5:喪失の穴埋め
六月の雨に濡れた地面に
命が滑る
衝突したのは固い死の世界
響いた音は命を否定して
そのまま自らも闇のなかへ消えていく
だけど人間は
その姿ごと消え去ることなどできず
千切れた肉と
飛び散った血が
命の境を曖昧にしながら
広がる
そこに
まだ生きている人間たちの騒音がやってくる
雨音も夜の暗さも隠すことのできない
回転する赤い光とサイレンの音
でも
僕が受け取る知らせは
音のしない一通のメールだけ
短い文章で
ただ
あいつが死んだ
と締めくくられる
また
流れていく
喪失の六月
僕はヨナに訊く
「何がどこで間違ったんだろう」
僕は
彼女の心配そうな顔を見たかったわけじゃない
いつものような笑顔で慰めてもらいたかったわけでもない
ただ
ヨナにだったら訊いてもいいような
そんな気がしただけだ
「きっと何も間違っちゃいないよ」
その通りだと思う
学校の屋上は水浸し
ヨナは小さなパンを持って
扉の前に立っている
薄暗い踊り場に
遠くから聞こえてくる水の音
「誰も悪くないのなら
人が死ぬのも
悪いことじゃないのかな」
振り向くヨナの顔は
何かに気付いている
「誰か、死んだの?」
「友達が死んだ
バイクの事故で」
だけど世界が失ってしまった
あいつという存在の重さに
ヨナが泣く必要はない
ずっと——
そう、ずっと
六月は雨に濡れながら
世界が泣いているのを隠している
だから
それ以上に涙なんて流されなくていい
「ヨナ、笑ってくれないか」
パンを持ったヨナの拳が
僕の胸に当てられる
「駄目です
笑う時は、一緒に笑うんです」
静かに
二人分の涙が落ちていき
世界に加わる
だけど
空いた穴を塞ぐには
あまりにも少なすぎる