Life again!!②
「どうかなぁ?僕のお気に入りの風景なんだけど~。」
そういってローブを着た人物は、ふにゃっとはにかんだ。
確かに、これはどんな人でも気に入るだろう。
すごく綺麗だ。
言葉を失うほどに美しい。
しかし、これほどまでにリアリティがあって美しい光景を映し出せる技術が存在するのだろうか?
もし、そんな技術が存在するとしたら、その技術を扱えるこの人は誰なのか?
私は風景をひとしきり楽しんだ後、自分が映し出した風景に見入っているローブの人物を観察し始めた。
一人称を“僕”と言っていたし、声の感じから察するに20代半ばから30代前半くらいの男性だと思われる。
明るくなったことで、真っ白なローブのフードに隠れた顔が見えるようになった。
よく見ると、彼は黒い目隠しをしているようだ。
目隠しをしているのに、風景は楽しめているらしい。
つくづく不思議な人だと思う。
彼の顔を眺めてみると、あらわになっている鼻と口は、形も大きさのバランスも配置もすべてが整っていて、それだけでこの人がとても美しい顔をしていることが察せられた。
体形はローブで隠れていて分からないが、180cm以上はあるであろう長身の体は、それに見合ってきっと均整の取れた体つきをしているに違いない。
急に景色の変わった不思議空間。
その空間を操っているかのような不思議な美青年。
対し次から次へと疑問が生まれてくる。
彼は私に見られていたことに気づき、こちらに顔を向けて話し始めた。
「ふふっ、疑問に思っていることがたくさんあるでしょう?今から、君に怒っていること、これから君に起こること、全部説明するよ。」
彼は真剣な口調で私にそう告げた。
「さて、ちょーっと長くなると思うんだよねぁ。お話しするのに立ちっぱなしもアレだし、椅子を用意するね!」
椅子はありがたいのだが、彼は一体どこから椅子を取り出すつもりだろうか。
風景を変えたときのように、指を一度パチンッと鳴らすと、私と彼との間に顔を突き合わせるような位置で配置された2脚の椅子が現れた。
椅子同士の間は1.5mほど空いている。
私が目を丸くしていると、彼は私に椅子に座る様促した。
促されるままに、椅子に腰かけると、私の正面の椅子に彼は腰かけた。
「さて、改めまして。ようこそ死後の世界へ~!僕はねぇ、君たちでいうところの神様だよぉ!ただし、君の元居た世界の神様ではありません。信じられないかもしれないけど、何と、これは事実なのです。」
言葉の後ろに音符でもつきそうな軽さで、彼は言った。
■■■■
死後の世界?
神様?
しかも私の元居た世界ではない。
ツッコミどころが多すぎて…。
私は何を言っているのかと、呆然とした顔で彼の顔を見つめることしかできなかった。
二の句が継げずにいる私を置いて、彼は話を続ける。
「君は不慮の事故によって命を落としてしまいました。本来だったら、死んだあとは同じ世界で転生するのがセオリーなんだけど、君はわけあって僕が作った世界に転生することになったんだよ。」
えぇーっと…。
「神様というのは信じてもらえるかな?」
そこに関しては、今まで不思議な力を目の当たりにしているので、腑に落ちた。
目の前の目隠し神様の問いに、肯定の意を示すように頷いた。
「よしよし、じゃあ死んじゃったのが実感わかない?」
彼はそう私に問いかけた。
私はコクリと頷く。
お前は死んだ、と言われてすんなり納得できるほど、今の私には死への実感がなかった。
「君は自分自身のことについて何か覚えているかなぁ?」
自分自身のこと…。
彼に言われて私は自分のことについて考えた。
過去、友人、家族、名前、自分の顔、性別。
こんなこと思い出せない方がおかしい。
ところが私の思いとは裏腹に、思い出そうとしても、全く思い出すことができない。
記憶の断片すら掴むことができなかった…。
自分とは、一体誰だ?
こんな重大な事実になぜ今まで気づかなかったのだろう!
一人パニックに陥っていると、彼が話しかけてきた。
「思い出せないよねぇ。でもね、それは仕方のないことなんだ。死んでしまった魂はすべての記憶が抹消されて、新しい生を受ける。忘れることは普通のことなんだよ。」
目隠しの神様は優しい口調で、私を慰めるようにそう言った。
仕方のないことと言われても、簡単に受け入れることができない。
「まぁ、すぐには受け入れられないよねぇ。でもさ、この空間が現実のものだと思うかい?」
確かにそう言われればそうだ。
こんなこの世のものとは思えない幻想的な風景が、現実にあるとは思えない。
「ちなみに君は今水に足をつけているけれど、水の感覚はある?それに、君は今水鏡に映っていないんだよ。」
そういえば、水につかっているはずなのに水の冷たさは感じていなかった。
温度どころか、水の感触すらなかった。
自分の姿を確認しようとしても、確かに水鏡は私の姿を映していない。
…。
今までの出来事を加味すると、納得せざるを得ないだろう。
「納得してくれたようで何よりだよ。」
彼は口元だけで優しく微笑んだ。