13:火
どこかで何かを焼いている
僕はもうずっと
そればかりを気にしている
真剣に落ち続けたものが
自らに火を灯す十一月
世界の全てが
内なる火に照らされていく
その光は
妹の病室にも届いているだろう
「少しはいい顔付きになったじゃないか」
振り向くと
あの薬剤師がにやにやしながら立っていた
「でも
ヨナを傷付けてしまいました」
「なら君は間違いなく善人だよ」
「ヨナに嫌われたのにですか」
「誰かを傷付けるなんて
善人にしかできないことさ」
薬剤師が
近付いてくる
そのまま僕の側を通り過ぎて
気怠そうに去っていく
僕も
妹の部屋に向かう
妹の体調は変わらず
心配することにも慣れてしまって
晴れることのない気分が
ずっと僕らの間に停滞している
「また
ヨナさんにも来てほしいな」と妹が言い
「ケンカしてしまったんだ」と言うと
溜め息をつかれてしまった
「ちゃんと謝らないと駄目だよ」
「そうだね」
「傷付けちゃったの?」
「そうなんだ」
妹は俯いて
小さな声で「痛いよ」と言う
それが
ヨナの声に聞こえて
「ごめん」と言葉が漏れた
「ヨナさんは
寂しいんだよ」と
妹が顔を上げる
どこかで
何かが燃えている
この部屋は
こんなに明るかっただろうか
床も
妹の無機質なベッドも
窓も天井も
まるで意志を持っているかのように佇み
その意志が
僕の目を明るくさせる
そして妹の瞳はさらに明るく
そこに
火の気配を感じ
僕は覗き込む
燃える木々はただ美しく
煌々と夜空にまでその影を伸ばす
だが
音はしない
あらゆる言葉は名前のための声を持たない
だから
たぶん
ヨナは
震えている
ずっと
暖かな火を探しながら




