第1話-2 探偵、転生失敗
「ぐわっ、はあ、はあ、くそー、痛てー …… はずだよな」
あれ、俺、刺されたんだよな。刺されて死んだのか? と言う事は、ここは死後の世界ってやつか。見上げると、無数の光りが飛び交ってやがる。いや、空中に道の様なものがあって、光りはその道に沿って走っているようだな。さて、ここは天国なのか地獄なのか。それとも、これから審判が下るのか。
俺には苦い経験がある。公務とは言え、人を殺めている…… これから行くのは地獄かもな。
「千野 権蔵」
と俺を呼ぶ声。
野太いその声は、まさに閻魔様を思わせる声だ。ああ、ここで判決が下るのか。
「千野 権蔵 なのか? 呼んでおるのだから、返事をせい」
「ああ、俺、いや私は千野 権蔵です」
「其方は、前の世界で死んだ。分かるか?」
「ええ、まあ」
生々しいほどに、刺されたときの記憶は残っている。あれ、胸の刺された跡は無いな。
「ふむ、よろしい。第3平行世界での休暇は終わりじゃ。次は第16平行世界に行ってもらう。今回は急を要するので転移じゃ。それから、現地に着いたら特別な能力を授ける。まあ、頑張って努めて来るのじゃぞ」
ん? 平行 世界だと? なんだそれは。
「失礼ながら、平行世界と言うのは何でしょうか?」
「気にするな。世界とはそう言うものじゃて。説明するのは面倒くさい。つべこべ言わずに、行け!」
と声が掛かると、俺は光りの中を猛スピードで飛び始めた。
ひょっとすると、これは、異世界転生か?
不審者の手がかりを探るために上坂京子の小説を読んだことがある。不慮の事故で亡くなった主人公が、異世界に転生し、女神の助けを借り、特殊能力に目覚めて勇者になる物語だった。
千野 権蔵 40歳。俺の人生は、こんな所だろうと諦めていた。しかし、異世界でやり直しができるとは思いもしなかった。
それに特別な能力と言っていたな、ひょっとして俺も勇者になるのか?
俺は死んだ。しかし、転生して勇者になる。これからどんな冒険が始まるのだろうな。なんかワクワクしてきたぜ。
ん? 前の方から声が聞こえるぞ。
「なに、なに、なに、なんでウチのルート上におんのよ! オノレじゃまや! 退け、退け、退けー」
と天女のような羽衣を着た若い女だ。
不味い、このままではぶつかる。どうやったら進路変更できるんだ。
体をひねったり、手足をバタバタさせてみたりするが、進路も速度も変わらない。
「あー、もう、どアホ」
と声が聞こえたとき、ガチンと音がするくらい激しく衝突し、死んでいるのに気絶した。
◇ ◇ ◇
「うわ、た、大変だ。犠牲者が息を吹き返した。…… 直ぐに救急へ連絡! 緊急搬送を依頼しろ!」
「千野さん、大丈夫ですか? 千野さん、気をしっかり …… 」