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はて?ヨドガー・アラン・ポーとは一体………


「はぁ、大ヒット小説。はぁ。」



蔑むように鼻で笑うリシャ。その嘲笑はまるで落語『地獄八景亡者戯』に出てくる、血の風呂釜で溺れる受刑者を楽しそうに見つめる閻魔大王のようなそれであったが、


しかしそのクソ腹立つ顔に対して言い返すことができるような余裕は今の俺にはなかった。



「いやー、ヤバい。それはヤバイ。いくらなんでもマジでヤバイ。仮にこの小説が完結したとして、俺の帰るとこ無くなっちまうじゃんか。えっ?


てゆーか、俺の体残るんか?そもそも。今机に向かってこの小説書いてるんだろ?でも、意識は俺の方にある。ってことはだな。向こうは心神喪失状態と同じだと考えられるわけで………


ひょっとして、火事が起きたらなんの抵抗もなく火に炙られ続けるんじゃ………」



「なんだ、そんな心配してたの。


それは大丈夫だよ、主様。」




本当に何でもなさそうに、さらっとリシャはそう言った。




「さっきも言ったけど、こっちの主様にもあっちの主様にも意識はあるんだ。だからえーと、何て言うの?分裂した状態とでも思ってたらいいんじゃないかな?


だから、むこうの主様がちゃんと火がつきっぱなしだったら火事になるっていう小学二年生でもわかるような基礎知識をしっかり理解さえしていればなんの問題もないと思うよ。」



「気づけばちゃんと消してくれるってことか………だったら安心。いや、よかった、よかった。俺の過去小説がいくら黒歴史だからって燃えちまったら切ないしな………」



「まあ、物の価値はその人にしかわからないって旗振任三郎の犯人のだれかも言ってたしねぇ。ガラクタが宝物でもなにもおかしくないと思うよ。」



「理解してくれるのはありがたいけど今お前さりげなく俺の小説ガラクタ呼ばわりしたよな?」



「あ、もう時間だよ主様。


ほら、向かい側のホームに馬車が来てる」



俺のサイゴの言葉は全く無視して、リシャはガラスの向こう、島型の三番ホームを指差して言った。


見れば本当に馬四頭に引かれたキハ20が止まっている。てゆーか馬に引かれてる時点でキ(機動車)じゃねーんじゃねーの?


押し出されるように急かされるように待合室を出て、まあまあ跨線橋などない時分、普通にホームを降りて線路を跨ぎ隣のホームへ向かう。


浮き船を連想させる縦長のホーム、その進行方向の先っちょに、おそらくは鉄道員なのだろうがコートが分厚く日露戦争時代の遠征軍のそれにも見えなくもない制服を着た、年配の男が立っていた。車掌だろうか、はたまた駅員だろうか。



「よし、じゃあ主様。とりあえずあの人に挨拶だ。」



そう言うとリシャは、ずんずんとその男の方へ向かってあるいていく。どうでもいいことなんだが『リシャ』って打ったら予測変換のトップが『Re:Japan』になるのなんとかならんか?



「おっちゃん!お勤めご苦労様です!」



おおよそお互いの足音が認識できるくらいまで近づいたら、リシャは大声でそう叫んで右手を敬礼の形にした。男は振り向くと「おお、これは女王陛下」と深々と会釈をした。ああ、嘘じゃないんだ。本当にこいつが女王なんだ………



「わざわざ遠い所から来てもらってゴメンね?本当ならこんなのおっちゃんが出張ってくるような仕事じゃないんだけど。そんな危険な内容でも無し……」



「俺ぁポッポヤだから、やめるわけにいかんっしょ。」



ああ、なるほど。高倉健だ。



「おっちゃんがそんな風に律儀で助かるよ。なにせ、他の大臣は全員……いや、宣伝に使えるとかぬかしたアホ広報大臣除いてみんな、


この主さ………ヨドガー=アラン=ポー救出作戦に手すら貸そうとしてくれなかったんだから。


鉄道大臣のおっちゃんだけがーーー」



「おい待てリシ……女王陛下」






「ん?何?アラン」



「それだよ、それ。


ヨドガー=アラン=ポーってなんだよ…ですか?」



ああもうまどろっこしいな。二人の時はこっちが主様であっちがシャーペンだから敬語使う必要ないけど、この世界の住人が一人でも前にいたら今度立場が全く逆転するわけで、やりにくいったらありゃしねぇ。





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