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異世界の大本営発表


「おけおけ、納得納得。しかし、それにしても主様は順応性高いねぇ。一端のルール説明されただけでそこまで精度の高い憶測つくんだから。」



「順応性高くなきゃ贋作作家なんてやってられねぇんだよ。ああもう何か認めちゃってる俺もなんなんだって話だけど現実だから仕方ねぇな!クソ!


その当時の流行りに応じて変幻自在にストーリー変えてく。これができてこそパクリでも売れるんだ。


ニーズから外れたモノマネ小説なんざ、誰も読みたがらんぞ。新鮮さはない、既視感はある、簡単に展開予想がついちまう。


唯一『おんなじような物が読みたい』って欲だけに訴えかけるのが俺みたいな作家の生き残りの術なんだ。大局見極めて時勢を読まんけりゃこの職業成り立たんから。プライド捨てて金魚の糞になるんだよ、ほんっとド屑だな俺な。」



「そんな自分を蔑まないでよ、主様。世界中の誰もが主様のことを『創造力の欠片もない贋作底辺世の中に対してゴマスリメダカの下痢野郎』って罵ったとしても、私だけは絶対に味方だからさ。


たとえそれがコンビニ弁当の廃棄物を拾ってきて賞味期限シール張り直してもう一度店頭に並べるような商売でも、


深夜アニメを録画しておいて1.2倍速にしたものをYouTudeに投稿して広告代を稼ぐような商売でも、


私はそれが主様の仕業なら誇りに思えるよ!」



「うん、悪口がグレードアップしすぎだし俺そこまでひどい認識じゃなかったわ。なんかゴメン。ほんとゴメン。出版業界さんすみませんした。


心がもはや玉ねぎのみじん切りのみじん切り状態だわ。形がねぇ、粉よ、粉。」



「あ、それで泣いてるんだ。玉ねぎの汁が目に染みたんだね。


私はてっきり『とにかくデフォルトがなきゃなんにもできないでき損ないのモノマネ小説しらすの小便作家』って言われたのに傷ついたのかと」



「回を重ねるごとに威力を増すテポドンみたいな悪口マジでやめてください。ホントに。心がハートブレイクするから。あと泣いてません。汗です。目の新陳代謝が活発なんです。」



「なんだそうだったの。だったらずいぶんと汗だくだね。このクソ寒いのに………」



「女王であるリシャ様にそこまで想って頂けて心が暑くなったってことにしといてください。ええ。


で。お前の質問に答えたんだから今度は俺からひとつ聞いていいか?」



「ん?何なに?何でも聞いてよ、答えられる範囲なら何でも答えるよ。」



「じゃあーーー」



「ーーーさあここでテレフォンを使います主様。


それでは電話はフ・リシャ・ペンナーさんと繋がっています。制限時間は60秒です。どうぞ!」



「えー、次のうちー。ここから王都とやらに帰る手段はどれ?


A、徒歩。B、馬。C、車。D、魔法ってミリオネアやめろって。俺は借金かかえた挑戦者じゃねぇし、お前もみのも○たじゃねぇんだからよ。真面目に聞いてくれねぇかな?」



「あーっそうこうしているうちに制限時間一杯!何も聞き出せずに終わってしまいましたね主様?さぁ残るライフラインは二つ、オーディエンスとフィフティーフィフティーですが?」



「あーもう!わかったよ!どっちも使うから!あれだろ?多数決と答え半分にする奴だろ確か!」



「えーでは主様、残るオーディエンスとフィフティーフィフティーを同時に使います!


答えこうなりました、じゃん!



100人中50人が回答してくれま」



「オーディエンスが半分になってどうすんだよ!アホか!」



「まぁ答えはEの路線馬車なんだけどね」



「選択肢にないうえになんだその珍妙にして奇っ怪な乗り物の名前は」



「ん?いや、別にそんなに変わったもんじゃないよ。日本にも明治初期にはあった鉄道馬車ってやつ。


このフランケルでは結構鉄道網が整備されててさ。国の端から端まで移動するのにそんなに時間かからないの。


主様だって、さっきの戦闘区域まで移動するのに途中まで鉄道馬車使ってきたって設定になってるよ。」





「中世レベルの文明のくせに生意気に交通網なんて整備しやがって……兵員輸送に鉄道使うとか大衆食堂のメニュー表にある『ブルターニュ産オマール海老のコンソメゼリー寄せ トリュフと滑らかなブロッコリーのムースリーヌ』くらい分不相応だろ」



「主様が軽い鉄オタだから悪いんだよ。ずっと言ってるけど、基本的に九割がたは主様の頭の中身で構成されてる世界なんだからね。だから馬に牽引されてる車両が外観だけキハ20だったりするの。」



「そこまでやるならいっそ蒸気機関か何か作れる魔法使いか何かがいるって設定つくって自力走行させればいいのに………それをせずあえて馬を使うってのも俺の趣味なんだろうね、わかります」



「よく自分を理解してるね主様は。その通りだよ、未だにこの世界の移動手段の主軸が馬なのは『文明レベルが中世』っていう設定より主様の憧れからっていう部分が強いからだろうね。


三年前アメリカ西部劇の大俳優ジョンウェインみたいに馬を乗りこなしたくて乗馬クラブに行ったけどあまりの入会金の高さと思いの外高い難易度に匙投げて帰って来た主様は、自分の財力、運動神経のなさと根気の低さは据え置いて『馬文明が衰退した今この時代では現代人に馬に乗る適正がなくて当たり前』って言い訳をしてあくまで自分は悪くないと考えた。だからこの世界では人々は馬に乗る、使役するのが当たり前でーーー」



「ーーーわかった。もういい。俺の屑エピソードお腹一杯だから。


で?その鉄道馬車キハ20とやらでここから何時間くらいかかるんだ首都まで。ってかもうかれこれ一時間くらい歩いてるけど駅見えないぞ、あと寒い」



「頑張って主様。駅まではボルトがダッシュであと10分ぐらいだから。


それから、その駅から……まぁ『ダラカニ駅』っていうんだけど、そこから首都の最大駅『モンジュー駅』までは大体二時間くらいでつくと思うよ。


まずやたら人身事故が多くてラッシュアワーで電車が止まる事で有名なハンワ線で分都『マッチェム』まで出て、そこから最近新型車両を導入した王様環状線でモンジュー駅まで出るの。あっ、それでね、この環状線内回りと外回りがあるんだけど、マッチェムからモンジューまで行くには外回りの方が二分だけ早くて」



「もうそれ大阪人にしかわからんネタだろ。そろそろやめろって千葉ロッテ」


「ちなみに駅には兵員輸送専用車両が止まってるけど、これはあえて無視ね。


国民の目を欺くための欺瞞工作だから。壊滅的被害を隠すためのカモフラージュだから。」



「えっ、待って。俺って確か世間的には甚大な被害を受けながらも敵を撤退させた英雄ってことになってるんじゃ」



「うん、そだよ。明日の朝刊で大々的に報道されるから、その時にはそうなってるだろうねたぶん。」



「……それ自体あんまり釈然としないが、じゃあ何でその壊滅的被害をいまさら隠す必要があるんだ?」



「あのねー、主様。いくら敵を撤退させられたからって、3000人はやられすぎだって事なんだよ。全滅は国民に今知られたらヤバイって事なんだよ。


だから、ね。被害は半数の1500。残りの1500はもうひとつ向こうの辺境、最前線に転戦してそこで壊滅することになってる。兵員輸送車は要するにそっちに空車のまま回されるってことさ。


意味はわかるでしょ?」



「………その壊滅的被害の原因としてこんなこと言うのも何だが、


政治家も軍人も汚ぇな。この世界も。さすが俺の脳内だ。」



「確実に大本営発表に影響を受けてるよね。まあ、正義の軍隊がこう簡単に負けるわけにもいかないってとこなんでしょ。」



「正義、ねぇ………」



釈然としなさすぎるワードがリシャの口から飛び出したところで、一旦会話は途切れた。


しんしんと降り続ける雪は上手いこと死体の山を覆い、明日晴れ上がろうが雪崩が起きでもしない限りはそこが戦場だった事実を隠し続けることだろう。




汚れつちまつた悲しみに


今日は大雪の降りかかる………






「あっ、ほら主様!見えてきたよダラカニの市街地が!あそこにあるあの小さいボロ屋が駅だよ!」



大阪の夜空に光る四等星のごとき、見えるか見えないか甚だ微妙なラインの光を指差してリシャがハシャぐ。


相変わらずサクサクと、まるでかき氷にスプーンを差したかのような音を立てながら、その微かな光を目指して歩く。光誘う方へひたすら走るのさ。僕が僕でいられるのはあそこしかない。松taka子。



本当にあずまやと紙一重の駅舎に着く。一応壁があって窓ガラスがあって、中に入ってみると外にいるよりは遥かにマシだと言える環境がそこにはあった。




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