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プロローグ

 

高校生活は長い人生のうちたった三年しかない。


しかしその三年のうちで、人は大きく成長し、その後の人生を左右するようになる。


進学校なら勉強量でその先の未来が決まるだろう。


専門的な学校なら自分の研究次第で就ける職業が違ってくるだろう。


そう、そんな大切な日常なのだから、うすぼんやり過ごしている暇はないのである。


通常ならば。


……神よ、これはうすぼんやり過ごしていた俺への罰なのですか?


毎日変わり映えしない通学路を行く。


変わり映えしない通行人とすれ違う。


変わり映えしない授業を受け、テストとなればそこそこの点数を叩きだす。


そして変わり映えしない帰宅をして、変わり映えしない日常を謳歌する。


そんな生活。


これは、そんな俺に対する罰なのだろうか?


ある日のことだ。


ある日といっても、ある人にとっては人生で一番思い出に残る日だろう。


うすぼんやりした日々を送っていた俺にとっても、その日は特別感を感じずにはいられなかった。


卒業式。


高校生活のピリオド。


新たな生活への旅たち。


そんなある日のことだ。


結局変わり映えのすることがなかった通学路を行く。


「よう、いよいよだな」


「どうした、そんなに血を燃やして」


「奏は相変わらずだな」


少しガタイのいい友人に肩を叩かれる、変わり映えのしない会話。


「俺にとってはただ日々に一区切りつくだけのことだからな。」


「それでも、何か感じるものがあるんじゃないのか?」


「……そりゃあ、少しは」


例え変わり映えがなくとも。


その変わり映えしない世界がもはや二度と手に入れられないものだと知れば、人はうろたえもするものだ。


俺とて例外ではない。


そのはずだ。


「まあ、悲しい……のか?」


自分で首をひねる。


友人――浅野ケイは唇を変な方向に曲げて


「お前らしいな」


「そうだろう?これが俺だ」


そんな馬鹿な会話をしながら平凡な道を行く。


やがてたどり着いた校舎もいつもと変わらない門構えだった。


私立済世高校。


三年間通いづづけた学校。


そしてこれから旅立つ学校。


俺は仰ぎ見て


「今日でお別れ、か」


と誰にともなく呟いた。


そのまま人ごみを避けるようにして靴箱に向かう。


三年生は体育館に現地集合だ。


並べられた椅子に決まりきった動作で腰かける。


こんな風に教師に指示され、腰かけるという動作をするのもこれが最後なのだろう。


感慨深い、のか?


自分でもよく分からない。


ただ何かが失われるのだという感覚はある。


学生がどんどん集まっていき、さほど広くはない体育館が満杯になる。


既に泣いている者、気丈に振る舞っている者。


俺のように、無感動に周囲を観察している者。


みなそれぞれの想いを抱いて、今この場に集っている。


二度と会話を交わすことがない、それどころか会話を交わしたこともない奴ら。


そんな人間達と同じ瞬間を分かち合っていることが不思議だった。


校長の祝辞に、来賓の紹介。


在校生代表の挨拶。


卒業生代表の声に合わせて流れるBGM。


ブラスバンド部の流す盛大な音楽に彩られ、俺達は体育館を出る。


HRの後、お定まりのお別れ会のようなものが開かれるのだろう。


クラスに馴染んでいたわけでもない俺は、それへの参加は遠慮し、一人校舎を後にする。


青春の空気を置き去りにして。


そして帰宅した俺は、両親と適当な会話をして、ベットに入って……


それで、終わり。


そのはずだった。


※※※※※※※※※※※※※


「ほら、早く起きなさい!!遅刻するわよ!!」


母の声がする。


平日の、いつもと変わり映えのしない声だ。


…………いつもと?


俺はガバっとベットから起き上がる。


布団の温もりがまだそこにあった。


母は何を言っているんだ、今日は卒業式の翌日で、学校も何もあったもんじゃないのに。


そう思って卓上カレンダーに目をやる。


硬直した。


何かの間違いか?


4月。


春らしい色調がそのページには躍っている。


4月1日。


始まりの月。


もう過ぎ去った日。


「ほら、早く起きないと始業式に遅れるわよ~~」


階下で母の声がする。


俺は目を閉じた。


混乱し、自分の見たものが信じられなくなる。


これは、いつも通りではなかった。


俺の卒業式は、こうして終わらない。

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