第13話 懇願の勇者様
ダンジョン・・・それは聖魔大戦以降に地上にいた多くの魔族が籠城した、世界各地の地下に広がる大迷宮である。各国の軍隊を送り込んでダンジョンを制圧しようとした人類は、未知数で広大なダンジョンで不利な戦いを強いられ猛烈な反撃に遭い、あるとき歴史的大敗を喫したことで方針を転換した。
なんとダンジョンに立ち入る権利を広く冒険者に開放したのである。魔物の討伐そのものの報奨金は無いが、ダンジョン内で得られた財宝の所有権を全て認めるということで、一攫千金を狙う冒険者にダンジョンの攻略に参加してもらうという構図を描いた。
狙いは当たり、ダンジョンに保管されていたり、魔族が所有していたりする金銀財宝を求めてダンジョンに潜る冒険者は後を絶たず、ダンジョンの攻略は劇的に進むことになり、年に数度、国軍による大規模な攻略も行われるものの、自然とダンジョンの攻略の進行は専ら冒険者が担うようになっていた。
この方針により、メリットを得られたのはダンジョン攻略のことだけではない。経済面でも非常に大きなメリットがあった。ダンジョンに潜る冒険者には、一攫千金を夢見てダンジョンに潜り、成功して貧民から富豪に成り上がった者が数多く存在するが、一方で、あらかた開発し尽され、危険の少ない上層に留まって弱い魔物を刈ることで安全に収益を得る者達も少なくなかった。大なり小なり冒険者が絶えずやってくるダンジョンの周辺も、当然ながら潤うことになった。小さな農村がダンジョンが近くに発見されたことをきっかけに、『迷宮都市』と呼ばれる大都市にまで発展したケースも少なくなかった。戦場でありながら、莫大な経済効果を生む、無くてはならない必要悪とも言えるダンジョン。このダンジョンでも、稀に一つの大災害が起こることがあった。
-ダンジョンバースト-
ダンジョンは人類と魔物の戦争の最前線であるが、ダンジョンの入り口は常に国の警備隊が駐留しており、稀に魔物が地上に出ようとすることがあっても迎撃されて出ることはない。しかしそれが前触れもなく爆発的に増大した魔物達によって力づくで突破され、ダンジョンの魔物が地上に溢れるのが『ダンジョンバースト』と呼ばれる災害である。
「本日正午、『D15ダンジョン』の警備隊よりダンジョンバースト発生との通信がありました。その通信を最後に、現地の警備隊の安否が確認できておりません。周辺都市はまだ正確な状況は判明しておりませんが、恐らく住民の生存は絶望的と言える状況です」
報告を聞いて、エリーザは鎮痛な面持ちになった。
「それから?」
「魔物の総数は推定6000以上。魔物達はいくらか散開したとされるものの、通信を受け警戒態勢に入っていた各地警備隊の活躍により、現段階では『D15ダンジョン』半径10km内までで被害の大半は抑え込めたものと思われます。王都軍の準備が出来次第、制圧する予定です」
ダンジョンバーストが発生した際、その魔物の数は千を超えることが多い。故に、ロラーシアにおいてはダンジョンバーストの際の魔物の討伐は一切を国軍が担当していた。
「なるほど、先ほどのゴブリンとやらは溢れた魔物の一部ということですか・・・」
エリーザと兵士の会話を聞いていたカイは呟いた。凄い規模の話だと呑気に感心している。ダンジョンバーストについてはガッツに説明を受け、大まかに理解していた。
それにしても自分がこの時代に目が覚めてから、随分といろいろなことが起こるなとカイは思った。
「知らんということは、ダンジョンバーストに遭遇したことは初めてですかな?」
ガッツがカイに問う。
「えぇ、まぁ、田舎にいたものですから・・・」
良くわからないカイは、適当な誤魔化しをした。
「まぁそれが普通でしょうな。そうそう起きちゃたまりません」
ガッツにとっては初めてではないというような言いぶりであった。
「どのくらいの頻度で起きることなんですか?」
「そうですな、世界で年に一度あるかないか・・・というときもあれば、年に何度もあることもありました。どこの国でも国軍はいつなんどき起こるかわからないダンジョンバーストのために、常に警戒を怠らないようにしていますよ」
ダンジョンから魔物が地上へ溢れかえる・・・それは一体どういう状況なのだろう。カイが魔物と戦っていた時代では、魔物は普段はダンジョンに籠っていたものだが、それでも地上にもかなりの数の魔物が溢れていた。戦況は人類が劣勢だったので、従来人類の支配圏とされていた地上を恐れない個体が増えたからだ。
しかし、この時代で起きているダンジョンバーストというのはなんだろう。集団になって地上に飛び出してくる魔物・・・その理由は何なのか。人類に対しての決死の反撃なのか、それとも・・・
「カイ」
「!」
考え込んでいたカイは、エリーザに名を呼ばれて意識を現実に引き戻された。
「詳しくは省くけど、いまダンジョンバーストというのが起きていて、たくさんの魔物がうろついていて危険な状況なの。けど、もう少しで軍による魔物の殲滅作戦が始まるわ」
ここまではカイも理解できている内容だった。
「ダンジョンバーストについては私も説明を受けました。問題ありません」
「あらそう?なら話は早いんだけど・・・これから完全に安全が確保されるまでここを動くことはできないし、今夜はここで皆野宿になることになるわ。本当ならもう王都に着くはずだったんだけど、変なことに巻き込んでごめんなさい」
日がもう大分暮れていた。ゴブリンに出くわしたり、今のような足止めさえなければ今頃は王都の目の前にまで行けていた予定だった。
「それは別にエリーザが謝ることではありませんよ。仕方がないことではありませんか」
野宿はカイだって何度も経験したことだった。むしろ、前いた時代の後半はまともに家屋で休めたことのほうが少なかったような記憶がある。
「ごめんなさい、本当なら今夜は王都のおいしいレストランでご馳走する予定だったのだけど・・・」
それは少し残念だな、とカイは思った。
「ここの安全は我々が確保いたします。ご安心ください」
兵士がカイに向かって言った。先ほどまでいた何人かの兵がいなくなっていた。エリーザが打ち漏らしたゴブリンの討伐に行ったのだろうか。
「私は私ですることがあるから、少しここを離れるわ。申し訳ないけど、ここで待っていてくれるかしら?アネットにもそう伝えておいてほしいの。お願いできる?」
特憲たるエリーザにはやらねばならぬ仕事があるようだ。カイは頷いた。
エリーザはすぐに馬に乗ってどこかへと向かっていた。
「・・・・・・」
モヤっとしたものを抱えつつ、とりあえず馬車に向かうカイ。そういえばアネットが静かなだな、と思っていたが、彼女は馬車でうずくまりながら熟睡していた。
「ゴブリンが出る前からこうでしたよ。よく寝る人ですね」
ガッツが言う通り、アネットはとてもよく寝ている。しばらくは目を覚ますこともなさそうだ。
エリーザからの言伝を伝えるために起こすのも気がひける。そうなるとすっかり手持ち無沙汰になり、カイはどうしたものかと空を仰いだ。空は今にも闇に染まろうとしていた。
「夕暮れか・・・ 本当にこれから大規模な征討が行われると・・・?」
自分がいた時代では夜となると、多くの魔物が活発になる時間だった。元はダンジョンに潜み、闇と同化している者達であるからだろうか。人は闇の中では満足に物を見ることはできないが、奴らは違った。真っ暗なダンジョンでも的確にこちらの位置を掴み、攻撃を仕掛けてくる。闇に包まれた夜に魔物と戦うということは、とにかく不利なのだ。それが常識だった。
だが、これから軍が魔物の征討を行うという。多少の周辺への被害の拡大のリスクがあってでも、現状を維持し、夜明けを待つべきなのではないか?そうしないからには、そもそも自分の時代とは根本からして戦い方が違ったりするのだろうか。
「見てみたい・・・」
カイは思わず呟いた。本心だった。
自分は今あくまで一般人(?)の立場だ。これから軍事行動を起こそうとする中で、自由にこの辺を出歩くことはできないだろう。征討の現場を見物したいなど言語道断だ。
しかし、そうとわかっていても・・・
「もしかして、これから始まる戦いを見物したいと考えておりますかな?」
カイの呟きを聞いたのか、ガッツが察したようだった。
「えぇ、まぁ・・・叶いませんでしょうが」
隠しても仕方がないのでカイは素直にそう言った。自分でそう言いながら、体がうずうずして仕方がなかった。兵士が何人か残り、自分達の安全を守ってくれている。それはありがたいことなのだが、どうにかして目を盗んで見物に行けないものか、カイはそう考えていた。
「見物だけなら出来るかもしれませんぞ」
ガッツの言葉に、カイは耳を疑った。
「本当ですか?」
思わずカイは詰め寄っていた。
「まだわかりませんが、多分は」
そう言いながらガッツはチラリと兵士に目を向けた。
「もし出来るというのでしたら、お願いします」
カイはガッツに頭を下げる。
「頭を上げてください。大したことではありませんから」
ガッツはそう言って照れくさそうに笑いながら、近くにいた兵士のところへ歩いて行き
「なぁ、すまんがあんた方は第七軍でしたかね?」
彼はそう尋ねた。
「む?」
突然の質問に兵士は一瞬怪訝な表情を見せるが
「はい、我々は第七軍になります」
そう答える。
憲兵以外の国軍人は、国民に素性を問われたら答えねばならない義務があった。
「やはりそうか。では頼みがあってな。軍団長に会わせてもらいたい」
大きく頷いたあと、あろうことかガッツはそう言った。
「は?」
案の定、兵士はポカンとしている。更にガッツは言った。
「軍団長のバットンに『鍛冶屋のガッツ』が会いに来たと伝えてくれんか。それで向こうもわかるはずだ」
兵士は近場にいた他の者と顔を見合わせた。
「・・・一応、伝えておきましょう」
怪訝そうな表情をしながら、面倒くさそうに兵士は陣の張っていると思わしきところへ歩いていった。
「・・・軍団長とお知り合いなのですか?」
カイには目の前の髭面の男が、軍属にはあまり見えなかった。
「まぁ、ちょっとした縁ですがね」
ガッツはそう答えるが、「ちょっとした縁」で軍の軍団長に気やすく面会しようとするだろうか。カイが訝しんでいると
「た、大変失礼しました!」
先ほどの兵士が血相を変えて息を切らしながら戻ってきた。
「軍団長がすぐに来ますので、今しばらくお待ちください!」
兵士の態度のあまりの豹変ぶりにカイが目を丸くしていると
「ガッツさん!」
見るからに他の兵士より身なりのいい兵装をした男が、傍らに二人の兵を伴わせて走り寄ってきた。周囲にいた兵士がビシッと直立不動になり、場の空気が一気に緊張した。
なるほど、恐らく彼がこの第七軍とやらの軍団長なのだろうと、カイは思った。
「ご無沙汰しております。なんたる偶然!こんなところにいらっしゃいましたとは」
「ふむ、久しぶりだのバットン」
軍団長は平身低頭だった。それに対して明らかにガッツは軍団長を呼び捨てにし、上位にいるという態度であった。自分に対してとはまるで違うその態度にカイは心底驚いていた。この二人はどういう間柄なのだろうか。
「まさかガッツさんの方から私のほうを訪ねていただけるとは。一体どういった御用でしょうか?」
そう訪ねる軍団長バットンは、心なしか緊張しているように見えた。
「なに、ちょっとしたお願いがあってな。それさえ叶えてくれるなら、お前さんの得物を一度面倒見てやろうかと思ってな」
ガッツがそう言うと、バットンは「えぇっ」と素っ頓狂な声を上げてから
「本当ですか!?なんでもおっしゃってください!全力で力になりましょう!!」
慢心の笑顔になりながら耳をつんざくほどの大声で、彼はそう言った。
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ところ変わってここは『D15ダンジョン』。どういう意味でつけたのかは誰も知らないが、今回ダンジョンバーストを起こしたダンジョンにはそういう名前が付いている。
世界各地にダンジョンは点在しているが、そのダンジョンの命名や管理は国によって様々だ。ロラーシアでは、国内で発見されたダンジョンについては、発見者にそのダンジョンの命名権が与えられていた。このダンジョンの発見者は一般の冒険者だったが、『D15ダンジョン』と名付けたその由来は誰もわかっていない。
しかし、名の由来は知らずとも、王都に比較的近く、流通が盛んな場所にあるこの『D15ダンジョン』は、ロラーシアでも有名で、多くの冒険者の行き交うダンジョンであった。この周辺に自然と出来上がった街は発展を続け、やがては国でも有数の迷宮都市になるだろう・・・そう思われていた。
だが、ダンジョンバーストが起きたことにより、街は一瞬にして死んだ。
(死の街か・・・)
廃墟となり、人は一人も残っていない街を駆ける複数の人影があった。
その人影の一つ、コリンズは先頭を走っていた。彼は今回斥候を務める王国騎士団の隠密部隊の隊長である。強化魔法の力により、風のように早く、音もなく、気配も完全に絶ちながら彼らは進んでいた。目的地は『D15ダンジョン』である。ダンジョンの入口は既に間近であった。
(ここも記憶から消される街になるのか)
任務中であるにも関わらず、コリンズの頭には余計な考えが浮かんでしまっていた。この『D15ダンジョン』の街は彼が王国の隠密部隊になる前、幼少期を過ごしたことのある場所だった。成人してからも何度か来ていたが、賑わっていた街が見る影もなく廃墟になってしまっているのを見て、流石に深く心が痛んだ。
ダンジョンバーストによる魔物の人口爆発により、この街は一瞬で滅んだ。ダンジョンバースト時の魔物の動きは、通常のそれとは違い、ダンジョンを飛び出した魔物は破壊活動も殺戮にも固執せず、とにかく一目散に遠くまで移動しようとする。ある程度ダンジョンと距離を取った魔物は、通常の魔物に見られるような行動パターンに戻ることもあるようだが、少なくともダンジョン周辺では何にも目をくれることはなく、ただただ大移動をするのみである。そのただの大移動だけで、この街が滅びた。迫りくる魔物の群れに人は押しつぶされ、建物は紙くずのように破壊される。魔物に破壊の意思はなくとも、まさに魔物という形の衝撃波によって街は破壊され尽くしたのである。ダンジョンバーストは、実のところシンプルに大規模なの魔物の急激な大移動だが、発生するタイミングがわかるわけでもなければ、ダンジョンが存在する限り防ぐ手立てもない・・・自然災害に近いような理不尽な災難と言えた。
コリンズは心の中で軽く死んだ者達の冥福を祈った。
この廃墟に立ち入ってからというもの、既に数えきれないほどの人間の死体を見た。ある程度形を留めているものはまだいいほうだが、擦り潰されたりして原型などないものの方が多い。ダンジョンバーストでの魔物の大移動は、人間はおろか建物ですら原型を保つのことのない破壊を伴うので仕方がなかった。それはわかっていたのだが、自分にとって少なからず思い入れのある場がこんなことになるだなんて、やり切れない気持ちでコリンズの心の中は溢れていた。
(隊長、ポイントに到着しました)
共に行動をする部下から、魔術を用いた念話がコリンズの頭の中に響いた。彼らはD15ダンジョンの入り口へと到着していた。
(周囲に魔物の姿はありません)
周囲を偵察していた部下も遅れてやってきた。
魔物に発見されないために、彼らは声を出さず念話で意思疎通をしていた。
(良し、それではこれよりダンジョンに潜る。トマスとユリアスは入口を見張れ)
コリンズに呼ばれた二人の男がダンジョンの入口に立ち、それからコリンズを含む残る5人が不気味に静まり返るダンジョンへ潜っていった。ダンジョンバーストが発生したダンジョンは魔物が存在せずもぬけの殻となるので、特に何の障害もなく進んでいく。
(激しいな・・・)
ダンジョン内は大量を魔物が押し合いながら移動をしたためか、ところどころ壁が傷んでおり、血痕や魔物の肉片も無数に見られた。コリンズ達は途中壁の何カ所かに札を張り付けながら、奥へ奥へと潜っていく。それは爆発魔術の術式が描かれた札であった。
コリンズ達隠密部隊の今回の任務は札を使用した爆発魔術により、このダンジョンを爆破して崩落させて塞いでしまうことだった。これにより他の魔物がダンジョンから這い上がってこないようにするのである。ダンジョンバースト時には這い出た魔物を群れを騎士が引き付けて戦場へ誘導する一方で、こうして誰もいなくなったダンジョンを隠密部隊が爆破して塞ぐことで、征討作戦に支障が出るような魔物の増援を防ぐのが決まりごとであった。最もダンジョンバーストを起こしたダンジョンは、ひとしきり魔物が飛び出た後は、一匹も残っていないのではないかというほどにがらんどうとしているので、増援があるとは考えにくいのではないかという意見もあった。しかし万が一ということもあるため、ダンジョンは2度と再生しないが、被害の拡大を止めるためには爆破して塞いでしまうというのは仕方がないということになっていた。
(最後にもう1カ所。これで終わりだ)
既にある程度の階層に札を貼った。爆破すればダンジョンの再生は極めて困難だろう。ダンジョンは無いものとなるが、今後脅威になることもない。
コリンズは最後の1枚を札を壁に貼ろうとし、あるものに気づいた。
「なんだこれは・・・」
隠密行動中にも関わらず、コリンズの口から思わず声が漏れた。
そこにあったのは魔物の死骸であった。ダンジョンバースト時に見られるような、人間や魔物の死に方とは少し違う、鞭のようなもので激しく攻撃されたようなズタズタにされた跡が無数に見られた。それもそうした死骸は一つではなく、いくつもダンジョンの奥に向けて点在していた。
(これは何でしょうね。鞭使いの冒険者でもいたのでしょうか)
唖然としているコリンズの横に立った部下も、同じく魔物の死骸が気になったようだ。
(鞭使い・・・いやしかし・・・)
鞭使いの冒険者は存在する。しかし、コリンズにはどうもひっかかることがあった。
魔物はダンジョンの出口に向かってるところに背中から攻撃されたような形で死んでいるようなのだ。つまり、向きとしてはダンジョン奥から出ようとして背中から攻撃されている。ダンジョンバースト時に後ろから迫る何かに攻撃されたとみられるが、冒険者がそんなことをするとは思えない。何故なら、ダンジョンバースト時にダンジョンにいた冒険者は今までほとんど例外なく死んでいるからだ。魔物の突発的な大移動により、津波となって押し寄せる魔物という脅威からは、(多くは無駄ではあるが)遮蔽物に身を隠したり、大急ぎで地上に逃げたりと身を守るので精いっぱいである。わざわざ背後を狙って攻撃する冒険者がいるとは思えない。
(そうすると・・・)
外傷がわかるくらい死骸が形を残しているからには、これはダンジョンバーストが発生してから死んだ魔物だと考えられる。ダンジョンバーストが発生する前に死骸があれば、ダンジョンバースト発生時に踏みつぶされて形なんて残らない。
つまりダンジョンバースト発生時に、大移動する魔物を後から追って仕留める存在がいたのだ。そしてそれは冒険者とは考えづらい。
(鞭といってもかなり大きな傷跡ですね・・・もしやこれは・・・魔物とかの触手とか・・・?)
(わからんな・・・だが)
コリンズは僅かに考え込んでから
(念のため、報告しておこう。ここを出次第、すぐに通信の用意をしろ)
そう言って最後の札を壁に貼りつけ、素早くその場を立ち去った。
その数分後、貼り付けていた札にある術式が発動し、ダンジョン内の複数箇所で大爆発が立て続けに起きた。これによりダンジョンは崩落し、『D15ダンジョン』は閉鎖された。
「ダンジョンバースト」とは、この災害の対処としてダンジョンをこのように爆破することから名づけられたとも言われている。




