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第26話 探偵 転生者の覚悟を知る

 防犯装置のレーザー光を湘賢の障壁で防ぎ、特殊部隊を万華が無力化しながら進んでいくと、ビルにして6階くらいの高さのある第6倉庫に着いた。


 近づくと、血の臭いと汚物の臭いが混ざった異臭がした。それは、権蔵に倉庫の中の惨状を覚悟させるに十分な臭いだった。


「ここは魔力結界が張られているで。つまり、中には魔法を使う奴がおるちゅうことや」

と万華が扉を前に警告した。


 そして、万華が入り口を破壊すると、もの凄い異臭が外に漏れ出した。

 中は、肉片と骨の山。頭蓋骨が見え隠れし、それが人間の死体だったことを辛うじて示している。


「俺も、昔の仕事で、腐乱死体の現場に立ち会ったけどな、そんな俺でも参ってしまうぞ。これは」

 

 権蔵は、刑事だった頃、豪邸に住んでいた老夫婦とその長男の家族4人、計6人が惨殺された事件に立ち会ったことがある。犯人は一部屋に犠牲者を集め、一人一人、鉈で殺したのだ。発見されたのは1ヶ月後、夏の暑さが残る秋口のことである。その惨状は言うまでもない。しかし、第6倉庫は、それが大したことが無いと思わせるほどに酷いものだった。


 その惨状の中で、動くものがあった。それは、うめき声を上げ、叫び声を上げ、訳の分からないことを口走っている。信じられない事に数人の女性だった。


 そして、その中の一人の女性が、悲鳴を上げて、何かを産み落とした。

 その何かは、周りの肉片を喰らってあっという間に大きくなった。

 黒く、細長い手足、牙の生えた口、バサバサの髪。その姿は餓鬼そのもだ。

 そして大きくなった餓鬼は、先ほど自分を産み落とした女性に乗り始めた。


「……」

と万華で組紐を使って、その餓鬼を貫き殺した。


「ガガットだ。魔王ガガットの仕業だ」

とフレリーは、怒りを伴って唸った。


「ひでえことしやがる。如何したら良い? 彼女達を仙術で治せないのか?」

「残念やけど、もう心が壊れとる。あれでは記憶を消して、体を再生させても、無理や」


 これが、異世界の魔王の仕業。権蔵は怒りがこみ上げ、犠牲者を考えると暗澹たる気持ちで心が沈んだ。


「権さん、これは蓬莱の仕事や。転生者の仕事やあらへん。ウチらは神さんから引導渡すことを許されているんや。ただ、犠牲者の思いは受け止めてな。ウチらは何時か、この世界の人間の記憶から消えるけん、無念の思いを伝えるのは、転生者の仕事や」

と万華はうつろな目で覚悟を語った。


 それは、蓬莱の仙人の覚悟と転生者の覚悟だった。


 そして、万華が両手の人差し指と親指を胸の前で合わ三角形を作ると、苦しんでいた女性達は、牛頭巨人を転移させた時のように、一瞬で消えた。


「転移したのか?」

「いや、消滅したんや。彼女たちは生まれ変わるために逝ったのや」


『無念の思いを伝えるのは、転生者の仕事や』と先ほどの万華の言葉が、権蔵の心に蘇った。そしてその時、蓬莱の仙人と転生者の役割が分かったように感じた。


 転生者は、英雄や革命家、先駆者として、その世界の人々の記憶に残る。しかし蓬莱の仙人達は他の平行世界に行ったとき、元の世界の人々の記憶からは消え去る。

 魔王討伐や大惨事の救助など、力のある仙人達だけで行う事は造作も無いことだろう。しかし、それでは教訓も、経験も、そして犠牲者の無念の思いも残らず、平行世界の発展はなくなる。

 そのために仙人達は転生者を助けて、体験させ犠牲者の無念の思い受け止させて、後世に伝えるだと。


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