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時代遅れの勇者様  作者: 裏人
16/21

第16話 番外の勇者様 その2



ルーカス・トルドーは子爵である父トラヌドッグと母ナナの子で三男である。


両親は元は二人とも異国の平民だったが、商人であったトラヌドッグはその商才を振るい、ロラーシア王国でも名の通った「トルドー商会」を設立すると一代で大きく財を築いた。それだけでなく、販路拡大の一環で私財をはたいて国のインフラ整備を加速させ、外交面においても国交を結ぶきっかけ作りをするなど国への多大な貢献を評価され、移民の商人としては珍しくも貴族の仲間入りとなった。


長男はトルドー商会に入り父の跡を継ぐために勉強中で、次男は人脈作りと金勘定の勉強も兼ねて銀行に勤めているが、数年のうちにトルドー商会に転職し、兄のサポートをするという。


次男と三男ルーカスの間に姉が一人いるが、これが変わり者で、彼女はある日学校を中退すると言い出し、自分で商売を始めたいと家を出た。何をやっているのかは不明であるし、今の今までまだ目立った成果は聞けていないが、両親のサポートを頑なに拒否をしている。



「これは私自身の勝負です。両親に頼るくらいなら破産を受け入れます」



との肝の据わり具合にトラヌドッグは心配するも



「まぁ、人生はいろいろあるもの」



とナナは受け入れ、今もなお見守っている。


そんな商人一家のトルドー家において、三男のルーカスだけが商人ではなく騎士の道を歩むことを選んだ。そのきっかけは子供の頃に読んだ絵本だった。



-邪悪な魔王を勇敢な勇者が倒す-



この世界では子供だけではなく、大人にも人気があるポピュラーな題材だ。絵本でも舞台劇でも吟遊詩人の詩でも非常によく扱われる。冒険者の道を歩む者の中にはこの勇者というものに憧れてなったという例も数多く存在する。


ルーカスも子供の頃に読んだ勇者が登場する絵本が大好きで、自分もいつか勇者になりたいと強い憧れを抱くようになり、商人ではなく武人の道を歩もうと幼い頃から決めていた。



「好きなように生きなさい。そのためのお金のことは心配するな」



トラヌドッグはルーカスの選択を尊重した。


そしてルーカスが8歳のとき、王都学園へ入学した。王都学園とは、ロラーシア王国の国民なら貴族平民問わず誰もが受験資格を持つ、国最大規模の国立の学校で、8歳を迎えた国民の大半が受験することになる。



8~12歳までが初等教育で、13~15歳までが中等教育を行う。そこまではある程度の最低限の学力があれば入学も進級も難しくないし学費も高額ではないが、16歳~18歳になると同じ学園内でも専門分野の高等教育を行う学舎にそれぞれ進路が分かれることになる。国軍幹部を目指す士官学校、魔科学者を目指す魔科学学校、他には商科学校はおろか冒険者を目指す冒険者学校(別名・初心者の館)まである。


それまでとは比較にならないほど学費は高額になるが、成績優秀者はその成績に応じた授業料の免除や奨励金など、金銭面でのサポートは充実していた。


貴族でも平民でも、優秀な者はそれに相応しい道を目指せるシステムになっている。ただし金銭面に苦労しない貴族の子などは、例え適正がなくとも自分の好きなところに進学することもできる。


さて、子爵なれど王国屈指の富豪であるトルドー家の子息であるルーカスはというと、彼はあくまで進学は自分の力だけでと学費については一切親の援助を受けようとしなかった。


授業料完全免除とまではいかなかったものの、従来の1割程度だけの授業料で済むだけの成績を収め、その授業料もダンジョンで稼いで自分で支払った。



「自分で好き勝手しておきながら、金銭面で迷惑をお掛けするわけにはいきません」



そう言ってダンジョンに潜ろうとするルーカスにトラヌドッグは心配したが



「まぁ、人生はいろいろあるもの」



とナナはまたも受け入れて見守った。基本的にナナは子供達を信頼していてあまり心配し過ぎない。


ルーカスは自分が商人としての道を歩まないことに対し、少なからず両親を落胆させたと考えていた。だから、自分が勝手で進んだ道の中でも、せめて少しでも親孝行に繋がればと彼が選択したのが騎士団への道であった。


トラヌドッグは平民上がりの貴族である。莫大な財産があれど、従来からの貴族には成り上がりと馬鹿にする者も少なくはなかった。トラヌドッグ自身はあくまで商売に有利になるからというだけの理由で叙爵を受けたに過ぎず、そういう声があっても気にすることはなかったが、ルーカスはそういった実情に少なからず不満を持っていた。


騎士団の、特に第1戦隊に属することが出来れば、それは実家にとっても大変な名誉になる。ルーカスは第1戦隊に入ることで、トルドー家を馬鹿にする貴族を見返してやろうと思ったのである。


そうして士官学校に入学し、そのとき同時に魔科学学校に入学したエルと知り合い恋仲になったが、その後については前回述べた通りである。





「・・・というお話だったのサ」



「ほーん」



「ふぇぇぇ・・・何だか凄いねぇ」



王都の安酒場「マノス」。ここの一角でルーカスと他に男と女が一人ずつ、三人でテーブルを囲っていた。ルーカスは簡潔に身の上話を終えると、くいっとビールをあおった。



「ふぅ、この安酒も今の俺にはピッタリかもね」



いつぞやと同じような自傷気味な微笑を浮かべ、ルーカスは呟いた。



「いやお前いっつもここでそれ言ってるじゃねぇかよ。まさしくその酒はお前にピッタリだよ」



呆れてそう言う男はゲイル。歳はルーカスと同じで、彼の同僚だ。抜きん出た二枚目で、背もルーカスより頭ひとつ高い。



「この筋ばって固い肉もだな・・・」



不満そうな顔をしながらルーカスはそう言って肉を咀嚼する。



「・・・それもいつも注文してるよね。本当に好きだよね」



ニコニコしながらそんなルーカスを見つめる女はクレア。少し長めの前髪のセミロングヘアで、まだ少女としての垢が抜けていない顔立ちだが、背はゲイルと同じくらいに高い。彼女もまた同期の同僚である。



「しっかし変なやつ。家に帰ればこんなものより断然いい物食えるだろうに、わざわざこんな店通うなんてさ」



ゲイルはそう言いながらパンに食いつき「ま、俺には馴染んだレベルだけどさ」と続けた。



ルーカス含むこの三人が第7軍に配属されてから一年が経過していた。配属されてからは一年は「見習い騎士」として仮所属のような立場だが、先日からついに正騎士へと昇格し、三人は正式に第7軍の騎士となった。



「実家までここからどれだけ離れていると思ってるんだ。腹が減ったたびに馬車なんて出していたら、俺はすぐに破産するよ。ここで我慢するしかないさ」



そう言ってルーカスはビールを飲み干す。



「まぁ、賑やかで私は嫌いじゃないよ。・・・スケベな人達ばっかりいるのはちょっとアレだけど」



「ふぅ、俺たちも正式に入ったばかりで贅沢できるほどの給料じゃないしな。今のうちはこの店くらいがちょうどいいか」



ゲイルもクレアも、ルーカスに連れられてたびたびこの「マノス」に訪れている。


強烈な思い出があったからか、ルーカスはこの安酒場に思い入れを感じ、よく通うようになっていた。



「ルーカスはお給料上がってもこのお店に来そうだけどね」



クレアはそう言って笑った。「違いない」とゲイルは同意する。


この二人は、ルーカスが第7軍に入ってから仲良くなった同期だ。士官学校時代にはあまり面識は無かったが、何となく馬が合ってすぐに打ち解けたのだ。


これまで触れたことの無かった話題だが、正騎士になったのをきっかけとしたのか、何となくそれぞれの身の上話をこの日は話す流れになった。



「にしても、ルーカスは前々からちょっとした有名人だったからな。今日聞いたこともそこそこ知った内容だった気がする」



「えっ」



ゲイルの言葉にルーカスは驚いた。自分のことが有名だっただと?


成績は悪くなかったのは間違いないが、それでも飛びぬけてというわけではなかったはずだ。しかも、その成績も実はゲイルの方が上だった。


かといって注目を浴びるような事件は起こしたつもりはない。トルドー家の人間であるから?いや、実家よりも著名で力のある貴族の家の人間だってたくさんいる。ルーカスには有名人と言われる理由がさっぱりわからなかった。



「嘘だろう?」



そう言ってルーカスはクレアの顔を見る。



「あー・・・うん、ゲイルの言う通り、ちょっと有名だったかも・・・?」



しかし彼女からの返答は意外なものだった。



「な、なんで?」



本当に理由がわからず混乱するルーカス。



「まぁいろいろあるけどさ。学校生活最後の辺り、あの恋人との別れ話なんかも有名だぜ」



「は??????」



ルーカスは口に含みかけていたビールをだばーっと垂らした。



「お相手はエルフィーナ・ゾルダーク子爵令嬢だったよな。学園の東棟の裏で・・・」



「ま、ま、待て!あそこはあの時誰もいなかったはずだ!何故そんなことを・・・」



ゲイルが言っているのはルーカスがエルに婚約破棄を突きつけられたときの話である。人が周りにいないことを十分に注意していたはずだった。エルが大事は話があると言うので、わざわざひと気が無いところを選んでそこで話を聞いたのだ。



「そう思うじゃん?あそこ、ひと気が無いからって告白の呼び出しとか密談とかのスポットなんだよ。だから誰もいないように見えて、実は知ってる人は知ってる場所なんだよ。出歯亀が結構隠れて見ていたりするんだぜ」



「は・・・?え、じゃあ俺はそのとき・・・」



「しっかり出歯亀されて、噂は広まってるぜ」



そんなまさか!?と、ルーカスは縋るようにクレアを見ると



「・・・その、知ってる。ごめん・・・」



と、彼女は気まずそうに俯いて謝った。


優しいなぁ、別に君が謝ることじゃないのに・・・などと、ほっこりしている場合ではなくて!



「そ、そうか・・・エルとのことは誰にも公表していなかったし、知られてないと思っていたが・・・」



「知ってたさ」



「あっ・・・(察し) だから知らないと思っていたはずの周りの人が『元気だせよ』『女のことくらいで気にするなって。次があるさ』『女なんて星の数ほどいるさ。星に手は届かないけどな』とか唐突に俺に言ってくれていたわけか・・・」



「そこまで言われてなんで気付かないんですかね・・・」



しかし何ということだろう。自分とエルの間だけの話だと思っていたのに、実際には数多の人に知られていたなんて。自分はまだいい。だが、自分意外の人間と婚約したというエルに、この噂が悪影響を出していないだろうか?ルーカスはそれが気がかりだった。



「え?一方的に別れを告げてきた女のことを心配しているのかよ」



ルーカスの心情を話すと、ゲイルは心底驚いた。



「まぁ・・・少しは」



エルから婚約破棄を告げられた日、それ以降会っていないのでルーカスは彼女の近況を知ることはなかった。一方的に別れを告げられた故に、かなり強い未練を感じてはいたのだが、それでもルーカスはエルに復縁を縋ることはなかった。いや、正確には一度は話合おうと思ったが、考え直して取りやめたのだ。


彼女には彼女の人生設計があったのだろう。そしてその中にはルーカスが第1戦隊の騎士であることが絶対なものとしてあったのだ。その期待を裏切った自分が惨めに縋る真似はするべきではない。エルはすぐに新しい婚約者を見つけたが、それはルーカスがしでかしたイレギュラーを修正するために必要なことだったのだ。


そう考えてルーカスはエルに纏わりつくようなことはしなかった。



ルーカス達はまだ学生で婚約していた頃、ルーカスは騎士団の第1戦隊配属、エルは魔科学技術省・・・略して魔技省への採用を夢見てお互いに励まし合い、努力していた。最初はあくまで努力目標といった感じで「もしなれたらいいね」といった程度の話だった。


しかし、それでも努力が実を結び、結果がついてくるようになってお互いの目標の達成が現実的になってくると、いつしか「二人できっと目標を達成できるはず」などと思うようになり、それもやがて「二人とも達成できるのは確実」と考えるようになってしまった。


教師や周りの声がそうだったというのもあるが、自分も浮かれていたなとルーカスは今でも思う。



そして運命の時・・・エルは士官学校の生徒ではなかったので試験日の違いなどがあり、ルーカスよりも早く魔技省からの採用通知を受け取っていた。ルーカスもエルも泣いて喜んだ。後はルーカスの第1戦隊の配属の通知を待つばかりだった。


やがて待ちに待った通知が来ると



「嘘だろ・・・?」



驕っていたのだろう・・・第1戦隊へ配属されると確信していたルーカスは、現実には第2戦隊への配属になったと通知が来て愕然とした。ショックから立ち直れない状態のままエルからの呼び出しを受け、そして別れを告げられた。


ダブルのショックで当時は荒れたが、前に述べたようにその原因には自分の不甲斐なさがあると考え、エルに詰め寄ろうとはしなかった。





「はぁ~、貴族様って面倒くさくね?第1戦隊と第2戦隊ってそんなに違うの?よくわかんねーや。そんなんで婚約破棄かよ」



ゲイルが吐き捨てるように言う。


別に口で言うほど貴族のことが理解できないわけではないが、平民出身の彼の本心だった。



「そうだよ。貴族様は面倒くさいんだ」



平民上がりとはいえ、ルーカスは一応実家は貴族なのでそこは良く心得るようにしていた。エルの気持ちも全部ではないが、まぁ理解できると思う。とはいえ物心ついた頃はまだ家は平民だった。心は貴族に染まりきっていない。



「うん・・・そうだね・・・」



ルーカスに同意するクレアも、実家は男爵家だという。裕福な家ではないが、一応貴族なので事情は理解できているつもりだった。





「まぁ、結婚は遠のいたけど、元あったものに目標を切り替えるだけさ」



未練を断ち切るようにルーカスは言う。学生時代はエルとの出会いによって第1戦隊に属して一流の人間として身を立て、家を持ち、彼女とともに幸せに暮らす・・・という具体的な目標を持っていた。


だが、本来は王立学園に入学する前から違う目標を持っていたのだ。



「・・・勇者様になる、だっけ?」



以前にルーカスとマノスで飲んでいたとき、ポツリと洩らしていたのをクレアは覚えていた。



「え、あれマジだったのかよ」



ゲイルは冗談だと思っていたようだった。



「本気だよ・・・いや、本気だったよ。そっちは昔の目標さ」



過去形のルーカスの言葉に、ゲイルとクレアは思わず彼の顔を凝視する。



「勇者様なんてものはそうそうなれない。なれるわけがない」



そう語るルーカスの顔は、どこか諦めきったような、隊でも前向きな彼らしくない顔であった。



「・・・ま~、うん、そりゃだからこその『勇者様』だからな」



圧倒的な力を持ち、邪悪な魔物と戦う、救世の者。国や人によって定義はまちまちだが、概ね勇者とはそういう存在だ。だが、今このロラーシア王国にはそのような人間はいない。


過去の大戦以来の長期に渡るダンジョンに籠る魔物との籠城戦は今だ終わりが見えない。大昔には使命感のみで戦う、勇者と呼ばれた人間がダンジョンの最前線で戦っていたが、何代にも及ぶ終わらぬ戦いによってその行動原理も変わり、今ダンジョンに潜り前線で戦う冒険者の行動原理は富や名誉だ。


国はプロパガンダとして絵本や舞台劇にて理想の勇者像なるものを発信し、それを見て勇者という存在に憧れを抱いて冒険者や騎士になる者は大勢いるが、しかし大体は現場に慣れてくると現実に気付く。



無欲な冒険者は無能、


騎士は単独行動で武勲を上げたりはしない、



などなどだ。


冒険者は上位ともなるとダンジョンで毎日魔物と壮絶な戦いを繰り広げるが、やはり金や名誉への執着が凄い。けどそれは大事な命をベットしてやっているから仕方がない。決して悪いことではない。稀にどちらにも執着しない者もいるが、変人扱いされてあまり人が近寄らないという。


騎士はというと、彼らは本当の危険に晒される確率すら低い。それそのものは悪いことではないが、今の国軍はたまにあるダンジョン内での討伐戦やダンジョンバースト時以外に魔物との戦自体がほとんどなく、あっても効率化され過ぎて魔物との戦闘はほぼ作業ともいえる状態。


どちらもプロパガンダに乗ってかつてルーカスが思い描いていた『勇者様』とは程遠い存在と言えた。



「無欲だが強く、人を惹きつける・・・か。シンプルだが、ま、今の世にはそうそういないよな」



そう言ってゲイルはふっと考えたが、該当するような人物に心当たりはそれほど無かった。



「ま、安酒場でこうしてグダグダ飲んでいるやつは、間違ってもなれるようなものじゃないね」



ルーカスはそう言ってジョッキに残った最後のビールを流し込む。そして通りがかりのウエイトレスにお代わりを注文した。



「でも、近い人がいるとすれば・・・あの人だよね」



少し何かを思い浮かべていたクレアの言葉に、ルーカスもゲイルも、クレアと同じ人物を連想していた。




『特憲のエリーザ』




それは神童と呼ばれ、規格外とされた本物の天才女性騎士。王立学園に入学するや、飛び級を繰り返し、超速で卒業を果たした。自分達の年下になるが、先輩にあたる人物だ。彼女は憲兵団に入ると、そこでも即座に成果を出し、今や特別高等憲兵という雲の上のような存在になっている。



「あぁ、あの子は確かにな・・・ありゃ本物だ。規格外だ」



ゲイルは思い出しながらしみじみと呟く。


剣術、魔術、学術、全てにおいて自分達とはレベルが桁違いだと、ここにいる3人ともが認識していた。



一度だけ、3人もたまたま非番のときに憲兵団内で開催されていた武道会を覗きにいったことがある。憲兵団の中でも名うての戦士が全国からやってきて武を競う催しがあったのだが、そのときに優勝したのがエリーザであった。当時彼女はまだ15歳であった。


特別高等憲兵には凄い女の子がいると、一瞬で全国で有名になった。それまでの神童っぷりは実際に学園に通っていた人間を中心に有名ではあったが、この件で『特憲のエリーザ』は誰もが知る名前となる。


礼儀正しく、誰にでも公正で、体当たりで国の治安維持に臨む。そんな彼女は大衆からも国の誇りと持ち上げられ、女性からも憧れの対象となっている。


ただ、彼女が有名である理由はそれだけではないのだが、それは今は割愛しておく。



「本当、凄いよね。憧れちゃう」



クレアは当時の武道会を思い出して、頬を染めながら言った。一緒に行った他二人も、当時のクレアの興奮っぷりは良く覚えていた。普段は控えめで大人しい性格の彼女が、熱狂してはしゃいでいた。



ルーカスの脳裏に当時の光景がまざまざと蘇る。


戦いの合図から勇猛果敢に突撃するエリーザ。自分の体格の男を翻弄するように繰り出される素早い剣撃で圧倒したり、鋭く剣で攻めていたかと思えば、一瞬で距離を取ってからの雷撃魔術。激しい接近戦の中でなお同時に魔術の詠唱を行うという、この時代では一流と呼ばれる戦士がなしえる高度な戦闘技術を、自分達より年下の少女が使いこなしていた。


会場ではそのエリーザの姿を見て、誰しもが強く美しい戦女神だと称えた。



「聞いたことがあるけど、あれって詠唱を織り交ぜて呼吸するのがコツとかなんとか?なんだそれはって感じだよ」



「えぇぇ・・・私は普通に魔術を使うだけでも精いっぱいなのに・・・」



興奮するゲイルとクレアの会話を聞きながら、ルーカスはエリーザへの憧れを感じたとともに、強い焦燥感に駆られたのを覚えていた。




「俺は・・・あれになれるのか・・・?」



その呟きは、ゲイルにもクレアにも聞かれることはなかった。


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