死んでしまうのではなかったか。お義母様は亡くなっているのに、話が違うじゃない。と、マリーは首を傾げた。


「シリバスか。アレの執着も甚だしいな。殺されたカトレシアは可哀想じゃと思うが……まあ、人間の愛と幸せの形は様々なんじゃろ。魔物の私には、よく分からんがの」


メイメイも首を傾げ、苦い顔をする。


マリーは、完全に目が覚めた。

シリバスはフィリクスの父親、カトレシアは母親である。今のメイメイの言い方では、執着するが故にシリバスがカトレシアを殺した。とも取れる。


色々な事にすっかり気を取られてしまっていたが、フィリクスがマリーを殺す殺さないの話があったあったではないか。



『―――――父の殺したくなる気持ちが分かるようになるとは――』



そうよっ!

確か、あの時、旦那様はそう言ったわ!!



あの時とは、フィリクスとイーサンの会話を盗み聞いた時の事である。


つまりそれは、可愛さ余って……というものだろうか。それとも、究極の独占欲からだろうか。

マリーの身体から血の気が引いていく。


「メイメイ、まさかとは思うけれど……お義父様がお義母様を……?」


「安心せい、お前さんの事はそうならんように、フィリクスの坊やが頑張っておるわぃ。まあ、頑張ってもらわんと、後処理が面倒くさいしの」


ふぉっふぉ。と、メイメイは笑っているが、笑い事ではない。



本当なんだっ!!!

と、いうか、頑張るって何?

後処理って何よっ?!



自分がフィリクスの妻に選ばれた理由は理解した。そして、自分が殺されるかもしれない理由も。



好き過ぎて殺しちゃうって……やばい奴じゃんっ?!



寒い訳でもないのに手足が冷たくなったのは、気の所為ではないだろう。

お読み頂きありがとうございました。

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