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氷の魔法



 街道の奥で、冷え切ったジノヴィ達と合流しているのが見えた。

 護衛のリースに強制送還された筈ではなかったのか。


 ―――あのリースから無理矢理逃げ切ったのなら、大したものだ。




 「余所見するな、闘えっ!」

 ツアーレ帝王の左手の珠が青白く光る。


 背中をむけた湖から水龍が巨大な口をあけて襲い掛かってきた事よりも、その手にシェナが捉われた氷を掴んでいる事に、目をひらく。


 輝く青色の水が、視界いっぱいにひろがる。


 セトという人間のままなら、一瞬のうちに呑み込まれて、全身砕け散っていただろう。


 迫る水龍の牙に片手を添えて、その動きをピタリと止めた。


 「な―――?!」

 ツアーレ帝王が息をのんだ声を無視して、湖に浮かんだ氷の道の欠片をトントンと渡る。


 水龍の爪が掴んだ、シェナが閉じ込められた氷塊。

 それにそっと触れる。

 水晶の磨き切れていない原石のように泡立った空気の濁りと、不定形な表面の屈折で、中の様子を正確に窺う事は出来ない。


 ―――一緒に、生きたい――

 魔女は胸を締め付けるような自分の声に、眉を寄せた。


 さっき気絶していたシェナが目覚めていたとしても、彼女は氷の外で何が起こっているか見えていないだろう。

 魔女としての容姿も見られていない。

 この氷を少しこのままにしておいて、帝王を始末してから安全な環境で彼女を救出すれば、まだ彼女と、セトとして一緒にいられるかも知れない。


 そんなことを一瞬考えた隙に、ツアーレ帝王が大きな魔法の詠唱を完成させていた。




 『―――水よ、我が意に従い 宙を撃て!』

 次の瞬間、足元から大量の氷が突き上がり、地響きが一切の音声をかき消した。







 空気に満ちていた鋭い光が、水に落ちて溶けていく。

 逆立つような湖がようやく水面を取り戻した頃には、遠く追いやられた船を残して、全てが消え去っていた。


 水龍も、水に還っていく。





 「・・・やった・・・か?」



 魔法を唱えた姿勢をふと崩して、ツアーレ帝王はトンと座り込んだ。

 いくら魔力も魔術も最高位にあるとはいっても、湖全体を武器に使えば、疲弊する。


 日没が過ぎて、薄暗闇があたりを霞ませ始めていた。


 まさか、本当に、と誰かがつぶやく。

 サワサワと枯葉がそよぐ音が、夢を見ている訳ではないと、気付かせてくれる。



 「はぁ、流石に疲れた。水龍を片手で止めたのには肝を冷やしたが・・・どうやら勝ったな」

 大きく息をついて、尻の砂を叩き落としながら立ち上がった帝王の背後で、小さな回復魔法が何回か唱えられた。


 ジノヴィと一緒に任務に就いていたレギナ=クッシュ。

 彼女は回復魔法より攻撃魔法のほうが長けていた筈だが、と思うと、その真面目な姿勢が、好ましく思える。


 「お前達の任務は見事に全うされた。よくやったな。報奨と名誉ある地位を贈ろう」

 


 ジノヴィとレギナは、柔らかい笑顔の帝王に、思わず顔を見合わせた。


 そもそも二人が帝王と面会したのは、直接この任務を与えられた一度きりだった。

 先程戦闘の最中に攻撃魔法が仕掛けられたのも、逃げる部下に対する措置としては当然の行動だと認識している。


 呆然としている部下に、ツアーレ帝王は少し笑って、頭を掻いた。


 「さっきは攻撃して済まなかった。魔女の本気を引き出す為の策だった。それから、そこの少年。君がリュディア王国のお目付け役だな。帰還して、リーオレイス帝国が魔女を倒したと、そのまま報告すると良い。―――これからは、我が帝国の時代だ」



 「・・・何で、何で皆、そんなに欲しがるんだよ! 世界とか時代とか、王様とか、・・・何で、仲良く出来ないんだよっ!」


 声を荒げた小さなアルヴァに、ツアーレ帝王は静かに目を瞑った。


 「―――子どもには、民には、解るまいよ」






 砕け散った氷の道の残滓の上を、冷たい風が流れていく。

 またここに氷の道を築くには、少し魔力が足りない。


 少しずつ氷で足場を固めて、歩けるようにする。

 それで帝国の船の傍まで行ければ、小型船で合流することができるだろう。

 帝王は足場の氷を作る目算で水際に立った。


 『水よ、我が意に従い―――』

 詠唱中に、いきなり脚が凍るように冷たくなって、足元を見る。


 あまりの驚きに、心臓が凍りつきそうになる。


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