ある少女に起きた悲劇
暴力的な表現を含みます。
テラ・メエリタのとある国、とある辺境地の、ある辺境の村に一人の少女がいた。
彼女は、誰もが見惚れるような美貌を持つ、大変美しい子どもだった。
新雪のように純白な髪。
左右で色味の違う宝石のような碧眼。
一点の傷も曇りもない透明感のある白い肌。
顔立ちは、超一級の人形職人が作ったように完璧に整っていた。
目も鼻も口も、左右で色味が違う瞳も、右目の目じりの下にある二つ連なった黒子も、すべてが完璧に配置され、大きさも見事の調和を取っていた。
そんな彼女だが、特に目は少し見ただけで強く印象に残るだろう。
大きく切れ長できれいなアーモンド型をしている。
なんの穢れも許さないような、冷たさを感じるほどの高潔さを見せていた。
しかし、綺麗な二重瞼が大きな目を少し眠たげに見せているのこと、少し下がり気味の眉が彼女から適度に冷たさを取り除き、絶妙なバランスを保っている。
村の中でも一番の美貌の少女だった。
美貌の少女は人間ではない。
テラ・メエリタ多く存在している、亜人という人の近親種の少女である。
この世界に亜人は、人間と同じくらい生息しているが、彼女は亜人の中でも珍しい部類の種族に属していた。
少女が暮らしていた辺境の村は、彼女のような希少な種族が身を寄せ合って暮らしている村であった。
どこの土地からも交通の便が悪く、その村は他の集落とは一切の交流を持てない土地にあった。
それにより、よそ者は入り込まず、自分たちに害をなす存在から身を守ることができていたのだ。
しかし、平穏な生活は突如として終わりを迎えることになる。
テラ・メエリタに害成す存在である邪神。
その分身体であり、人々からメルムと呼ばれている怪物が、彼女たちの村を襲ったのである。
長いこと外的に襲われず、戦うことに不慣れであった村人たちは、怪物の圧倒的力の前になすすべなく、老若男女問わず無残に殺され、喰われていった。
少女の両親も、殺された村人の一人であった。
それでも何とか、決死の覚悟で戦い、村が滅亡する一歩手前で何とか、メルムに勝利することができたのだ。
けれども、その勝利も無意味なものとなってしまった。
村はさらなる脅威にさらされたのだ。
メルムの襲撃があった、すぐ直後に大規模な盗賊団に襲われた。
その盗賊団は略奪行為と、人攫いを行うことで生計を立てている集団だった。
この村は希少価値の高い人種で構成された村だ。
村民たちはみな、人身売買の市場では高値が付く者ばかりだった。
盗賊たちからしたら、メルムとの戦いで疲弊しきり、反撃もろくにできないような村人たちは、最高の獲物に見えただろう。
盗賊は、高値で取引できる村人は一人残らず攫い、あまり価値のない者、反抗するものは一人残らず殺した。
少女も盗賊団に捕らえられた者の一人だ。
メルムと盗賊の襲撃によって、辺境の村は滅亡を迎えた。
少女の人生は、この事件を機に大きく捻じ曲がることになる。
この時の彼女の年齢は4歳。
4歳にして彼女はこの世の地獄を見ることになってしまったのだ。
美しさと希少性、この二つを兼ね備えてしまっていた彼女は、盗賊団の中でも特に人気のある獲物だった。
盗賊団に捕らえられた後、彼女はすぐに奴隷商人に売り飛ばされた。
彼女を買い取った商人は、希少価値の高い人種を主に取り扱い、取引相手も高名な貴族や豪商など、上流階級を相手にする高級奴隷商だった。
買い取られた後、彼女は数多くのオークションで展示され、数多くの上流階級に商品として品定めされた。
ところが、彼女を所有していた奴隷商人はなかなか彼女を売ろうとしなかったのだ。
別段彼女のことが気に入っていたわけではない。
これまで、商人が彼女に着けた最低価格に、納得する人物がいなかったのだ。
商人が彼女につけた値段は、上流階級の中でも特に上級の者でないと支払うことができない価格だった。
周囲の者は、この価格設定に異を唱える者がほとんどであった。
しかし、それでも商人は少女の値段を下げることは良しとしなった。
この奴隷商人は、性格や品性は人間の屑のような人物だったが、商人としてのセンスは一流だったのである。
その証拠に、少女が7歳の時に、一般人が一生かけて稼ぐような金額で彼女を売り抜くことができたのだ。
商人にとっては幸運な出来事だったが、処女にとっては最悪の出来事になった。
彼女を買い取った人物は、商人以上に性根の腐った畜生以下のゴミ野郎だったのだから。
買い取られてからの彼女の生活は、過酷を極めた。
貧民街に住む浮浪児の方が、いい生活をしているといっても過言ではないほど、辛い生活だった。
嬲られ、貶され、汚されて。
名前すら奪われた彼女に、人権など存在するはずもない。
どんな宝石よりも澄んでいた瞳は、絶望に濁りきり、白い肌にはいくつもの傷跡が増えていった。
嗜虐趣味のある飼い主は、少女が傷つけば傷つくほど悦に浸っていった。
最初のころは必死に抵抗したが、抵抗すればするほど、飼い主を喜ばせると分かってからは、すっかりされるがままになっていった。
自ら命を絶とうと思った回数は、片手で数えられる回数を優に超えている。
しかし、それでも彼女は生きていた。
生かされていた、といった方が正しいだろう。
彼女には死ぬ権利も残されていなかったのだから。
だから、その日が来たことは彼女にとって、人生で最大の幸運だった。
自分の飼い主の機嫌が悪く、何をしても無反応な少女の態度に腹を立てて、八つ当たりするように彼女の細い首を絞めたのだ。
飼い主は、首を絞めて命の危機を感じさせることで、彼女を怯えさせようとしたのだろうが、彼女にとって好都合なことであった。
されるがままのどころか、満足したような少女の表情に、逆上した飼い主はより強く、首を締めあげた。
これで両親や、死んでしまった村人たちのもとへ逝ける。
そう思った少女は満足そうに眼を閉じた。
そしてついに、少女は意識を手放した。