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BLOOD DONOR  作者: ソン
8/9

「幸せ」

幼い少女と少年が花畑に腰掛けていた。

色取り取りの花が一面に咲き誇っていた。


『ベン、どうぞ。』

『ありがとう、オリビア』


少女は手元にあった白い花を少年に渡した。

2人はそれぞれ花冠を作っているところだった。


『できた!』

『私も!』


完成した花冠を少年は少女の頭に乗せた。

少女は少年の頭に乗せた。

お互いに花冠を乗せた姿を見て少年と少女はクスクスと少し照れながら微笑みあった。


 平日の午後、どことなく心地いいそよ風が吹く中、いつもの木の下に腰掛けていた。

久しぶりに2人で過ごす時間だ。

ベンは風が心地よく本を開いたまま、うたた寝してしまっていた。

頬を撫でる風に目を覚ました。


ベンは目を覚ますと先程まで見ていた夢に幸せを感じるのと同時に虚しくもなった。


『どうかしたの?』

オリビアはベンの表情の変化に気づいて尋ねた。


『昔のことを思い出してた。』


『そう…。』



そして、2人の間にはまた沈黙が流れた。

しばらくするとオリビアから口を開いた。


『今日、ウチに来るんですってね。』


『あー。そろそろ行かないとなって。』


『本当にいつもありがとう。』


ベンはオリビアのその言葉にどこか寂しそうに皮肉じみて口元緩めた。

『でも、君は飲まないじゃないか。』


オリビアは少し目を見開いたが、すぐに落ち着いた声で返した。

『えー。そうね…。』


再び、2人の間に沈黙が流れたが、今度はベンの方が沈黙を破った。



『君にとって…僕って、なんなんだろうね…。』

ベンは遠くの方を見ながらボヤいた。


『え…。それは…。』

オリビアはベンの唐突な発言に動揺して

言葉を返すことができなかったようだ。


『今晩、遅くに行くよ。』

動揺するオリビアのことなど気づいていないベンはオリビアに続けて告げた。


そして、そのまま2人は帰宅したのだった。


夜遅く、ベンはグレイン邸にお邪魔していた。

玄関先で、メイドに迎えられて

部屋へと案内されていた。


ベンが椅子に座って、腕を捲って机の上に伸ばすとメイドは手早く、ベンの腕に針を刺した。

点滴バックへと繋がるチューブはすぐに赤く染まった。


メイドは針の上にテープをはるとそのまま部屋から出て行った。


1人部屋に残されたベンは、ただぼーっと、腕に刺さった針を見ていた。


しばらくしてベンはドアをノックする音でハッとした。


扉が開いてオリビアの父親が入ってきた。


『こんばんは。ベン君。』


『旦那様。

こんばんは。』


『いつもありがとうね。』


『いえ。そんな。』


『気分はどうだい?しんどくないかい?』


『大丈夫です。』


『そうか。なら、よかった。』


『はい。』


『紅茶でいいかな。』

オリビアの父親は近くのテーブルの上にあるポットを手に取り、ベンに尋ねた。


『はい。』


オリビアの父親はカップに紅茶を注ぐと

ベンの前にあるテーブルの上に置いた。


『ありがとうございます。』


『その紅茶はオリビアが育てている花から作ったものなんだ。』


『そうなんですか。』


『ベン君の口に合うといいんだが。』


ベンは針が刺さってない腕と反対の腕でカップを持つと口をつけた。

『とっても美味しいです。』


『そうか。よかったよ。

オリビアにも伝えておくよ。』


『今晩は、オリビアは?』

ベンはそれまでオリビアの姿が見えないことに不思議に思い尋ねた。


『あー、オリビアは今日は夜会に出かけているよ。』


『そうですか…。』


そして、2人の間に沈黙が流れ、ベンは紅茶を静かにすすった。


『今日の夜会にはオリビアの婚約者候補が何人か出席するんだ。』

オリビアの父親は静まり返った部屋の中、静かに口を開いた。


『え…。』


『クラウス君のことは知ってるかい?』


『はい。以前、学校でお会いしたので…。』


『オリビアには婚約者候補の男の子が何人かいるんだよ。クラウス君はその1人なんだ。』


『はい。』


『もちろん今回の夜会には、クラウス君も出席してるんだが、彼が今のところ、オリビアとの婚約内定に1番近いんだよ。』



『はい…。』


『今日はクラウス君にとって、オリビアとの婚約が1番近いことを他のヴァンパイア貴族たちに示すパーティでもあるんだ。』


『…。

そうなんですか…』


『私はね、オリビアの幸せを本当に望んでいるんだ。』


『そうなんですね…。』


また2人の間に沈黙が流れたが、今度はベンが口を開いた。


『僕は、オリビアに拒否されました。』


『オリビアが君の血を口にしないことかい?』


『はい…。』


『オリビアはヴァンパイアです。僕は人間です。』


『あー。』


『僕にとって、彼女に出来ること、彼女のそばにいることが出来るのは、血を提供することです。なのに彼女は…』


『そうだね…。』


『彼女は全てにおいて完璧です。僕は彼女のように容姿も優れていない、その上、人間。

僕は、ただでさえ、彼女とは釣り合わない』


『…』


『オリビアが僕のことを求めないなら、僕は彼女にとって、一体なんなのかわからないです…。』



ベンのその言葉に対して、オリビアの父親は否定も肯定もしなかった。



そして、その日はベンは献血が終わると帰宅したのだった。

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