19:無力
ヨナは早退して病院に向かい
僕は学校が終わって病院に急ぐ
ヨナが遠く
病院が遠く
妹も遠く
何もかもが遠く
僕らは
隔てられている
ヨナは
わずかに新芽が色付き始めている桜の木の下で
冷たく黙っている地面を見つめていた
いや
ヨナが見ているのは
またひとつ僕らの地上に落ちた
新しい死——
「戻らなくて、大丈夫?」
「今、両親が行ってる
私だけこんなところにいて
冷たい孫だって思われるかな」
「ヨナにとっては
ここが一番いいんだろ」
「うん
ここのほうが
おばあちゃんのこと感じられる」
断絶の二月は
死者の体をすぐに物へと変えていく
ヨナなりの
新しい向き合い方で
彼女は今
ここにいる
「まだ、空には何もないみたいだ」と言うと
「うん、だからきっと
おばあちゃんをすぐ見つけられると思って」と
ヨナは寂しそうに笑った
「ねえ
どうして人が死んだら、悲しいのかな」
ヨナは
泣いていた
だから
ヨナはその答えを知っている
「きっと
僕らが、人間だからだよ」
「そうだね」
ヨナの声を涙が歪ませ
彼女から
笑顔が消えた
どこまでもヨナは群青色の涙で
太陽が隠れて
僕らは薄闇に包まれる
ヨナの顔が
僕の胸に押し付けられ
彼女の感情が
僕の心拍数を変えていく
ヨナの名前を呼ぶ
でも
「違う」
と言われた
それは——
分かっている
だけど断絶の二月に
本当のヨナを見つけることはできない
僕らはお互いに
触れている気がしているだけだ
でも
この仮の世界を突き抜けないと
ヨナはおばあちゃんを見つけることができないだろう
ヨナは震える
必死に目をつぶろうとしながら
どうしようもない無力さにただ泣くことしかできない
ヨナの言葉は
どこにも届かない




