表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

22:悲しみのなかでこそ幸せは泣き止む

残酷に


ただ

残酷に

大地から手の生えてくる四月

それらは僕らの過ごした一年に復讐する

掴まれたら最後

痛みが痛みのまま

苦痛に変わっていく

それを望むものもいるかもしれない

だけれど

妹は——

望んでいたのだろうか


僕はまだ弾き出されたまま

妹の死を遠くで見ている

伝え忘れたことがあった気がする

もっと何か

してやれたことがあった気がする

僕らは隔てられ

二度と会えないという事実を

四月の手たちに教えられる

奴らは

妹の首を掴み

僕の言葉を掴み

そして

ねじ伏せていった——

今更のように

僕はヨナが泣いていた理由を知り

そしてヨナが笑おうとした気持ちを知り

けっきょく

何も分かっていなかったと知り

吐き気を抑えながらうずくまる

もう

立てないかもしれない

そう

思いながら呼吸する病院の空気が鋭く

僕の肺は切り刻まれていく

むせび、わめき、閉じこもっていく


「妹さん

 だめ、だったの?」


耳を覆う悲しみの薄膜越しに

ヨナの声が聞こえた

振り向くと

ヨナが立ち尽くしていて

時間の流れがよく分からなくて


「今、何時?」


と聞く


ヨナは何も言わずに向かってきて

その勢いのまま

うずくまる僕を抱きしめる


そして


ただ

泣いた——

今までにない大きな声で

まるで世界の果てまで響かせるように

ヨナは

泣いた

真珠のような大粒の涙を流して

もう

全て何もかも終わってしまったかのような

そんな絶望と諦めで

泣き

続けた


涙が

落ちてくる

いくつもいくつも

ばらばらと落ちてきて

僕は

その丸みのなかに

魚が泳いでいるのを見つけた

それは

僕の知らない扉を抜けようとしているように思えて

どうしても

どうしても触れたくて

震える舌で

その

涙を受け止める


すると

光が——


僕の舌を磔にする

そして

見たことのない清浄な流れが

ゆっくりと

世界を飲み込んでいった

扉が

開く

僕は

妹の名前を呼ぶ

それから

ヨナの——

ヨナの名前を呼んで

彼女を抱きしめる

風と熱を突き抜けて

声は光となり

無音となり

命となって

静かに

響いた


ヨナの

声が——

そっと、届く

それは、確かに


僕の名前を

呼んでいた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ