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チートと言うにはちぃと弱……すみません謝りますからそんな冷たい目で見ないでお願い


「………でねでね。主様。


主様の能力は、ちょっとした魔法の使える敏腕剣士っていうことになってて……」



ただひたすら広がる雪原を、方位磁石が示す北へとひたすら歩く。リシャ曰く王都への帰り道、ということだそうだが、果たして地図もないのに本当にそれがわかっているのかどうかというのは疑問でしかない。



ゲームでいうところのチュートリアルはまだ続いている。本来ならいろんな人に接していくなかで徐々にその世界のルールに慣れていく、そういうのが面白いはずなのだが、


いかんせんこのヒロインたる女王様が『現実世界』の側の人間………いやシャーペンなので、まるで電化製品の取説を読み聞かすように全部つらつらつらつら話してしまう。


お陰で突如の異世界転生であるはずなのに、この世界の事情、摂理、文化、歴史、それらすべては難なく情報として手に入ってしまった。



自分の境遇を紹介するのも何か変な感覚だが、


どうも俺は貧民街生まれの天才肌努力型剣士ということになるらしい。


早い時期に父親をなくし、母子家庭で育った俺は、この世界でいうところの高等学校に行くのに奨学金を借りなければならなかった。


ところが19の時、返済が滞ってしまった。母親がぶっ倒れたのと、俺のバイト給料ごときでは払える額ではなかったのと。


で、運の悪いことにその年、とある法案が議会で可決された。「奨学金貧困救済特別措置法」とかいうのが。


返済困難に陥った人間を、国の機関である軍隊で雇い上げる、返済が完了するまで従軍させる、というのがその大まかな内容。



ま、要するに実質的徴兵制というやつだろうか。この国の子供の86%は奨学金を借りている。ほぼ同割合の家庭が貧困家庭だからだ。その原因は長く続いた戦乱だということなので、ホント糞みたいな政治だが。


で。


俺は見事にそれに引っ掛かったらしい。


20の時に騎士兵団に入団。



と、その前にちょっとだけこの国の軍事形態について説明しておこう。


アメリカ軍で例えれば、陸軍たるのが騎士兵団、海軍たる水兵団、そしてちょっと趣旨が変わってくるが、特殊部隊としての魔法兵団。大まかにこの三つに分けられる。



騎士兵団は読んで字のごとく騎士の集まりで、まぁ各個の能力はピンきりだが早い話が歩兵というところ。軍事技術はおよそ16世紀初頭程度、とリシャが言っていたので、まだ剣は有効な戦闘手段らしい。鉄砲も存在するにはするようだが、後述する魔法使いの存在のお陰で、日本の戦国時代ほど効力はないらしい。


水兵団は、基本的に軍艦を擁して戦う部隊。軍艦というのがどの程度のものなのかは実物を見ていないのでわからないが、たぶん進んでいて大砲を積んだ帆船というところではなかろうか。


で、魔法師団。


やっぱりファンタジーであるからに、この世界にも魔法は存在するよう。この物語のラスボスと思われる名しか知らぬ教祖アリラマが有すると言われる、世界を七回破滅させられるような強力な奴から、近所のラーメン屋の住所がわかるといったようなタウンページみたいなやつまで、その種類は実に様々らしい。


この、広義の意味での魔法を使用できる人間のことを、この世界では魔法使いと呼ぶ。ちなみにこの魔法使いは、両親のどちらかが魔法使いでなければ生まれてこず、なおかつその五代前までの全体血量の26%以上が魔法使いでなければその能力を発揮できない。メンデル遺伝の法則はこの世界でも有効であるようだ。


以上の理由から、彼ら魔法使いは『ペレルース=モンタナ=ジョーダン』の末裔であるとされている。パシフィカス教教祖アリラマが自らを子孫と言い張るのもここが根幹らしい。ただし、魔法使いの全てが末裔であるとするとアリラマ自身のカリスマ性の根幹が失われてしまうので、パシフィカス教ではこれを教典で否定している。強大な魔法を使えるものだけが子孫であり、その他はその子孫から能力を与えられたものである、と。


ともかくとして、魔法師団はこの魔法を操れる人間の集まる軍団、ということになる。




ーーーここで、「えっ、じゃあ騎士兵団とか無能じゃん魔法使いの集まりにどうやって格闘戦術で勝とうっていうの?バカなの?うつけなの?」と疑問を抱く織田信長もいるかと思う。


が、これはどうもそう簡単なことでもないらしい。


基本的に、人を殺傷できる程の能力を持つ魔法使いは、100万人に対して1人いるかいないかのレベルでしか生まれてこないらしいのだ。一万人に1人生まれる美少女より低確率ということになる。


現在、魔法師団に在籍するそのレベルの魔法使いは48人。まずはAKBではない。しかもこの中には、三時間電磁波を当て続けることで体液を沸騰させ蒸し殺す事ができる、程度の電子レンジみたいな奴まで含まれているそうだから対して当てにならない。


よくアニメで見るような、マップ兵器で敵兵100人を一気になぎ倒していくような超抜能力の持ち主は、1000万年に1人のレベル、橋本○奈と同じような確率だと言われているそう。ちなみに魔法師団には三人在籍。何れも、魔法大臣、師団長、全軍総統と幹部クラスに収まっているとかいないとか。


で、そんな魔法師団は総勢1000人。えっ、少ないと思った諸氏もいるだろうが、この数は四国中最多なのだそうだ。


まぁ、その時点でモンテロッソ首長国国民は教義との矛盾に気づけよって話だが、宗教にのめり込むやつの精神状態なんてそんなものだ。あ、あと四国って高知愛媛徳島香川の四国じゃねぇからな。



それで、そんな人を殺せない程度の連中が集まってどうするのって話になる。彼らは自らを戦力とするためにチームを作り、そして大変な努力をする。



例えば野砲隊と呼ばれる人たち。


石を作れる魔法能力者がまず石を作り、それを何にでも火をつけられる能力者に渡す。ちなみに火がつくまで一分かかる。そしてそれを特殊コーティングができる能力者に渡して持って投げれるようにして、最後に元中日の外野手英智みたいな肩の強さを持つ能力者の手に渡して、そいつがそれを投げる。


リシャはこれを笑い話としていたが、本人からすればこれは大変な知恵と努力の結晶と言えることだろう。どうもこの世界では魔法使いはとても生きづらい人種のようだ。



さらに言えばこういった攻撃魔法(?)が使える能力者集団というのもごくわずかで。


大半は防御系魔法(これも、?)の持ち主で、その場に壁を作れる能力者やら、地面を沼地に変える能力者やら、煙幕を張れる能力者やら、消火剤を口から吐けるやつやら火災報知器になれるやつなど、間接的にしか戦闘に関われない者達。


ちなみに火災報知器になれる奴なんて本当に悲惨だ。煙を探知したら叫ばずにいられなくなるらしい。



故に、役割として魔法師団は、撹乱や防御がその主任務になるらしい。攻撃の中心は時代が移り変わっても騎士師団、というのはそういうことなのだそうだ。




以上、長々説明を終えたところで、お待たせしました俺の話に戻ります。



『奨学金貧困救済措置法』とかいう「戦闘行為は行われていたが法律上『戦闘』という言葉を使うと法的に問題があるので『戦闘』という表現は用いなかった」というどこかの防衛大臣の答弁レベルの屁理屈法案のせいで騎士兵団に入れられた俺は入団直後からその秘めたる能力を遺憾なく発揮したらしい。



現実世界では小学三年生で野球をやめ、以来運動のうの字も経験してこなかったこの体のどこにそんな力があったのかは甚だ疑問であるが、剣を持ち始めた当初からスイングスピードが尋常ではなかったらしい。数々訓練に耐え抜いて、三年ぐらいしたら兵団でも15本の指に入るくらいの実力者になっていたらしい。たぶんこの世界には腕が三本ある人がいるのだろうな。真ん中の腕の親指どっちについてるんだろう?


しかも、俺はかなり特殊なタイプの人間だった。魔法も同時に使えたのだ。


使える魔法の種類はわかっているもので4つ。大雨、洪水、暴風、波浪。全部警報。



人は俺を『フランケルの気象庁』と呼ぶらしい。ちなみに洪水は膝上50センチが限度なのだそうだ。マンホールは隠れるな。危ない。



で、モンテロッソ建国の頃、モンテロッソ相手の初陣を飾った。相手はかき集めの歩兵隊だったが、俺はこれをほぼ1人で壊滅させたらしい。大雨で地面をぬかるませ、自らの剣を持って強襲。暴風で自らに追い風をふかせ勢いで押しきると、船で逃げ帰ろうとした連中を高波で撃沈。


素人相手とはいえ圧倒的な勝利に、俺は三階級特進。貧民街初の士官となって、小隊を率いるようになった、というのがここまでのハイライト。



こうして晴れて師団指折りの腕利きと認識された俺。



数々の戦場で武功を上げて、トントントントンヒノノニトン拍子で昇進を重ねていき、ついにこの間王女付きの武官に任命された。嘘みたいなほんとの話だが、この王女というのがさっきのフ・リシャ・ペンナー二世なのだ。



俺とリシャはどうやら今日に至るまでも中々と仲がよかった設定になっているらしい。ありがちだな。間違いない。この筋は俺が書いている。


あ、混同しないように言っとくけど、これ、ここまでの経過だからね?実際に俺が経験した出来事じゃないからね?そこんとこ、シクヨロです。




で、昨日。第45次ダラカニ地方掃討戦というのがあった。パシフィカス教徒に占領されていた領土の奪還を目的とした作戦だったらしい。というか44回もやって一回も勝てないってまぁ……


俺はこれの大将として騎士およそ3000人を率いて出撃。


迎え撃ってきたパシフィカス教徒魔法使い20人に対して攻撃を開始した。俺が宿る前の俺はバカの一つ覚えみたいにまず大雨をふらした。これで敵の足を止めようとしたのだろう。


ところが相手は考えていた。雨を雪に変える能力者を用意していたのだ。


ぬかるむと思った戦場は大雪で後ろにも前にもすすめない程の積雪。大雨がふらなけりゃ洪水魔法も持ち腐れで、雪では高波も起きず、突風なんぞふかせた日にゃ猛吹雪。


まさにロシアの冬将軍にやられたナポレオンよろしく、寒さのなかで退却すらできない最悪の事態になってしまった。


たぶん普通のラノベならここで援軍が到着したりして悪くて痛み分けになるのだろうし、そこで仲の悪かった奴とかが来て助け合う展開になりでもすれば胸温なのだろうが、


書いてるのはいかんせん俺なのだ。オリジナル作品かかせりゃ右に出たがる者がいないほど胸糞ストーリーしか書けない贋作野郎なのだ。



相手は冬装備を施した騎士を後方に用意していた。


スキーで突っ込んできた敵さん相手にフランケルの誇る騎士兵団、壊滅。損耗率99%という大敗北を喫してしまった。む、無能すぎるぞ俺……



で、ほぼ唯一の生き残りとなった俺は、それでも(味方ほとんど死んじゃったから)玉砕覚悟で猛吹雪を起こして相手騎士兵団を撤退させることに何とか成功。


だがその場に力尽きてぶっ倒れる。そして凍死寸前、さぁこれから地獄八景亡者の戯れが始まろうかというところで、


王女リシャが壊滅の報告を聞きつけ1人駆けつけ、彼女の持つ暖房魔法で俺を救った、


というのがさっきの「やっと目を覚ましたかry」までのあらすじ、というわけだ。長ぇわ。どこのラノベが状況説明にこんなに時間かけるもんか。







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