6:眼鏡
気球なんて珍しいものが飛んでいる
青空をゆっくりと進んでいく光景は
七月の全てを語っている
僕らが手を伸ばせばまだ
「早くおいでよ」と言ってくれる
水が空へと逆流して
ひとときの友情を示してくれる
入道雲は憧れではなく
この月を生きていく僕らそのものとして浮かぶ
ヨナは
買い物に行くと言って連絡をくれ
僕らは白い雲と青い空の下で待ち合わせをする
どんなに高い建物があっても
僕らは空を見上げることができる
それはきっと幸せなことだと言うと
ヨナは笑って頷いてくれた
「今日は何を買うの?」
「あなたの眼鏡を」
「どうしてそうなるの」
「だってもうすぐ誕生日ですよね」
ヨナが本当に気持ちよく笑うから
今日は僕も一緒に笑う
慰めの七月
今だけは何も起こらないようにと
僕は毎日祈っている
「どんな眼鏡がいいですか」
「この世界がもっと綺麗に見えるものがいい」
「難しいですね」
「それじゃあ、せめて泣かなくてもよくなる眼鏡が」
ヨナは
僕の願いを受け止めて優しく笑う
「それも、難しいです
だけど——」
こつこつと
足音を鳴らしながらヨナが近付いてくる
「一緒に探しましょう」
本当は
眼鏡のいらない世界になれば
それが一番いいと思っている
だけどヨナがいるのなら
僕はきっと世界を許すことができるだろう
七月の湿気が僕らの皮膚を繋いでいる
それが今だけだということくらい
僕らはもう分かっている
僕らは逃げているわけじゃない
見ないふりをしているわけでもない
僕らが七月に笑うのは
七月が笑うように言ってくるから
この一瞬だけの幸せは
むしろ悪意なのだと思う
僕は永遠を信じていない
ヨナの笑顔が永遠だなんて思っていない
だから
僕らはきっと近い未来に後悔する
眼鏡を買って
店を出たら
きっと
あの入道雲は
僕らを押し潰すための凶器になっている
気球は
いつの間にか消えていた