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病弱な令嬢は公爵家で暴れる  作者: 珠音


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病弱令嬢は混乱する

「はぁ……仕方ない。イーサン、詳しく報告を聴こうか」


「……はい。旦那様」


カレンに連れ去られるマリーを見送ったフィリクスは、とぼとぼと執務室へと歩き出した。

その背中には哀愁が漂っていたという。


リベール卿と名乗る男と、今は廃墟となっている元リベール男爵邸で落ち合っていた。と、いう捕えた男のたちの供述をもとに屋敷に戻る傍ら、イーサンにはその廃墟を調べさせていた。



「―――――なんだと?」


イーサンからの報告に、フィリクスは眉を顰めた。


「ですから、元リベール男爵の屋敷の地下で、元リベール男爵は殺害されていました」


「殺害されていた、というのは確かなのか?」


「はい。背後からナイフか何かで一突きにされたようです。遺体はまだ死後硬直もしてませんでしたし、温かかったです。ですから、彼が殺されたのは、我々があの場に到着する直前。若しくは到着した直後かと。特に、犯人の痕跡もありませんでしたので、そのまま警らに丸投げしておきましたが」


フィリクスの眉間のしわが更に深くなる。



何者かが潜んでいるのでは?とは思っていたが。


なんということだ。


と、いうことは。あの屋敷で見た明かりは、気の所為ではなかったということか。リベール、若しくは犯人の明かり?


くそっ!あの時に調べていれば!



フィリクスは歯噛みした。

しかも作戦失敗による自害ではなく、殺害されたとなれば、リベールが首謀者ではないことは間違いないだろう。更に上がいる。



いや、仲間割れという線もあるか?

……ないな。

失敗しても成功しても、リベールは消されていた可能性はある。



「……一応、聞くが。リベール元男爵で間違いなかったか?」


「かなり老けた印象でしたが、本人で間違いないかと」


フィリクスはリベール本人と直接会った事はない。何しろフィリクスが生まれた頃には、彼は没落していたのだ。しかし、イーサンはリベールがまだ男爵だった頃に見かけた事があるという。



イーサンが言うのだから、まあ、本人で間違いはないだろう。

それにしても、あの距離で我々に気付かせなかったとは……。



マリーの事で冷静さを欠いていた。

屋敷の、それも地下で行われた犯行とはいえ、いつもであれば、明かり以外にも何かしらの異変に気付けたのではないだろうか。そう思うと悔やまれる。


「……イーサン」


「何ですか」


「まさか。とは思うが、あの時、何かに気付いていたのに態と知らせなかったわけではあるまいな?」


「心外ですね。どういう意味です」


「人が争う声とか、あるいはリベールの血の匂いとか……何かなかったか?」


「微量の血痕で、奥様を嗅ぎ分けるような化け物と一緒にしないで下さい」


「……化け物」


化け物に化け物と言われた。

それは、少なからずフィリクスにショックを与えた。

けれど、安心して下さい。フィリクスのその特異性はマリーにしか、発揮されません。つまり、限りなく化け物に近い人間。


フィリクスは、こほん。と、ひとつ咳払いをした。


「ともかくだな……少々、動きが早過ぎる」


「リベールは、奥様の誘拐に失敗して殺された。と?では、アマリリスの他にも何者かがあの会場に紛れ込んでいたのでしょうか」


「その流れが自然ではないか。とはいえ……あの二人は下っ端みたいだからな……アマリリスに聞くしかないか」


アマリリスの話では、彼女はあの二人とは関わりはないということだが、ならば何故その動向を把握しているのか。ということである。


「では、今から参りますか」


「え、どこに?」


「……殿下の離宮ですが?」


二人の賊も、アマリリスと同じくセドリックに任せているのである。

言わなくても分かるでしょう。という表情のイーサンに、フィリクスは、何を言っているんだ。と、いう表情で返した。


「今、何時だと思っているのだ?」


「……旦那様、初動捜査の重要性はご存知ですか?」


ただでさえ、動きの早い犯人の事である。確認事項があるならば、早い方が良い。


「マリーが、どれだけ怖い思いをしたと思っているのだ。今は側にいてやらなければ」


「……それは、カレンに任せれば良いのでは?屋敷にいるのであれば、グレンも付いていますし、何も問題ございません」


イーサンは大袈裟なほど、大きな溜息を吐いた。


「まあ、旦那様がいない方が……私ひとりで尋問した方が、口を割らせるのは簡単かもしれませんね」


フィリクスが「ぐぅ」と、小さく唸る。


「……分かった。だが、マリーにひと目会ってからだ。これは譲れない!」


イーサンに任せても良いが、彼の場合尋問ではなく拷問になってしまうのである。それだとすぐ相手が虫の息になってしまい、結果死なせてしまうのだ。フィリクスとて、無駄な殺生をしたいわけでもない。


ただし、マリーの肌に触れたあの男は、この限りではないが。


「……無事は確認されたのに……会う意味が分かりません」


「俺は今、マリーが欠乏しているのだ!」


フィリクスの握り締めた拳には力がこもっていた。





◇◇◇◇


一方、その頃、風呂場では――――――


「まったく、もう!あの方たちときたら、玄関先でごちゃごちゃと!奥様が風邪でも召されたら、どうするおつもりなのでしょうか!」


マリーが、ぷりぷりとしているカレンに、ごしごしと髪を洗われていた。

どうやらカレンは、あの騒ぎを見るに見かねて割り込んで来たらしい。

とはいえ、カレンも風呂場に着くなりマリーへの土下座が始まったため、マリーが湯船に浸かり、身体を温めるに至るまでにはそれなりの時間を要したのたが。


ここで今回の夜会が、敵をあぶり出すための罠であった事やメイメイがマリーに扮して囮となっていた事をマリーは知った。


そんなこんなで、マリーは湯船に仰向けに寝そべる形で、カレンに身を委ねていた。

いつもであれば、マリーは自分で洗うのだが「奥様はお怪我をされているのだから」と、カレンに押し切られた結果だ。

スカートに隠れて気付かなかったが、靴擦れだけでなく、膝下には草木で切ってしまったのであろう切り傷が無数に出来ていた。

これを見たカレンが絶叫。

怪我。と、言っても、かすり傷程度なのだから大丈夫。というマリーの訴えはカレンにより却下された。



まあ、お湯で傷口がしみるから、地味に辛いのよね。

今日ばかりは脚を湯船から出して人に任せるこの体勢がありがたいかも。



何より、人に髪を洗ってもらうというのは気持ちいい。マリーは、うっかり居眠りしないように頑張った。


「罠を張っていたとは露知らず、メイメイさんの口車に乗ってしまい。申し訳ありませんでした」


「まだ、言ってる。もういいって言ってるのに」


カレンは今回の件が罠だとは知らなかった。

しかし、メイメイは知っていたはずだ。それなのに、どういう理由か知らないが、メイメイはエスコート相手が奥様に替わるというサプライズを旦那様にしよう。と、カレンに持ち掛けて来たらしい。


「不思議なのはメイメイよね。作戦だと知っていたはずなのに……どうして」


その結果、わざわざ別人を囮として用意したのに、マリー本人が攫われるという残念な事になったわけだが。



もしかして、メイメイは最初から私を攫わせるつもりで、私を夜会会場まて連れて来させたのかしら。


もし、メイメイが夫人の座を狙っていたのだとしたら……有り得る?



だが、そうなると分からないのは、メイメイのその後の行動なのである。

聞けば、攫われたマリーを見つけ出し、屋敷まで運んでくれたのがメイメイなのだという。結局、何がしたかったのか分からない。


「私も、旦那様たちと一緒に屋敷に戻って来たのですが、詳細の方は聞かさせれていないので、何とも言えないのですが……と、いいますか、奥様!!」


「わっ、何?どうしたの」


急に語気を強めたカレンに、びくっとなる。


「メイメイさんが、イーサンのお母さんだというのですよ?!」


ここには誰もいないというのに、カレンは内緒話の様に声をひそめた。声の音量差がすごい。


「あっ!それ、私も気になっていたの」


マリーは先程のエントランスでのやり取りを思い出した。

イーサンはメイメイの事を「母さん」と、呼んでいた気がする。


「と、いうことは、ですよ。メイメイさんはイーサンより年上。と、いうことですよね?」


ぅうむ。と、唸るカレンの手は止まっている。


だが、確かにメイメイは若く見える。少なくともイーサンほどの息子がいる様には見えない。寧ろイーサンの方が年上に見えるほどだ。


「義理の親子……とか、ああ見えて、実は五十歳くらい……とか?」


「ぇえ〜!ない、ない、ない!!どう見ても二十代ですよ!」


ぱたぱたとカレンが手の平を振る。カレンの手に付いた石鹸の泡が飛んだ。


「……ねぇ。そろそろ、泡を流して貰えるかしら」


「あ!失礼致しました」


カレンが、そそくさと新しいお湯をマリーの髪に流す。


「でも、ずっと一緒に働いていたのに、二人が親子だって知らなかったの?」


「メイメイさんは、ずっと本邸の方にいたので会った事もなかったですし、イーサンからも特には何も聞いていなかったので知らなかったです」


「……ん?」


「あら?前にもこの話はしましたかね」


「……うん?」


カレンはマリーの戸惑いなど気にせず、今度は手を止めずに話し続けた。

マリーの髪の水気をタオルでぽんぽんと軽く拭っている。


「それにしても、イーサンも人の子だったのですね。ふふ。化け物並みの体力だから、化け物だと思ってました」


マリーの髪をタオルで纏めたカレンが、そんな訳ないですよね。と、笑っている。



ぅんんんんんー??



それに対して、マリーは大いに混乱していた。

確かに、メイメイは本邸に勤めていた。と、聞いた気がする。だが、その後、ずっとこの屋敷にいた。と、話が変わっていた気もするのだ。



もしかして、ずっと夢をみていた??

いや、いや。

でも、でも。


うーん??



「ぅ、え、と……カレン。あの……この間の話では……」


「何でしょう、奥様?」


どう尋ねれば良いか考えあぐねたマリーは、カレンを見上げたまま、じっと見つめた。

下手な聞き方をすれば、おかしな人認定されてしまうかもしれない。


ところが、カレンを見上げたまま何も言わないマリーに、カレンがそわそわもじもじとし始めた。何故だか頬をほんのり染めている。


「……カレン?どうしたの」


「そんなに見つめられたら……困ります」


「ぇ、え?何で?!」


色んな意味で、マリーがもやもやとしていると「失礼します」と、メイドが顔を出した。


「どうしたの?」


「あの、旦那様が……奥様はまだかと……」


「まあ!この状態の奥様を急かすなんて!」


「でもね。旦那様は今から出仕しなければいけないらしくて……その前に奥様にお会いしたいみたい」


カレンと話すメイドは困り顔だ。つまり、マリーの顔を見るまでは出仕しない。と、ゴネているらしい。

お読み頂きありがとうございました。

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