Life again!!③
「君の状況は理解してもらったとして、次は転生についてお話しようか。」
自分が死んだという事実が衝撃的過ぎて、そのことを忘れかけていた。
死に方でも聞いておこうかと思ったが、あまりにゴアな感じの死に方だと気分が悪くなりそうなので、やめておくことにした。
不慮の事故とはいえ、周りにあまり迷惑をかけない、きれいな死に方をしていたと思っておこう。
彼に話の続きを促すように、私は彼の目を見て一度頷いた。
「僕の世界、テラ・メエリタでは君たちの世界から何人も、テラ・メエリタに転生してもらっているんだ。」
これまた驚愕の事実である。
「なぜ転生してもらっているかというと、僕の世界には決定的な欠陥がある。テラ・メエリタを汚そうとしている、邪神というものが存在しているんだ。」
邪神。
急にファンタジーな言葉が出てきたことに少々面食らった。
「邪神はね、僕の世界の子供たちの恐怖や絶望を糧に生きている、非常に醜悪かつ邪悪なやつでねぇ。テラ・メエリタを作った時に、生まれてしまった世界の影の部分なんだと思う。」
ふむ。
まさに、悪い物の典型的な奴のようだ。
生前でもそんな感じの悪い物の存在はあったように記憶している。
私は数少ない記憶の断片の中に、邪神に該当するものを思い浮かべた。
日本神話の悪棲、中国の瘟鬼、エジプト神話のアペプ、ゾロアスター教のアンラマンユなど。
世界中でその存在が知られていた。
というか、なぜ私は自分のことは全く分からないのに、こんな知識は覚えているのだろうか…。
…、まぁいいか。考えても分からなそうだし、知識があるのはいいことだ。としておこう。
「それでね、邪神も一応僕が生んでしまったものなのだろうと思って、消してしまうのはやめてあげたんだ。でも、その温情が仇になった。」
そう言った彼は、口元だけで少し悲しそうな顔をした。
「邪神は僕が消さなかったのをいいことに、僕の子どもたちに悪さをするようになった。最初は個人で絶望感や恐怖を与えて食っていただけたんだけど…、次第にうまいやり方を覚えてしまってね。」
個人でそんな活動していただけでも、十分厄介だと思うけど…。
思いのほかアクティブな邪神に、生前の邪神とは違うということを感じた。
私が知っている邪神は、あくまでも神話の中に生きる、創造や宗教上の存在だ。
決して現実のものではない。
「効率よく餌を得るために、自分の分身を作り出して、テラ・メエリタにはなったんだ。分かりやすく言うと、人を襲うモンスターを世界中にばら撒いたって感じかなぁ。」
なんだか、本当にゲームや漫画の魔王みたいなやつだな。
「子どもたちを守るために、いろいろ手は尽くしたんだけど、僕一人では対処できないほどに、あいつの分身は繁殖してしまった。だからやむを得ず僕は子どもたちに戦う力を与えた。僕が持っている力の一部を子どもたちに授けたんだ。君たち風に言うなら、魔法だね。」
今更何も驚くことはないが、魔法と言われて少し心躍りそうになるのを感じてしまった。
戦争のために兵器を作り出したというのと同じような文脈なので、テンションが上がってしまうのは失礼な気がする。
しかし、魔法があると言われたら少し興味を持ってしまうのは人情というものだ。
目隠しの神様は話を続ける。
「でもね、戦い方を覚えたことで、身を守れるようになった一方、子どもたち同士での戦い方も学んでしまったんだ。子どもたちの中には、簡単に人を傷つける者も現れるようになった。」
まるで銃の抱えるジレンマのような話だと私は思った。
生前の記憶の中にも、武力は使い方によっては人を傷つける害悪にもあり得てしまうという印象が残っていた。
「邪神は、子どもたちが起こした争いの中からも餌を得るようになったんだ。分身を操って諍いを引き起こしたり、自ら子どもたちを唆して大規模な戦争を起こしたり…。子どもたちを守るために起こした行動が、あいつの力を助長させてしまう原因になってしまった。」
神様は、言葉の中に後悔の色を色濃く滲ませていた。
彼の行動原理が、自分の作った世界とその住民を守るためである分、余計に悲しいのだろう。
自分の起こした行動が悪い結果を招いてしまったことに対して、強い後悔と罪悪感を持っているようだった。
「僕は邪神を消すことにした。でも、あいつの力は強すぎて、消しきれなかったんだ。」
「あいつの力の残滓は分身体としてテラ・メエリタにこびりついてしまった。分身が残っている以上、あいつは何度でも蘇る。おまけに子どもたちを唆して、心を奪う力は残ってしまった。」
私は彼の言葉にただただ耳を傾けている。
彼はさらに言葉を続けていく。
「だから僕は、あいつを消すために徹底的に戦う決意をしたんだ。」
「とはいっても、僕は直接地上に影響を与えることはできない。あいつを封印した時に、テラ・メエリタに干渉する力を無くしてしまったからね。」
神様は少し残念そうな表情を浮かべた。
「けどね、間接的に子どもたちをサポートすることはできる。かつて魔法を与えたように、子どもたちにさらに強い力と肉体を与えたり、邪神に唆されないように心の加護を与えたり。」
心の加護?
聞きなれない言葉に、私は少し首を傾げた。
「宗教だよぉ。僕に祈りを捧げることで、僕は子どもたちの心にちょっとした守りをつけることができるんだよ!」
先ほどまでの少し間延びした明るい口調で、神様は答えてくれた。
宗教が心の加護、確かに宗教にはそういう面もある。
生前でも、宗教を心のよりどころや、精神や行動の規範としている場面は多くみられていた。
私が納得したのを見ると、神様は続きを語りだす。
「僕の子どもたちへの手助けの一環が、君たちのような異世界人を転生させることなんだよ。君たち異世界人には、テラ・メエリタの子どもたちとは違う力を与えることができるんだ!」
どういった原理でそんなことになるのか、私は考えようとしたが、見当もつかないことに気づきやめた。
神の領域の話のため、そういうものなのか、と無理やり納得しておこう。
「生まれつき魔力を秘めた魂、君たちでいうところの霊感を持った魂が世界を渡ることで、魂の形が変質して僕の力の一部を直接与えることができるようになったのかもしれない。物を運べるポケットが一個増えたような感じかな。」
私が疑問に思ったのを察してくれたのか、神様は彼の自身の解釈を話してくれた。
気づかいのできる神様でありがたい。
「僕の力を持った彼らは、テラ・メエリタを救う強力な助っ人となってくれた。武力であったり、守護の力であったり、何かを生み出す力であったり、優れた頭脳であったり…、彼らが上手に能力を使ってくれたおかげで、邪神の力がこびりついた今でも、テラ・メエリタは存続できているんだ!」
身振り手振りを交えながら、異世界人の重要さを語っている。
しかし、熱弁していたかと思えば急にトーンダウンしてしまった。
「でもね…。最近僕は、この世界の終わりを回避することができないんだ。これまでも、世界が破滅に向かいそうになった時に異世界の子を呼んできた。今回も同じように何人かに協力してもらったんだけど、全然うまくいかない…。」
神様はまるで罪人が罪を告白する時のように、項垂れて膝に肘を置き、祈る形で組んだ拳を額にくっつけている。
彼の悲哀が、私にひしひしと伝わってきた。
「いったいどこで破滅の道に分岐してしまったのか、過ぎ去ってしまった過去を変えることは僕にもできないから、未来を除いて破滅に繋がるルートをかたっぱしから回避するしかない。」
「だから僕は何度も何度も、テラ・メエリタが辿る未来を見返した。ありとあらゆる戦争や、戦争に繋がりそうな悪人の台頭、分身たちが起こす殺戮を回避するように、力を尽くしてきた。新たな力も子どもたちに与えて、今まで以上に邪神の増長を許さなかったのに…。」
神様の声はどんどん絶望の色を増していく。
私は、辛い心情を吐き出す彼の声が、震えていることに気づいた。
「どれだけ僕が手を尽くしても、破滅の未来は避けられない。邪神が蘇って、僕たちの世界を壊していくんだ。綺麗だった世界は薄汚く汚れて、子どもたちは絶望に暮れて、多くの子が自ら命を絶っていく。
そうして最後には、邪神は僕を消してテラ・メエリタを支配する。」
私は彼にかける言葉が見つからなかった。
今までの話しぶりから、いかに彼が彼の作った世界と、その世界の住民を愛しているかは十分伝わっていた。愛する者たちの死を指をくわえてみているしかない状況は、彼にとって苦痛以外の何物でもない。
俯いているうえに、目隠しで彼の目は見えないが、きっと悲しみで濡れそぼっているのだろう。
神様は口を噤んだ。
私たちの間を、沈黙が覆った。