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プロローグ
ただいまの時刻、午後4時半。そろそろ夕方のタイムセールの時間だ。バッグにスマホと財布を放り込み、いそいそと玄関に向かう。
「ちょっとたかし、夕飯の買い物に行ってくるから、留守番お願いね。ゲームばかりしてないで、ちゃんと宿題も済ませなさいよ。」
息子のたかしは、リビングでゲームに夢中だ。
「ほいほーい」
気のない返事が返ってきた。聞いてないな、こりゃ。また夜になって半泣きで宿題片付ける羽目にならなきゃ良いけど……。
私は玄関を出て、自転車に跨がり出発した。
原島みのり、45歳。ごく普通の主婦だ。冴えないが、優しい夫に高校生の娘、小学生の息子であるたかしの4人家族。
普通の毎日に普通の生活。そして今夕方のタイムセールに間に合うよう、必死でチャリを漕いでいる……。
キキーッ
と、急にブレーキ音が。
ハッとするが時既に遅し。
狭い路地に突っ込んできたトラックにぶつかり、空を飛ぶような感覚と共にわたしの意識は暗転した。たかしは宿題やってるかしら? と呑気に思いながら……。