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青春っぽい活動


ところが、である。


俺があれだけ散々アプローチしてもすげない態度をとっていた彼女なのに。


ある日の放課後。


「やってきてあげたわよ」


そういってドアを開く人物。


そこに立っていたのは浮上アリアだった。


夕日に金髪が映えて美しい。


ヌイはガタっと立ち上がって


「ようこそ!!『青春部』へ!!」


ハグをするポーズ。


それをアリアは華麗に無視して


俺の方をねめつけた。


「ん?」


「ほら、来てあげたわよ」


「……あ、ああ。……ありがとう」


突然の訪問に理解が追い付かない。


アリアは席に腰かけるとため息をついて


「ああ~~疲れたわ」


と嘆いた。


自分のハグを無視された形のヌイはそれでもめげずに


「やあ、いらっしゃい」


とアリアの顔を覗き込む。


「っ!?ち、近い」


「それだけ嬉しいのよ。幽霊部員さんが来てくれて」


そういって彼女はにっこり笑った。


アリアは顔を若干赤くして


「た、たまたまよ。たまたまアイドル活動の合間が出来たし、親衛隊の人達に絡まれるのもうざったいし」


「そうよねそうよね」


分かる分かる、みたいな感じで頷くヌイ。


アリアはそんなヌイの絡みに若干動揺しているようで


「え、ええ。そうなのよ」


「そうよねそうよね」


こんなににこにこ笑うヌイは初めてみた。


アリアはくるりとこっちを向くと


「ほら、何か言うことはないの?」


「え?」


「あたしが来てあげたことに対して、よ」


アリアはその金髪をさらりと掻き上げる。


俺は頬をかいて


「ええと……ありがとう?」


「それでいいのよ。それで」


それから背もたれに身体を預けたアリアは俺達二人を交互に見渡して


「で、何をするわけ?」


根本的な疑問につっこんだ。


まさかあなたと恋愛をしますとは言えまい。


俺はヌイを教室の隅っこにひっぱっていくと


「おい、どうするんだよ」


「そりゃあ、表向きには『青春』を謳歌するのがあたし達の部活だから、青春をするしかないわね」


だからその青春をするってなんだよ。


俺の焦った顔にヌイが大丈夫だというふうに頷いて


「まあ、青春っぽい活動を通して、あなた達が仲を深めてくれればそれでいいのよ」


「だからそれが……」


「何でもいいから始めましょう」


そういってヌイはくるりとアリアの方を向く。


アリアはといえばいつのまにか差し出されていたジュースに口をつけていた。


「ん?」


なに、といった表情。


ヌイは笑って


「青春を始めるわよ」


そしてテーブルの上に何やらひろげはじめたのであった。


※※※※※※※※※※


「……青春って、こういうことじゃないと思うんだけど」


「俺もそう思う」


二人の抗議に、しかしヌイは耳を貸さない。


ただにやにやと笑ってゲームを進めるだけだ。


そう、ゲーム。


俺達が興じているのは、ヌイが作ったという手製の人生ゲームであった。


「なんでこんなものを!?」


「いつのまにこんなものを……」


二人の反応にヌイは満足そうで


「意外とこういうの好きなのよ、あたし」


「さ、始めましょう」そういって各々を席につかせる。


放課後、3人で人生ゲームに興じる。


これは……青春なのか?


もっと言えば、こんなことでアリアとの仲が深まるのだろうか。


「まずはあたしからね」


そういってサイコロを振るヌイ。


ちなみにそのサイコロも手製らしく、全体的に毒々しい文様があしらわれている。


「やった!!六!!」


普段のヌイからは考えられないほどの笑顔を見せると、彼女はそういって自分のコマを進めた。


「ええと……宝くじにあたる。六億円当選っと」


「いきなり運がよすぎじゃない!?」


アリアのつっこみに。


ヌイは涼しい顔で


「これはこういうゲームなのよ」


と答えた。


さあ、今度はあなたの番よ。


そういって差し出されたサイコロをコロコロと振る。


「三か……ええと」


コマを進め、止まったマスの効果を読んだ。


「全裸で外出して捕まる……罰金30万円」


俺がそう読み上げると女子二人が悲鳴をあげる。


「うわあ……最低ね、あんた」


アリアはねめつけてきた。


ヌイもよよよと泣く真似をして。


「あんた……いつかやるとは思っていたけれど」


「ちょっと待て!!これゲームだから」


というか何だこのマスは。


どういう内容だよ、と詰め寄るとヌイは


「こういうバラエティに富んだ中身だから面白くなるのよ」


との返答。


納得がいかん。


人生の始まりから露出狂になってしまった。


アリアがサイコロを俺から奪うようにして取ると


「さ、次は私ね」


そういってコロコロと転がす。


「四だから……ええっ!?」


何事かと彼女が止まったマスを見ると。


競馬で散財。400万円の借金を得る。


と書かれてあった。


「ちょっと!!どういうことよ、これ!!」


「借金くらいするわ、人間だもの」


そんなみつを風に言われても。


アリアは悔しそうにしていたがそれでも気丈に「ま、まあ、ここから逆転すればいいわけだしね」


「さあ、続けましょう」


だが、続くゲームも悲惨の連続だった。


ヌイは抜群の好成績を叩きだし、着実に貯金を殖やしていく。芸能人になり、IT企業の社長と結婚し、子どもにめぐまれ……その子供も成功し。


一方こちら二人は人生のどん底である。


俺は露出狂に始まり、盗撮、痴漢、強○と性犯罪を確実に積み上げていく。


アリアはというと競馬、パチンコ、違法賭博と確実に借金を積み上げていく。


何時間たっただろうか。


日もくれて、もうそろそろお開きにしようかという頃には、ヌイは人生の大成功者であり、俺とアリアは人生の大敗北者へと堕ちていたのである。


いやいやいや。


「おかしいだろ!!同じサイコロを使ってるのに、こうも結果が違うなんて!!」


「そうよ!!あなた、いかさましてるわね!!」


ゲームが終わって文句を垂れる俺達二人にヌイは


「あたしの有利になるのは当たり前じゃない。あたしが作ったゲームだもの」


と実質いかさまを認めた発言をした。


「っ!?信じられない!!」


「そうだぞ。こういうゲームは公平にやってこそ……」


「でも、楽しかったでしょう?」


その問いに。


俺達二人は「うっ」と声を詰まらせる。


そう。


このゲーム、仕様がめちゃくちゃなことは確かだが。


それだけに、その内容のイカレ具合が良い具合にはまってくれて、楽しかったことも確かだったのである。


俺が言葉に詰まっているとアリアが口を開いて


「で、でも、これとそれとは」


「青春は楽しんだもの勝ちなのよ」


平然とそういってのけるヌイ。


俺は嘆息した。


アリアは「まじ信じられない……」といいながら席を立つと


「あら、どこへ?」


「帰るのよ!!こんな部活、二度と来てやんないんだから!!」


というセリフを残してさっそうと去っていってしまった。


置いてかれた二人は顔を見合わせる。


俺は眉をひそめて


「おい、青春部活動って、これでいいのかよ」


「これでいいのよ。あんなこといってたけど、彼女、楽しそうだったし」


そういってニヤリと笑うヌイ。


「これからもどんどんせめていくわよ」


そして、舌なめずりしたのだった。



※※※※※※※※※


驚いたことに。


翌日の放課後。


彼女はやってきた。


「あら、こんにちは。コーヒー飲む?」


ヌイの平然とした表情と対照的に顔を赤くしたアリアは


「ち、違うから。これは、たまたま時間が出来たから来ただけだから」


と言い訳めいたことを言う。


しかしその実昨日のゲームを楽しんでいたことは確かだ。


俺は思わずヌイを仰ぎ見た。


ヌイはこくりと頷く。


その目は「獲物がかかった」という猟師の目をしている。


「今日も、青春に興じましょう」


そういってヌイはごそごそとやっていたかと思うと、これまた手製っぽいゲームを取り出した。


「な、なんだ、これ」


「TRPGよ。今日はこれで遊びましょう」


「TRPG?」


「簡単に言うと、条件付きのロールプレイングゲームっていったところね」


おいおい説明するわ、といって彼女はカードを配る。


それからは、すごかった。


綿密に作り込まれたわけのわからない世界観。


ゲームマスターとして出してくる無茶な条件。


全裸であることをいかに気がつかれないで一日過ごすか、とか。


とにかく変なイベントの盛りだくさん。


だが、不思議と自然に没入することができ。


気がついたころには、やはりすっかり日が暮れていたのである。


「……楽しかった」


悔しそうにそう認めるアリア。


そうでしょうそうでしょうと頷くヌイ。


……こいつ、ゲーム作りの才能あるんじゃないか。


そう思っていたら、次の日はまたすごいのを持ってきた。


「さ、今日はこれをやるわよ」


「あの、青春部って、ゲームをすることなの?」


「そういう青春もあるものよ」


「一理ある……のか?」


「さあさあ」


ヌイに促され、席につく俺達。


今度は何を取り出すのかと思うと彼女はP○4を出してきた。


気がつけば、前日まではなかった大型テレビが部室に置かれている。


「は?」


「今日は据え置きの恋愛シュミレーションゲームをするわ」


「まさか……それもお前が作ったんじゃ」


「いくらなんでもそれは無理よ」


ただし、と彼女は付け加えて


「あるバイトでゲーム制作会社の人と知り合いになって、特別に作ってもらったゲームではあるけどね」


不死身の体を用いたゲーム関連のバイトって……


想像がつかない。


ヌイは高らかに笑うと


「さあ、始めましょうか」


そのゲームがまともな恋愛ゲームでなかったことは言うまでもない。


例えば、選択肢を一歩間違えると即主人公が地獄行き。


正しい選択肢を選んでも何故か主人公がヒロインを惨殺する展開だったりする。


あげくの果てにはクラス中の女子と結ばれようとするのだが、上手くいかず。


主人公そっちのけで五六角関係くらいになったヒロインを操って戦うバトルゲームになっていたりした。


そして、やっとクリア(主人公が無事殺されずに三年間の日常を終える)をした時には、もう辺りはすっかり薄暗くなっていた。


ゲームを終え、片づけにかかるヌイ。


その横で、俺達二人は叫んだのである。


「「いや、どういうゲームだよ!!」」


「美しい恋愛の形よね」


「違う。なんか違うぞ、お前」


俺の反論も無視してヌイは


「でも、楽しかったでしょう?」


「そりゃあ……」


楽しくなかったといえばうそになる。


アリアもしぶしぶながらこくりと頷いて。


「認めたくないけど」


「そういう青春もありということよ」


そしてその日の青春部の活動は終わったのだった。




























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