第2話 鏡の向こう側のような世界
…
……
……ここ、どこ…?
……確か私は車に跳ねられて…それで…?
そうだ、私は確かにあの時車に跳ねられた。しかし私の目の前に広がる世界は、何とも言えぬ田舎染みた緑豊かな村の姿だった。
「どういう事…?」
これが死後の世界なのか?死後の世界と言うには、どうも呑気な毒気が抜かれる様な感じなんだけど。
そう、何度も繰り返す様に私はあの時確実に車と衝突した。って事は…あぁ、私やっぱり死んじゃったんだ。ここは死後の世界だ。死後の世界だからこそ、こんな毒気抜かれる様な世界なのかもしれない。欲望や悪意を浄化して現実世界に転生してください、と言う事なのだろうか。
とりあえず、とにかくこの良く分からない状況を何とかする為に私は村の方へと歩き出した。
その村は何と言ったらいいのだろうか。いわゆる典型的な田舎の村!と言う感じだった。辺り一面には田んぼや畑が広がり所々に奇妙な顔をしたカカシが立っている。家は小さなワラの家がほとんどで一つだけ丸太小屋の家が大きくそびえてる。あれは村長の家だろうか…。もちろんコンビニやレストランなどは無く、何だかまるでタイムスリップしたような気持ちになった。
「はぁ…ど田舎じゃん。何だかお腹も空いてきたし…ってあれ?」
…お腹が空いた?死人にそんな感情ってあんのかな?まあ、いっか。
「って言ってもコンビニある訳ないし…、うーん…どうしたら…」
その時だった。
突然私の背後から「待てー!」という小さな子どもの声が聞こえてきた。
何気なく振り返ると、そこには小さな可愛らしい子ども…ではなく大きな恰幅のいい黄土色の犬がこちらに突進してきた。
「う、うわああああああ!!!!」
ドシンッ!という衝突音と共に私は思いっきり背中から倒れた。
「いっ…いったぁ〜〜!って、うわっ!」
その犬は私の状況などを気にせずペロペロと私の顔を舐めまわしている。
「はぁっ…はぁっ…!ご、ごめんなさい!け、怪我はない…ですか!?」
おそらく飼い主であろう。七、八歳くらいの小さな少女がこちらを心配な様子で尋ねてきた。
「あ、あはは…大丈夫だよ…っいてっ!」
「あっ!ひ、膝擦りむいちゃってる!ご、ごめんなさい!あの、こっちに来てください…治すので…。」
少女はそう言うと私の手を引いて丸太小屋を指差した。そうか、この子はこの村の村長らしき人の娘なのだろうか。もしかしたら何かこの世界について聞けるかもしれない。
その様な淡い期待を抱き、私は少女に手を引かれながら丸太小屋へと向かったのだった。
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「おばあちゃーーん!おばあちゃーーーん!こっち来てー!」
丸太小屋の中に入ると少女は大声で『おばあちゃん』を呼び出した。
そこまで時間が経たないうちに、奥の部屋から焦げ茶色のローブを羽織った優しそうな老婆が出て来た。
「おばあちゃん!ププがこの人の事怪我させちゃったの!それでこの人怪我しちゃったから治してあげて!」
ププとは先ほどの犬であろう。
老婆は「どれどれ。」と私をチラリと見るとニッコリと微笑んだ。
「あいよ。ささ、お嬢さん、そこのイスにお座りなさいな。」
私は老婆の指示通り指定された座り心地の良さそうなイスに座った。
「じゃあ治しましょうかね。んんっ!」
老婆は少し気張り両手を血の流れる私の膝にかざすと、なんと!膝を白い光が覆い、一瞬ピカッ!と光るとそこには傷跡一つ無い私の膝があるだけだった。
「はい、終わり。うちのププが迷惑かけて悪かったね。」
正直今起きた現象が信じられず、老婆の話など頭に入ってこなかった。老婆はそれを察したのだろう。老婆は私の顔を覗き込み、ニッコリと微笑んだ。
「お嬢さん、魔法を初めて見たのかい?」
驚きのあまり言葉を失っている私は、コクコクと頷くことしか出来なかった。
老婆は不思議そうな様子で話しを続けた。
「おかしなお嬢さんだね、これくらいの魔法を見たこと無いというのかい?それなら言っておくが、この魔法は副作用として入眠作用があるんだよ。ほんの二、三時間寝てしまうだろうが、なぁに心配すること無い。ベッドを用意しておくからそこに寝ときなさいな。」
老婆は再びニッコリと微笑んだ。
老婆の予言通り私は突如強烈な睡魔に襲われ、だんだんと意識を失っていった。
…すな…明日奈……明日奈、聞こえる?
…う、うーん…ん?はい?
どうやら聞こえてるみたいね。明日奈、あなたはどうやら自分が死んだと思っている様だけど安心して。あなたはまだ死んでないわ!
へぇ〜……えっ!?どういう事ですか!?!?
これを見て。
これは…病院…?えっと…、えっ!?これって私……?
そうよ。あなたはお友達と一緒に事故に遭い、あなたは今意識不明の状態なの。
意識不明…お友達……ゆ、幸人…幸人はどうなったんですか!?それに意識不明ってどういう事なんですか!?
とりあえず落ち着いて聞いて。
あなたは今、現実では意識不明とされているけど厳密には意識不明ではないの。
どういう事ですか…?
あなたは今夢を見ているの。
…夢……?
そう、夢よ。現実のあなたは今夢を見ているの。そしてその現実のあなたが事故のせいか何かで夢の世界に来ちゃった…って事。分かる?
…は、はぁ……
…あんまり分かってないようね。まあでも、その内分かるようになると思うから安心して。あなたが今いる世界はね、ざっくり言うと現実の世界で生まれた夢が集まった世界なの。普通現実のあなたが来ていい世界じゃないんだけどね。
…夢の世界…?
そう、分かりやすく言うと『鏡の向こう側の世界』って感じかしら。決して交わることの無い世界。そこにあなたは来ちゃったわけ。
じゃあ、もう帰れないってことですか?
大丈夫よ!あなたはまだ現実に帰れる!いい?その為には、《夢の楽園》という所に行かなくては行けないの。
夢の…楽園…
そう、そこに行けばそこにいる神様が何とかしてくれるから。あっ…ごめんなさい…もう時間……切れ……
えっ!ちょっ、待ってください!幸人はどこに行っちゃったんですか!ってか大体あなたは誰なんですか!?
私が……誰なのかは…きっと…あなたが…夢の楽園に…行け…ば…分か…る…わ………
だから探して、《夢の楽園》を