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青春部2


「ここが私達の部室よ」


翌日の放課後。


相も変わらず何もすることがなかった俺は、ヌイに強引に部室棟のある一室に連れてこられていた。


テーブルと、簡単な造りの本棚が並んだ空間。


それとホワイトボードがその部屋の全てだった。


ヌイは満足気に


「いい部屋ね。気に入ったわ」


「……で、何をするんだよ」


さっそく腰かけた俺達。


いつかのように向かいあった俺は、彼女にそう尋ねる。


ヌイはふふん、と笑って


「ねえ、『青春部』というからには、何をするんだと思う?」


逆に質問してきた。


「そりゃあ……青春を」


「青春をするって何?」


「それが分からないから聞いているんだろうが」


青春をするなんて動詞はめったにきくものではない。


だが『青春部』というからには、何かそれぽっいことを企画しているのではないか?


皆で海に行くとか、山に行くとか……


いや、それは青春なのだろうか。


しばし考える。


そんな悩んでいる俺の向かいでヌイは笑って


何やらごそごそやっていたかと思うと、二枚のポスターを取り出した。


それを自慢げにこちらによこす。


俺はいぶかしく思いながらもそれらを手にとってみた。


一枚目のポスターには、『青春よ、来たれ!!』と大きくテロップが躍っている。


その文字の下にはヌイの全身を映した写真が大きく掲載されている。


何故か水着だった。


「あんまりじろじろ見ないでくれる」


赤面しながらヌイが言う。


じゃあこんなポスター作るなよ!!


もう一枚のポスターにも目を通す。


そこには『限られた青春を楽しもう!!』というテロップが躍っていた。


そしてその文字の下には、何故か俺の全身像を映した写真が。


水着だった。


「おいちょっとまて」


「なかなかいい身体してるわね、あなた」


「どうみてもコラージュだろうが!!」


俺は自分の身体をこんなところで晒した覚えはない。


そう思うと、もう一枚のヌイの水着姿も、よく見ればコラージュっぽい。


「あたりまえでしょう。こんな紙切れに、私の貴重な柔肌を載せられるわけがないわ」


そういって何故か自慢げに胸を張る。


俺は頭痛がしてきた。


背を椅子に預けると半ば諦めた心地で


「……で、これは何なんだ」


「あら、見れば分かるじゃない」


「分かるか!!」


「『青春部』部員募集のポスターよ」


そういって彼女は、ポスターの一角を指差す。


確かにそこには、「部員募集中!!」の文字が躍っていた。


「これがあなたの質問に対する答え」


「……どういうこと?」


「つまりね、青春部が何をする部活かなんて、なんにも決まっちゃいないのよ。ただ『青春』っぽいって感じを出せればよかったの」


「……それがこのポスター?」


「どう?青春っぽいでしょう」


どこがだ。


ヌイは満足気に続けて


「もう部員募集中の掲示板には貼り付けてきたから」


「早っ」


「昔からこういうことには手慣れているのよ」


そういって笑うヌイはいきいきとしている。


俺は嘆息して


「……で、本当に『青春部』が何をする部活か決まってないのか」


「表向きはね。『貴重な学生生活において、青春を謳歌するために活動する部活』。これが学校への申請理由よ」


つまり何にもはっきりしたことを決めちゃいないのである。


「ん?表向き?」


「いったでしょう?裏向きの理由があるのよ」


ヌイはそこで足を組んで


「あたし達の青春病を治すというね。」


「それがこの部活とどう関係してくるんだ」


「鈍いわね、相変わらず」


「……悪かったな」


「このポスターは」


ヌイは1枚を片手でひらひらさせながら


「あなたの恋愛相手を募集するポスターなのよ。」


「……は?」


恋愛相手?


俺の呆けた顔にヌイは頷いて


「ええ。言ったでしょう?『青春部』は青春病を治すための部活で、青春病を治すためには青春を送るのが条件である。青春を送るとは、ここではどうやら恋愛することを意味するらしい。なら、部活内に恋愛環境を整える必要がある」


そこでヌイはひと息ついて


「つまり、あなたにはこのポスターを見て集まった部員達と恋愛をしてもらうわ」


「ちょ、ちょっと待て!!」


聞いていないぞそんなこと。


「なによ、あなたも部活設立には賛成してたくせに」


「賛成というか……せざるを得なかったというか」


「とにかく、このポスターを見て、『青春がしたい!!』という風に集まってきた馬鹿な人間達を、青春病の実験体にするのよ」


ひどいことを笑顔でいう女だ。


俺は首を振って


「しかし……お前」


「これしか青春病を治す方法はないわ」


今思えば視野狭窄に陥っていたのだろう。


これ以外にも青春病を治す方法は……本当にそんな病気が存在するとしてだが……山ほどあっただろうから。


「さあ、取りあえず、まずは部員を見定めなくちゃね」


「え?選考とかするの?」


「当たり前でしょう?あなたの恋愛相手を選ぶのよ?誰でもほいほい入れるわけにはいかないじゃない」


あなたみたいな変わり者でも受け入れてくれる度量のある人を選ばないと。


そう告げられた時の俺の心境を察してほしい。


ヌイは笑って


「さあ、やりましょうか!!」


丁度その時、ドアにトントンと音がしたのであった。


※※※※※※※※※


正直、なめていた。


あんなポスターで人が集まるわけはないだろうと。


だが、思い出してほしい。


あのポスターは『青春』やらなにやらわけのわからない言葉が書かれていたにせよ、主となるのはむしろ写真の方である。


水着の。


そしてヌイはその内面を除けば中々の美少女だ。


つまり、男が釣られる。


「くっこんなはずじゃ……」


「馬鹿だろお前」


釣られてきた損な男達を、さばいていく作業が始まった。


「あの~~この部活に入りたいんですけど」


「却下」


「あの~~この青春部に」


「却下」


どんどん集まっては、却下されていく男子達。


俺は見かねて


「おい、ヌイ」


「何?」


「部活なんだから、むしろ男子生徒の一人や二人、入れてやらない方がおかしいんじゃ……」


「あら、あなたにBL気質があるならそれでもいいけど」


男と恋愛したいの?とその目は言っている。


俺はおずおずと引き下がった。


「……どうぞご自由に」


「ええ、自由にやるわ」


それから、ヌイは強権を振るい続けた。


振るい落されていく男子達。


正直あんなポスターひとつにこれほどの人数が釣られることが不思議である。


コラージュなのに。


「今日はこれくらいにしておきましょうか……」


「これくらいって……結局一人も入らなかったじゃないか!!」


というか女子がまったく来ていない。


「おかしいわね……宣伝方法に誤りがあったのかしら」


「大いにあると思うぞ」


というわけで。


2日目以降は、今度はポスターを俺が自作することになった。


「くそっ、なんで俺がこんなことを!!」


「あら、あたしのポスターに文句があるんでしょう?なら、お手並み拝見するしかないじゃない」


ヌイのせせら笑いに耐えながら作業を進めていく。


やがて出来上がったのは文字ばかりの極めてシンプルな募集ポスターだった。


『青春』に飢えている諸君に告ぐ!!の文字で注目を集める魂胆である。


ヌイはそれを見て


「……センスないわね、あなた」


「うるさい」


とにかく、これを貼って様子をみるべきだ。


部員募集の掲示板にぺたぺたと載せる。


「さあ、どうなるかな……」


「あたしのポスターの方がよっぽっどいいと思うんだけどね」


事実、集客力に関して言えば、水着の方が圧勝だった。


2日、3日と過ぎた。


閑古鳥が鳴く我らが青春部。


あれほど多くの部員志望者がさっとうしたのと同じ部室とは思えない。


「ほら、やっぱり」


部員がいなくて困るのは相手も同じなのに、何故か勝ち誇った様子のヌイ。


俺はしかし余裕で構えて


「まあ、見てろ」


とだけ言った。


……そして、事実。


1週間がすぎようとしたところ。


終に女子の入部志望者が現れたのである!!


「ねえ、このポスターを見て来たんだけど」


そう言って片手で俺の手製のポスターをひらひらさせる彼女。


長身に、整った顔立ち。


名前を聞くまでもなかった。


「ふ、浮上アリア……」


済世高校は進学校のわりには、生徒にアルバイトを禁じていない。


当然、勉学よりもアルバイトに精を出す人間も多いわけで。


だが、目の前に現れた彼女は、そんなレベルの人間ではなかった。


「あら、あたしのこと知ってるのね」


そう言いながら、意外でも何でもないような口ぶりの彼女。


俺は呆けたように頷いた。


そうだ。


浮上アリアは芸能人である。


その抜群のルックスから、中高生をはじめ、幅広い世代の指示を集めているアイドル。


確か、俺達の一個先輩にあたるはずだった。


浮上は俺の驚いた態度がお気に召したようで


「ふん、まあ当然よね。あたしみたいなトップアイドルが、こんなところに入ってあげるって言うんだから」


そういって長い金髪をさらりと掻き上げ


「勘違いしないことね。あたしはあんた達と、この……青春?ごっこ?……に興じるつもりも暇もないの。ただ、何か部活に入れと担任がうるさくてね」


ああ、なるほど。


アルバイトばかりしていると学校生活が疎かになるから、部活動入部を進められるのは我が校の風習だ。


つまり、アイドルとしてビックスターである彼女も、アルバイト扱いの例にもれず、部活加入を勧められたということだろう。


そこで面倒くさがった彼女は、この『青春部』なる得体のしれない……それでいて、何もしなくても問題がなさそうな部活に入ることを決意したというところか。


にしても、テレビでみる清純派のイメージと全然違うのだが。


俺のそんな視線に気づいたのか浮上アリアはふんと鼻を鳴らして


「ギャラが出ないのに、アイドルを演じてあげる義理はないわ」


と言い放った。


中々強かな女だ……


だが、ヌイの企てによれば、俺はこの女と恋愛をしなければならないわけで。


とてもそんなことは無理なので、お引き取り願おうと腰をあげたところ。


肩に手が置かれた。


「待ちなさい」


とささやくヌイ。


「いいのが釣れたわね」


となぜか嬉しそうな彼女。


すーと前に飛び出すと、アリアの手を握って


「ようこそ!!『青春部』へ!!」


彼女を中に手招いたのである。













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