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第17話 万華とライバル

「お前さ、カツ丼、牛丼、カレーにうどん、どんだけ大食いなんだ」

と俺は、勇者を名乗る男に文句を言った。


「この1ヶ月丸薬しか食しておらず、このように美味いものは久しぶりなのだ。もうないのか?」

「ねぇーよ」


「私は、勇者フレリー・フォン・フォールケンであるぞ。もう少し、カツ丼を所望したい。持ってきてくれたまえ」


「万華、こいつ殴って良いか?」

「かまへんで」

「ぐぁははは、私は勇者フレリー・フォン・フォールケンであるぞ。商人のパンチなどに些かも動じない。さあ来い」


ゴツ


「痛っ」

と勇者は頭を抱えた。


「なあ、あんた、最後は誰と闘ったんや?」

「魔王 ガガット・ガレイ」

と頭を抱えた勇者が答えると、

「魔王 ガガット・ガレイか」

と万華は少し上を見て復唱した。


「万華、知っているのか?」

「知らへん。地方の田舎魔王やろ。それで、魔王の決め技なんや?」

「『空間極小』と言っていたような ……」

と定食屋で話をしていると、店の扉が勢いよく開いた。


 そして、

「ワテのクライアントを返せ! さもないと命ないで!」

と叫ぶ者が現れた。


 そこには、10歳位の少年が立っていた。服装は現代の服装なのに、何故か右手に払子(ほっす)を持っている。


「さあ、返して貰うで。勇者フレリー・フォン・フォールケンこっちへ()や」

とその少年はツカツカと万華の後ろまでやって来た。


 俺は、勇者に向かって

「お前の知り合いか?」

と聞くと、

「いや、知らない」

と答えた。


「ワテは、コンシェルジュやで。忘れたんか」

とその少年は訴えている。


 すると、そこに万華が割って入った。

「ふっ、このへたれ勇者は、オノレのクライアントやったのか。どおりでへたれやと思ったわ」

とあの殺戮者の笑みとも違う不思議な笑みを浮かべて答える。


 少年には、背を向けて座っている万華の顔は分からない。


「お前、誰や」


 これは、一触即発の予感、店の全員が黙り、空気が張り詰める。


「この声、忘れたんか? 屁理屈仙人」

と振り向くと、

「脳筋天女! 何でお前がここにおるんや!」


「オノレ、ひょっとして、蓬莱の事故知らんのか? えええ、知らんのか?」

と明らかに優位に立ったことを誇っている言い方だ。


「事故? 事故ぐらい、後で調べる」

と少年の声が小さくなった。


 しかし、

「が、今はクライアントの無事が重要やろ。それこそが蓬莱の仙人に課せられた使命や。どっかのあほ脳筋のように、魔王討伐にかまけてクライアントを危機に貶めるのは、最低やで」

と声を大にして反撃した。


 すると万華は、俺でも分かる怒りのオーラを発した。


「表でろや」

「おう、望むところや」

と2人して店を出て行った。俺と勇者はその後を追う。


 二人が人払いの結界を張ったのか、俺たち以外の人間がいなくなった。


 そして万華は組紐を槍に変え鎧姿になり、屁理屈仙人も道士服に変身した。


「タイマンでウチに敵うと思てのか?」

「相変わらず脳筋馬鹿やな、仙人の闘いは筋力だけやないやろ。頭や」

と、少年は自分の頭を指して、馬鹿にした言い方で万華を挑発した。


「このクソガキが」

「あほ女め」


 双方、罵りながら、空中で激突した。


 万華は槍で攻撃するが、屁理屈仙人は払子を使って、障壁の様なものを作り出し、つぎに指をちょっと折り曲げて稲妻を発生させて攻撃する。それを万華は、槍で絡め取り投げ返した。


「なんだ、XXXX」

「オノレこそ、XXXX」

と表現するも憚られる言葉と槍、風や雷の応酬が続く。


「あの2人、知り合いだよな」

「ああ、多分な」

と俺たちは、何時まで続くのか、2人の勝負をぼーっと見ていた。


 そこへ、何処からともなく、ラッキーがやって来て、一声 ニャー と鳴く。すると、2人の動きがピタッと止まった。


 そして次の瞬間、万華の槍は組紐に変わり、2人とも服装も普段着に戻った。

 周辺は何事も無かったかのように人々が行き交っている。


   ◇ ◇ ◇


「こいつは、蓬莱の仙人の湘賢や」

「湘賢真人や。普通の仙人や、どこぞのアホ天女と一緒にすな」

「なに言うてんねん。ウチはおまえと同格やど。ええか、権さん、ウチとこいつは同格やで」

と万華はやけにムキになる。


「分かった。分かったから、魔王の話を聞こう」

と俺は促した。


 湘賢によると、魔王ガガットは、人を食うことで魔力を増し、人間の女性を使い子分を増やして、勇者が暮らしたブリリアット大陸を征服しようとしたらしい。スプラッター映画みたいだ。

 様々な犠牲を払いながら、何とか追い詰めたが、最後に魔王は『空間極小』で勇者を殺そうとしたため、湘賢は、やむなく勇者をブリリアント大陸内の離れた場所に瞬間移動しようとした。しかし、どういうわけか第3平行世界まで飛ばされてしまった。

 そのため、聖剣フォルーラーで貫いたはずの魔王の死亡を確認することが出来なかったらしい。


「なんや、留めさせずに失敗したんやな」

「うるさい、脳筋。ドつくぞ。死んだかどうか分からへん言うとんのや。留めさせたかもしれんやろが」

「なにを、屁理屈こねてんねん ・・・」


 万華と湘賢の言い争いは続くので、俺と勇者は店を出て、事務所に戻った。


   ◇ ◇ ◇


「お願いだ、助けて、ギャー、ゴボッ、あああぁぁぁぁ」

「足りない、まだ、足りないぞ、肉が足りない。血が足りない。餌が足りない」


 血の臭いが充満した部屋。そこに人を引き裂き、内臓を喰らう影。その影に近づく者たちがいた。


カツカツ

———暗闇を歩く音———


「いや、食事中悪いね。これ君のでしょう」

「そうだ儂の魔法具だ、返せ!」


 影は手を伸ばし、入ってきた者の手から魔法具を奪った。


「とこで君、魔力は戻ったかな? 君は僕の装置で異世界から転移させた初めての魔族だからね。もの凄く興味があるんだ」

「粗方戻った。なんなら、お前で試してやろうか?」


「命の恩人である方に対して、失礼であろう」

「まあまあ、妲己さん、落ち着いてください。それから魔王ガガットさん、これから君の実力を発揮する場面が出てきますよ」


「なんで瀕死の儂を助けた?」

「たまたまですよ。平行世界転送が出来そうな魔族が君だったってことです」


「平行世界? なんだそれは」

「それについては、そのうちに。そうだ、餌を数人連れてきました。存分にお召し上がりください」


 数人の男女が兵士達に押されて部屋に入ってきた。


「今日は、君の魔法具を渡しに来ただけです。魔力回復に努めてください。さあ、妲己さん、行きましょう」


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