10:痛み
焼き焦げた九月の大地で
僕らは新しい始まりを与えられる
まだ残っている熱は
夏を完全に葬るために使われる
そのなかで
僕らは何かを始めることを強制される
「また学校ですね」とヨナが言い
「学校は好きじゃない?」と訊くと
「うーん」とヨナは考えこむ
ヨナは僕のすぐ隣を歩きながら
たぶん
歩幅や足の動きを合わせようとしている
校門を通り
玄関に向かいながら
「私、看護師になりたいんです」と言った
「もっと勉強しないとな」と言うと
「だから、教えてくださいよ」と
笑顔で僕の顔を覗き込んでくる
立ち止まって
呼吸する
吐き出したものは
夏に溜まったわだかまり
「それじゃあ、放課後は図書室で勉強だ」
「それなら、学校も楽しくなりそうです」
ヨナは跳びはねるようにして先に行く——
これも
復讐だろうか
そうやって彼女はこの先
一体どれだけのものを背負っていくのだろう
いつか潰される時が来るのは分かっている
きっとその時
僕は何もしてやれないだろう
あの、薬剤師なら
ヨナに何と言うだろう
やっぱりにやにや笑いながら
酷い言葉をたくさん並べてくるだろうか
それでも彼は
時々悲しそうな表情をして
世界を拒絶する
たぶん
夏の暑さのせいじゃない
僕は痛みを知らないのだろう
妹の痛みも
彼の痛みも——
人が死んでも
僕らには痛みが増えない
ヨナは笑うと決めた
僕も
ヨナに笑ってほしいと決めた
痛みは
僕らのなかで
浄化していく




