第3話 冒険の幕開け
「そうかい、そんな事があったのかい…」
「はい。それで《夢の楽園》について何か知ってる事があったら聞きたいのですが。」
私は夢で見た事を老婆に話した。
自分は他の世界から来た人間であること。
夢の中で謎の声を聞いた事。
その声に《夢の楽園》に行くように導かれた事。
しかし、この世界が夢の世界であるという事だけは言わなかった。ここの世界の住人達は恐らく、この世界こそ自分たちにとっての現実なのだ。それを夢の世界で自分達は他の世界の夢から生まれた、なんて知ってみろ。きっと、自分達の存在について絶望してしまうだろう。
だから私はその事だけは老婆に伝えなかった。
目の前の老婆はウーン。と考え込み、やがて何かを思い出したような表情を浮かべた。
「悪いね、《夢の楽園》という場所は聞いた事無いんだよ。だが、ここから北に真っ直ぐ進んだことにあるユサの街という所にアザレアという冒険家が住んでおる。その者なら何か知っているかも知れぬよ。」
「ユサの街…ここから北…分かりました!そこに行って見ることにします。」
老婆は「お待ちなされ。」と私に言うと、懐からシンプルな短剣と小さな巾着袋を取り出した。
「これは…?」
「私からの餞別だよ。何かあった時の為にコレ等を持って行きなされ。この巾着にはね、魔法で作った傷を治す丸薬が入ってるからケガをしたらこの丸薬を一つ取り出してお飲みなさい。」
「は、はい!本当にありがとうございます!」
「お気をつけなされよ。」
老婆はニッコリと私に微笑んだ。
私は老婆に深く一礼して、その丸太小屋を後にした。
外はとても良い天気で、いかにも探検日和と言ったような晴れ具合だった。
私は老婆から受け取った短剣と巾着袋を持って北に向かって進んでいった。
___その頃ユサの街では____
「アザレアさーん!アザレアさーん!」
「おう!どうした坊主、また母ちゃんに怒られて家を追い出されたのか?」
少年はぷくーっと頰を膨らました。
「もうっ!違うよ!今日はアザレアさんの冒険のお話を聞きに来たんだよ!」
アザレアはケラケラと笑いながら少年を抱き抱えた。
「そうかそうか、悪かったな坊主!それならいくらでも話してやるよ。今日はどんな話が聞きたいんだ?」
アザレアは少年を椅子の上に座らせて、台所へと向かった。
「うーん…と〜…、あっ!あれがいい!西にある大っきな国のお話!」
アザレアは淹れたてのミルクティーを少年に差し出し自身も椅子に腰かけた。
「おお、分かった!じゃあ今日はその国の話をしようじゃないか!あれは十年以上前の話だ。俺が冒険家として名を上げ始めた頃の事だ。その国にはな__」
ドンドンドンッ!
突然、アザレアの話を遮るように家のドアが荒々しくノックされ、アザレアの断りもなく複数の男達が入ってきた。
「おいおい、ノックもなしで入ってくるとは随分お行儀が良くねえようだなぁ。」
アザレアの発言を無視し、男達はアザレアに向かってこう言い放った。
「冒険家アザレア・バリーダ、お前をメラドリア王国王子暗殺の容疑で逮捕する!」