17:マフラー
制服姿のヨナが寒そうに身を縮める
白い息に意志が伝わり
質量を持って
地球を作り変えていく
僕も同じように
地球を作り上げながら
ヨナの作った世界で生きている
語りかけてくる一月
地上はいつでも死者の声を発している
僕らは死者たちに呼びかけられ
きっと
知らないうちに行動している
だから
僕らは彼らの語りかけに答えるために
冬の大地を自らの意志で歩くのだ
「どんなのにしようかな」と、嬉しそうにヨナが言う
「やっぱり暖色のマフラーが似合うと思うよ」と返すと
「私もそう思う」と
寒さが消えていきそうな笑顔を向けてくる
存在感がすぐ近くに溢れる一月
店のなかも
並ぶ商品も店員も
あらゆるものが自分自身を持ってそこに存在している
暖色のマフラーを手にとって
ヨナは鏡を探す
一瞬止まって
振り返りながら
おかしそうに笑ってくる
「私、冬に生まれたのに
ひまわりみたいなんだね
なんだかちょっとおかしくて」
「冬に夏を予感できないと
人間は季節に迷ってしまうよ」
「季節外れじゃない?」
「ヨナは道しるべだよ」
恥ずかしそうに顔をそむけて
かすかに
ヨナの口が動く
「聞こえないよ」と言うと
「何でもない!」と返されて
ヨナは楽しそうに笑う
そして
「これにするね」と
暖色のマフラーを持って近付いてくる
「少し待ってて
買ってくるから」と言うと
「はい」とヨナは元気に声を出す
マフラーを買いに行こうと言った時
ヨナは目を大きくあけて慌てていた
「私なんかより妹さんに何か買ってあげてください」と言われ
「ヨナにも何かあげたいんだ
もうすぐ誕生日でしょ」と返すと
ヨナは目を逸らしながら
「幸せすぎです」と
小さく呟いた
僕は聞こえなかったふりをして
ヨナは「何でもないです」と付け加えた
店を出て
僕らは公園に向かう
寒空の下に人はなく
「冷たいね」と言いながら
二人でベンチに座る
「魚って
きっと自分のことを水だと思ってますよね」
「だとしたら
本当は幸せなのに自分は不幸だと思ってるのかな」
「違いますよ
世界は幸せだって思ってるんです」
「汚れて淀んだ水のなかでも?」
ヨナは
マフラーを取り出して
自分の首に巻いていく
「気付いてました?
このマフラー、長めなんです」
暖かいマフラーの端が
僕の首に触れる
ヨナは
落ち着いた優しい手つきで
僕の首にも
マフラーを巻いていく
包み込まれたくなるような
そんな眼差し
「ほら、やっぱり」
と
ヨナが言う
何のことか分からず戸惑っていると
「汚れて淀んだ人と一緒でも
私は幸せです」
と
笑ってくれた——
一月の冷たさを溶かしていくかのような
そう
もう少し先の春を予感させる
そんな
ヨナの言葉の音が聴こえた




