おいお前いきなり真面目かお前ふざけんなよこの小説の趣旨に合わんだろうが
「それでこんなに死体がゴロゴロころがってんだな。」
膝下まで積もった雪をザクザク掻き分け、進む帰路。
右にも左にも、ちょっと視線をずらせば人の頭やら手やら足やらが転がっている。
だが、妙にリアリティーがない。マネキンの部品みたいだ。たぶん本物を視たことがないから表現できなかったのだろう。
たまに内側から破裂したようなエグくてリアルなやつもあるが、それは多分北斗のアレからの知識なのではないだろうか。
「めちゃくちゃ一方的だったからねー。
何て言うか、シュレッダーと紙が戦争してるみたいだった」
「さしずめ俺は裁断機に重要書類差し込んだ大馬鹿野郎か……」
「まあ、主様がやったことじゃないんだし、いいじゃん?本国ではほら、死に物狂いで敵を撤退させてなおかつ帰還する予定の英雄って事になってるし」
「……まるでスピルバーグの『父親たちの星条旗』だな。」
「基本的に主様の知識に寄ってるからね。今頃王都は主様の帰還を祝う祝賀行事の用意の真っ最中だよ。
ま、私とイッショに帰還するっていうところにプロパガンダ効果も見込んでいるからね。そりゃ国を挙げてやるさ。」
「ゲッペルズがおる……」
「共和国ってっても結局軍事クーデターでできた国だしね。ある程度仕方ないよ。
私も基本的には象徴王女だし。」
うんざり、とばかり首を振るリシャ。長い金髪が肩口の雪を払う。
「………そういえばさ、主様。話変わるけど、聞きたかったこと聞いていい?」
「…何?」
「あのさ、さっきこの物語の主たる敵が宗教団体だってわかったとき、主様、これが自分の小説だってやけにあっさり納得してたでしょ。
アレなんで?」
「最近のラノベの傾向だよ」
俺はさも当然とばかりそう言った。リシャは首を傾げる。頬を斜面として考えた場合、その対比は1対2対√3。従ってこれは直角三角形だ。
「宗教団体ってのは、一番敵組織として書きやすいモノなんだ。」
「………?」
「いいか?
基本的に人間ってのは、同じ種族である人間を殺す事に抵抗があるんだ。
これは当事者だけじゃなくて、それを外野から見る第三者にも同じことが言える。つまり、ラノベの読者だな。
例えば……どっかの主人公が、戦争でやむを得ずゲリラ兵を殺さなきゃならないとしよう。その一部分だけを切り取れば、それを読む読者は『戦争だから仕方がない』と何とか割りきれるかもしれない。
が、仮にここにバックグラウンドとしてこういう設定があったとしよう。
『そもそもその戦争自体が、主人公側の嘘八百から始まった戦争で、殺されたゲリラ兵の家族は前日に主人公側の別の部隊に無差別殺戮されていて、しかも主人公側は非人道的な化学兵器を使用していた。』」
「……ベトナム戦争だね」
「戦争なんて得てしてそういうものだ。どっちかが悪いなんて極端で単純な構造なんてあり得ない。どっちかが悪いなんてのは幻想だ。1人殺せば犯罪者だが戦争で百人殺せば英雄ってのはおかしくないかね?」
「…………。」
「仮に完全にどっちかが悪い戦争を書いてるラノベがあったとしても、俺はそんなお花畑な設定、腐れと思ってるからまずパクらない。もしこの世界がそんな設定だったらまず俺はここが俺の小説の中だなんて思わないからな。
で、だ。
土台にそんな設定があったとしたら。主人公には正義であってほしい読者は、人を殺してほしくない、と思うだろう。その状態で主人公が人を殺したら?主人公に対して幻滅もするし胸糞も悪くなる。
そして、魅力的でない人物が主人公の小説ってのは
そもそも何がいいのか途中でわからなくなってくる。読者は、離れていく。」
「まあ……わからなくもナッシング」
「これがガチの戦争を主題にした話ならまた変わってくるけどな。けど、そんな重いテーマの作品で、主人公の活躍に胸踊らせる展開なんて、どう考えてもピントずれてんだろ。まぁ、なくはないけど。大概は主人公と一緒に戦争の悲惨さを追体験していくような内容になる。」
「あんまり見ないね、確かに。」
「人を殺すってのはそういうもんだ。確実にイメージダウンが伴う。書いてる人間だって胸くそ悪いしできれば避けたい。
だから異世界転生ものの主人公、あんまり人殺さんだろ。あるいは直接手を下さないっていうか」
「まあ最近の流行の傾向が、チート物から『弱いけど頑張る』系の話に移ってきてただ単に主人公に人殺す力が無いってのもあるんだろうけど………」
「尚更だ。読者と等身大の主人公、つまり感情移入しやすい、想像しやすい、自分に近い境遇の人間が主役であればあるほど、人を殺さなくなる。
読者も作者も、人殺しは嫌だからな。
それが一番如実に出たアニメと主人公を挙げようか。種死のキラヤマt」
「ーーーでも、それだとおかしいね。だって主様さぁ、確かに主様の中に主様が入ってきてからはまだ一人も殺してないけど、ここまでの設定的にはもう既にボコスカ人殺してる設定になってるよ?初陣で輸送船団沈めちゃってるし。
今小説を書いてる現実世界の主様も主様なんだから、今こっちの主様がそう考えているってことはそんな設定にはなりにくいはずじゃ……完全に等身大の主人公書いてるのに………」
「そこなんだよな。俺も不思議に思ってた。そもそもこんなに死体が散乱するような戦闘シーン、あんまり書いたことないんだけどな………たまに俺じゃない部分が………」
「……んまぁ、いいや。言いたいことはわかるし。それに、デフォルトに当てはまらないってのも考えようによっては主様が他の作品の流れに囚われてないって事にもなるし、いんじゃん?」
「まぁ、言えなくもないけどな………
それに、確かにこんだけ死者が多い設定は初めてだけど、殺さなかった訳でもなし。これまでの主人公たちも。
それでもちゃんと、そのあとは『殺し』に関する葛藤とか挟んでフォローするけど。進撃系巨人漫画のあいつらもきっちり苦しんでただろ?ああいうのは大切なんだよ、至極。
で。本題に戻るとだな。
どうやったらそのフォローすら必要としない『殺し』が小説の中で成立するかって話だ。
要するに、余計なストレス、罪悪感を、いかに主人公を通して読者に与えないか、ってこと。」
「それと宗教団体と関係あんの?」
「ある。
もっと条件を絞れば『狂信的な宗教団体』ってことになるけど。」
「ジョーシン的?」
「唯一関西資本の家電量販店はここでは関係ない。だから何度も言うが関西ローカルネタやめろ。こころのボリューム上げて頭もしゃんとしろ。駆け出せ新しいイメージ」
「ノリノリじゃんよ主様も」
「うるせぇ。狂信的だ狂信的。
うーん、例にあげてもわからないかも知んないけど、例えるなら………kkkとかそれこそオウムとかな。北の将軍様の国とかもそうかもしれん。ISは最近記憶に新しい。」
「そのこころは?」
「あくまで、読者目線からしてな。
『布教のために手段を選ばないこと』、そんでもって『直接主人公たち』つまり『等身大の自分たち』に危害を加えるような活動をしていること、
そして最大のポイントは『自分達と同じ宗教、信条』あるいは『人種』でなければそれを人とも思わないこと。
これだな。総じて『自分達には理解できないもの』であること。」
「それだと抵抗が薄れるの?」
「そんな得体の知れない怖いもの、早く排除してほしい、
っていう自浄作用、防衛反応が働くんだよな、人間には。
基本的に……特に日本のスタンダード宗教観だと、神様仏様ってのは補助輪ぐらいの存在でしかないものなんだ。安産祈願、受験の神頼み………弱くなりかけた自分の心をちょっと補強する。その程度が健全だと考える人が多い。
ので、これを盲信する……ってまあ、程度は人によりきだけど、身を滅ぼすくらいお金捧げちゃったり他人の足引っ張り込んで仲間にしようとしちゃったり、選挙で投票してくれとか言い始めちゃったりすると、
スタンダード宗教観ピープルからすれば『怖い人』に様変わりしちまうんだよ。得体の知れない怖い何かに。」
「はぁ。」
「で、それが究極になったのが、他宗教無宗教信者に寛容じゃない連中。っていうか自宗教以外を人間と思わない連中。
そんな事のために人殺すか?って思える条件が揃ったところで、スタンダードピープルからすればそいつらは同族としての認識から除外され始めるわけ。
『なんだか理解できないもののために人を殺す怖い何か』って具合に。
そうなれば……まぁ、一切とは言わん。が、普通の戦争よりは圧倒的に殺しのハードルが下がるわけだ。
何せ相手は訳のわからんもんに命を捧げて平気でこちとらの命を奪う、人間とは思えない何かなんだから。」
「………宗教、ってより狂信的、ってのが問題なわけね。」
「軍人が職業として社会的に認知されてるのに対してテロリストが職業になり得ないだろ。そういうことだよ。
特に最近のご時世、多いからな。そういう類いのテロ。世の中的にも、しっくりきちまうんだろ。」
「………で、パシフィカス教の教義と行動を聞いた主様は、それがその条件に当てはまるから大まかな意味での敵が連中になることを悟ったと。」
「魔王か教祖か。対狂信者組織ラスボスのツートップかな、ファンタジー系では。独裁者とかもあるけどまぁそんな感じ。
で、この小説には理解できない教義を示して無茶苦茶やってる教祖がいた。」
「なるほーどね。それで主様はこの世界が自分の作った世界だと確信できたと。
自分の思ってる鉄則に沿ってるから。」
「平たく言えば主人公の敵が宗教団体だったんじゃなくて、主人公のために敵が宗教団体になった、ってとこか。
まぁ、理屈に関しては異論は認める。当然そうじゃないって言う人もいるだろうし、あくまでこれは俺の持論でひょっとしたら少数派かも知れんけど、
でも逆を言えば少数派意見でこの世界が構成されてるってことは、極めて俺の脳内構成に近いっていうことになるだろ。
だから思えたんだ。ここは俺の小説の世界だって。」