(39)勝ち越し
大相撲のとある本場所八日目である。七連敗している干柿は、いよいよ崖っ淵に立たされていた。今日負ければ、十両に陥落するためである。気力はあったが、どういう訳か身体が言うことを聞かないのである。言い聞かすには、どうすればいいものか…と、朝稽古のあと、シャワーのあとの脱衣場で身体を拭きながら考えていた。そこへ三方部屋の親方、栗川が現れなくてもいいのに、ひょっこり顔を出して現れた。
「親方でしたか…」
「まあ、めげないで、やるだけやればいい…」
「はいっ! そのつもりです、親方っ!」
「その元気なら勝てんと怪しいんだがな…。相撲解説の元横綱、西の富士さんも、そんなこと言っとったぞっ!」
「はあ…めげてはいないんですけどね。勝てないんです…」
「♪ひとぉ~にぃ勝つよぉ~りぃ 自分に勝てとぉ~~♪」
栗川親方は、何を思ったのか、突然、歌い慣れた美声で、歌わなくてもいいのに歌い出した。少し、自慢したかった・・という節もある。
「はいっ!」
干柿は、よしっ! 今日から勝ち越そうと思わんようにしよう…と決意した。
その後、干柿は見事に勝ち星を重ね、八勝七敗で勝ち越したのである。
めげないためには、めげないようにしよう…などと思わないのがいいということになる。話は簡単なようで非常に難しいのだ。^^
完




