2:出会い
桜の木の木漏れ日のなかで
彼女は泣いていた——
厳しさの五月
ぬかりなくやってくる
痛みの季節
全てのものに傷を負わせようと
地の底から機会を伺っている
きっと
彼女はそんなことを知るよしもなく
流れていく時間のなかで当たり前のように傷付き
それを
今は誰のせいにすることもできず
ただ
立ち尽しているのだった
「何かあったの」と訊いた時
彼女は真っ赤な目を上げて
歪んでいきそうな顔を必死に抑えながら
僕に向かって
笑いかけようとしてきた
「私は大丈夫
心配してくれてありがとう」
そう言ってくれた時
彼女は涙を流しながら
笑っていた
痛みの季節——
残酷な手が地面から生えてきた四月を乗り越え
僕らは胸をなでおろすはずだった
いつの間にか
僕らは五月に囲まれて
許してもらうことは叶わず
無慈悲に傷を負わされていく
僕は彼女の隣に座り
木漏れ日を手で遮る
明るさも
暖かさも
僕と世界を結びつけようとしてくる
だから五月は
逃げることができない絶望の時間
「妹が入院してるんだ
だからよくここに来るんだけど
何度か君を見たことがある」
鳥の声が
僕らの意識をはっきりさせる
彼女はうつむき
ゆっくりと座りこみ
小さな声で
「今日、友達が死んだの」
と言った
涙の流れる音がして
五月の風がそれをかき消す
「仲、良かったの?」
「うん、大好きだった」
「明日は学校」
「うん、ちゃんと行くよ」
五月は
容赦ない責め苦の月
彼女は受け止めようとして
笑おうとしながら
涙を落とす
それはきっと
死んだ友達のため——
そして彼女は純真な復讐を果たそうとして
五月の木漏れ日のなかで誓いを口にする
「私は彼女の分も笑ってみせます
私が年を取って死んでゆくまで
ずっと……
ずっと」
眩しい青空が彼女の瞳をいっぱいにして
その奥に太陽があることに
僕は息を飲む
輝きに
僕の言葉はことごとく焼き尽くされて
ただ
見つめることしかできなかった——
だから
彼女の名前を知りたいと思った
自分の
本当の言葉を
思い出すために