20:意志と諦め
開けられた窓から
色付いた風が吹き込んできて
妹の手に触れる
そのまま
皮膚の輪郭が滲んでいって
淡い三月の景色のなかへと
妹が
ぼやけていく
「寒くないか」と聞くと
「少しだけ」と答えて
妹は力なく笑う
窓を閉めると
病院は春を遮断して
生命の流れを堰き止めてしまった
「ヨナさんに会いたい」
「また今度、一緒にくるよ」
妹は
何も言わずにベッドのシーツを握りしめる
その
口が少しだけ動いて
でも
やっぱり閉じられる
「欲しいものはない?」
と聞く
「暖かさ」と
静かに声が聞こえ
でも
すぐに首を横に振る
「やっぱり
水でいい——」
ぽつん——
と
音が消えていく
何もかもが枯れてなくなってしまったかのような
新しく巡ってくるものは何ひとつなく
誰にも知られることなく
終わっていく
時間の
音
僕は——
立ち上がる
「水、買ってくるよ」
と
言う
「もう
何もいらないよ」
と
妹は
首を振る
立ち尽くす病室には色がなく
ただ
回っている
ぐるぐると
病室が回って
中心にいる妹から
僕はどんどん離れていく
どん
と
背中に何かが当たって
「お前にはまだ
できない」
と声がして
部屋を追い出される
病室のすぐ外
扉は閉められ
僕は
その前に力なく座り込んでいる
妹の
名前を呼ぼうとして
その名前が出てこなくて
途方にくれた




