22:悲しみのなかでこそ幸せは泣き止む
残酷に
ただ
残酷に
大地から手の生えてくる四月
それらは僕らの過ごした一年に復讐する
掴まれたら最後
痛みが痛みのまま
苦痛に変わっていく
それを望むものもいるかもしれない
だけれど
妹は——
望んでいたのだろうか
僕はまだ弾き出されたまま
妹の死を遠くで見ている
伝え忘れたことがあった気がする
もっと何か
してやれたことがあった気がする
僕らは隔てられ
二度と会えないという事実を
四月の手たちに教えられる
奴らは
妹の首を掴み
僕の言葉を掴み
そして
ねじ伏せていった——
今更のように
僕はヨナが泣いていた理由を知り
そしてヨナが笑おうとした気持ちを知り
けっきょく
何も分かっていなかったと知り
吐き気を抑えながらうずくまる
もう
立てないかもしれない
そう
思いながら呼吸する病院の空気が鋭く
僕の肺は切り刻まれていく
むせび、わめき、閉じこもっていく
「妹さん
だめ、だったの?」
耳を覆う悲しみの薄膜越しに
ヨナの声が聞こえた
振り向くと
ヨナが立ち尽くしていて
時間の流れがよく分からなくて
「今、何時?」
と聞く
ヨナは何も言わずに向かってきて
その勢いのまま
うずくまる僕を抱きしめる
そして
ただ
泣いた——
今までにない大きな声で
まるで世界の果てまで響かせるように
ヨナは
泣いた
真珠のような大粒の涙を流して
もう
全て何もかも終わってしまったかのような
そんな絶望と諦めで
泣き
続けた
涙が
落ちてくる
いくつもいくつも
ばらばらと落ちてきて
僕は
その丸みのなかに
魚が泳いでいるのを見つけた
それは
僕の知らない扉を抜けようとしているように思えて
どうしても
どうしても触れたくて
震える舌で
その
涙を受け止める
すると
光が——
僕の舌を磔にする
そして
見たことのない清浄な流れが
ゆっくりと
世界を飲み込んでいった
扉が
開く
僕は
妹の名前を呼ぶ
それから
ヨナの——
ヨナの名前を呼んで
彼女を抱きしめる
風と熱を突き抜けて
声は光となり
無音となり
命となって
静かに
響いた
ヨナの
声が——
そっと、届く
それは、確かに
僕の名前を
呼んでいた




