Life again!!⑤
え???????
マジで???????
いや、話の流れ的にそうなんだろうけど、これまでの話を聞いて、はい分かりましたと答える気にはなれない。
苦虫を嚙み潰したような顔をした私の目の前に、彼は物語に出てくる王子様のように跪いて私の手を取った。
「どんな世界でも人は必ず、大なり小なり運命を背負って生まれる。君はバッドエンドお嬢様を救うという運命を背負って生まれた人なんだ。君の魂を見て、すぐにその運命が見えた。そして、生前の君の様子を見てその運命に間違いはないと強く確信した!」
目は見えないが、今彼の目力はすごいことになっているだろう。
対して私は、どんどん目に力がなくなっていっていることだろう。
「苦難に巻き込んでしまうのは本当に申し訳なく思う…、でも、どうかお願いだ。」
「僕の世界を助けてください。」
お願い。
助けてください。
この二つの言葉に、なぜだか私の心は強く反応した。
助けなきゃ、お願いをかなえなきゃ、困っている人は助けなければならないという強い気持ちが私の心を支配していく。
まるで強迫観念のように。
なんだなんだ?
生前の私は、ヒーローでもやっていたのか?
「君の補助は最大限行うよ!もちろん転生特典も付ける!だからどうか、お願いします!!」
私の手を取って跪いていた神様は、立膝の姿勢になり、私の手を放して水の中に両手をつけた。
今、彼は顔を私の方に上げて、四つん這いの姿勢になっている。
この人は土下座をするつもりだっ!!
頼むからやめてほしい。
私の心が人様、というか神様に何をさせるのかとパニックを起こしそうになっている。
そうこうしているうちに、神様は徐々に土下座スタイルに移行していく。
慌てて止めようとするも、なかなかやめようとしない。
今彼は、正座で座り、手をついて俯いている。
私はその彼の前で立膝になって、神様に顔を上げてもらうように頼んでいる。
人に懇願させるなんて!人様に土下座させるとは屑のやることだ!!
人が困っているんだ、何がんでも助けろ!!
断ることなんてできないだろうが!!
兎に角、彼と世界を助けろ、と心の中では強迫じみた命令が繰り返されていた。
視界が狭くなってくる。
自分に選択肢はないのだと心が叫んでいる。
心の声に逆らうことができず、私は転生しバッドエンドお嬢様を助けることを了承した。
その瞬間、神様は勢いよく顔を上げて私に抱き着いてきた。
「ありがとう!!!よろしくおねがいするねぇ!!!」
神様は金木犀のような香りがして、意外とがっしりしていた。
あぁ…、了承してしまった。
とんでもないことに巻き込まれそうな嫌な予感をひしひしと感じながら、感謝の言葉を繰り返し、感極まって号泣しだした神様をなだめている。
ひとしきり泣いた後、彼の気持ちは落ち着いたようだ。
「いやぁ~、ごめんねぇ。嬉しすぎて涙が止まらなくて…。」
神様は少し顔を赤らめている。
「さて、転生の準備を始めるとしよう。転生特典は決まっているんだ。でも、能力は決められても、君の体や、君が生まれてくる環境は設定できない。極力強い肉体かつ、いい環境で生まれてくるように願掛けするけれど、微妙だったらごめんね。」
運要素絡んでくるんだ…。
しかも、神様が願掛けって…、いったい誰に願掛けするのだろう。
さっそく不安要素が見え始めてきて、私の次の人生は波乱に満ちているような気がしてきた。
出来れば
「君にはいろいろと苦労を掛けてしまうと思うから、転生特典とは別でちょっとした送り物をしようと思うんだぁ。どんなものかは生まれてからのお楽しみだよ!」
今教えてほしい…。
そんな私の思いは届かず、神様は説明を続けた。
「テラ・メエリタでの君は、亜人種という人間ではない人種になることもある。人間ではできないことができる種族なんだよ!種族によっては身体能力が高かったり、変身できたり、魔法が得意だったり、いろんな個性があるんだぁ。」
人間以外のものになれるというのは、夢がある。
いろいろな事件に巻き込まれることは、火を見るよりも明らかなため、可能な限り頑健で強い個体にしてほしいところだ。
「次に、君の転生特典なんだけど…。」
神様が説明を続けようとした時、急にあたりが陰りだした。
雲が動いていないはずなのに、日陰ができるとは一体何が起きたのか。
空を見上げると、急速に真っ黒な影が虫食いのように空に広がり始めていた。
「くそっ!!気づかれた!」
神様がひどく焦りだした。
目元は見えないが、口元は悔しそうに歪んでいて、体全体から緊迫感が漏れ出している。
美しかった世界は、どんどん虫食いが広がっていく。
周囲はどんどん暗くなっていた。
「説明の途中なのにごめんね。どうやら邪神が君を転生させようとしていることに気づいてしまったらしい。ここは僕ら神が存在できる空間でね。僕もあいつもこの空間ならば本来の力を使うことができるんだ。自分にとって邪魔な存在になる君を、さっそく排除しに来たようだ。」
口早に説明しつつ、神様は水面に様々な幾何学模様を生み出していく。
丸、三角、四角、直線に曲線、様々な図形が組み合わさって、気づけば一つの大きな魔法陣が出来上がっていた。
「さぁ、この中に入って!」
神様に促されて、円の中に入った。
虫食いは私たちの足元にまで広がってきていた。
私が円の中に入ると、魔法陣は淡く光りだした。
発光を確認すると、神様は聞きなれない言葉で呪文のようなものを紡ぎ始めた。
彼が言葉を発するごとに、魔法陣は光が強まってくる。
光は強さを増し、神様の姿をくらませるほど、強い閃光となった。
「最後に僕の名前を伝えておくよ。僕はユピテル。創造神ユピテルだ。産み落とされた後、僕の名前が必要になるはずだから、どうか覚えておいておくれ。」
神様の姿は、光に覆われて確認することができなかったが、彼の穏やかな声はしっかりと、私の耳に届いた。
ひと際、光が強くなった瞬間私の意識は真っ白な光に溶けだして薄れていたのだった。