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14 宮本君の恋愛相談

甘くならない。


あと、短めです。

 あの後、彼らとは何も話さないまま迎えに来たタクシーに乗って帰った。一緒に乗った佳代もおとなしかった。下りる時に「おやすみなさい」と一言挨拶しただけだった。


 でも、月曜日普通番からの出勤だったので、バスで佳代と一緒になった。佳代は帰りも一緒に帰ろうとはにかみ笑顔で言ってくれた。

 支社の入り口で彼らと会った。普通に挨拶をして、仕事が終わったら話がしたいと言われたので、OKしてみんなと別れた。


 仕事が終わり佳代と深見君と寺田君からはもう少しかかるとメールがきたから、支社の近くのコーヒー店に宮本君と行った。店に着いて皆にここにいることをメールして宮本君と向かい合う。

 そう言えば宮本君と2人なのは初めてだったなと思った。


「大谷さんと佳代さんは仲がいいですよね」


 私が何を話そうかと考えていたら、宮本君の方から話しかけてきた。


「そうね」

「うらやましいです」


 彼の言葉に引っ掛かりを感じる。何かあったのだろうか。

 佳代は土曜日は女の子達に囲まれた彼を見て落ち込んでいたような気がした。

 それと関係があるのだろうか。


「何かあったの」


 宮本君はしばらく黙っていたあと、ポソリと言いだした。


「少し話しを訊いていただいていいですか」

「ええ、まあ」

「私は入社前の顔合わせの時に佳代さんと会いまして、笑顔が可愛い方だなと思いました。入社式の帰りの新幹線で寺田に頼んで隣に座るのがやっとでした。私はこれまで女性とお付き合いしたこともありません。一緒にいて気の利いたことも言えません。昨日だって、あなたのことを気にしている彼女に助言もできませんでした。こんな私が彼女と付き合いたいと思ってもいいのでしょうか」


 はっ? まてまてまて。今何といいましたか?


「えーと、確認いい? 宮本君は昨日佳代と会っていたの」

「はい、そうです」

「それってデートじゃないの?」

「デートだなんて。そんなおこがましいこと言えません」


 真面目な顔で答える宮本君。なんか頭を抱えたくなったんだけど・・・。


「今までに2人で会ったのって何回ぐらいあるの?」

「えー、そうですね。仕事帰りが12回くらいで土日が4回です」


 って、覚えてるんかい。あー。佳代の不安の正体はこれか。佳代はデートのつもりなのに、宮本君はそうじゃない。それも、デート以前の段階だと思っている・・・と。

 どうしたもんでしょうね。とりあえず遠回し・・・いや、真面目な宮本君じゃ通じないか曲解されるかも。じゃあ、直球勝負と行きますか。


「あのさ、それって普通にデートなんじゃないの」

「えっ。いや、でも、まだ付き合っていませんし」


 なにかい。付き合わないとデートじゃないと。


「まして、私なんかとじゃ。佳代さんに悪いです」

「はあ~。あのね、宮本君。佳代は好」

「お待たせ~、水月」


 いいタイミングで佳代がきた。仕方がないからお預けだ。


「深見君と寺田君はまだなんだ」

「うん。そう。佳代もなんか飲む?」

「う~ん、どうしよう。お水だけもらってこようかな」


 そう言って佳代がセルフサービスの水を取りにいった。


「宮本君、あとでメールするから」

「はい。すみませんがお願いします」


 佳代が戻ってくると私の隣に座った。


「二人は何の話をしていたの」

「なんの・・・」


 と言って宮本君が固まった。


「ああ、王子呼びされて困っているんだって」

「あー、水月もきいたんだ。もう、すごい噂よ~。水月がカッコいいからファンクラブ作ろうかって」


 はあ~? いや、私が訊いたのは、私の発言のせいで3人が王子と呼ばれてからかわれていることであって・・・。


「何なの、その噂」

「いや、だから、あれを見ていた女の子達が水月がカッコいいって騒いで、王子様みたいだったって。それを聞きつけた沓谷先輩と桜木先輩が発起人になってファンクラブ作ることになるみたいだよ」

「ヅカじゃないんだから・・・」

「えー、私も入ることになっているのよー」


 待て。作られるかもから、作るに変わっているんだけど!


 そのあと深見君と寺田君が来るまで、佳代がきゃあきゃあと騒いでいたのだった。


 2人が来て移動をすることになったけど、何故かまた深見君のうちに行くことになった。タクシーに乗るのに深見君と2人だった。先に走り出したので後ろを向いたら、佳代たち3人が乗り込むのが見えた。そうしたら、深見君に手を握られた。


 部屋に入ると深見君が冷蔵庫からいろいろと料理を取り出した。


「どうしたのこれ」

「昨日姉達がきていろいろ置いていったんだ。1人じゃ食べきれないから丁度よかった」


 タッパーからお皿に移してレンジに入れて温めていく。


「ご飯はどうするの」


 深見君が冷凍庫を開けた。白米がラップに包まれていくつも入っていた。


「これでどうだ」

「これもお姉さんたちが」

「ああ。こうしておけばいつでも食べられるだろうって言ってな」

「じゃあ、人数分温めればいいかな?」


 ご飯を温めてお茶碗に移していく。ローテーブルに並べ終わったけど、まだみんなは来ない。

 ふと気がついた。周りのクッションが温かい素材に変わっていた。


「何を見てるんだ」


 思ったよりも近い位置で深見君の声がした。見ると私のすぐ後ろに立っていた。


「クッションが変わっているなと思って」


 何気ない感じに答えたら後ろから深見君に抱きしめられた。


「ちょっと離して」


 そう言ったのにますますギュッと抱きしめられた。


「大谷、まだ恋愛する気にならないか」


 少しかすれた感じの声が耳元でして、背筋がゾクッとした。頭に彼が触れているのがわかる。


「ごめん。まだ無理」


 そう答えたら深見君に体の向きを変えられて、私の目を見てきた。


「本当に?あの時少しは意識してくれたんじゃないのか」

「あの時って」


 反射的に答えて、まずいと思った。

 グイッと引っ張られて唇が重なった。唇が離れるとニヤリという感じに深見君の口角が上がった。


「この前キスをした時」


 こいつは~。私は軽く睨んでから彼から離れて、ニヤリと笑い返した。


「悪いけどあれは気の迷い」


 私の答えに少しの間呆気にとられたような顔をした。それからまたニヤリと笑う。


「それなら気の迷いと思わせないようにしないとな」


 近づいてこようとしたのでくるりと背を向けて廊下の方に歩いていく。背中から少し焦ったような彼の声。右手首を掴まれた。


「どこに行くんだ」


 顔だけ向けて「トイレ借りるね」と微笑んでやる。深見君は手を離した。私はそのまま、トイレに入り鍵をかけた。

 つい溜め息を大きく吐いた。


 トイレから出ると丁度佳代たちが来たところだった。


「ごめん。スーパーに寄ってたら遅くなった」


 寺田君がそう言ってビニール袋を持ち上げた。

 リビングに来て並んでる料理に目を輝かせる。


「うまそー」


 とりあえず食事がはじまった。ビールや酎ハイを買ってきていたけど、私は断って飲まなかった。そうしたらみんなもお酒を飲むのをやめてしまった。


「気を使わないで飲めばいいのに」

「いや、主が飲まないのに従者が飲んじゃ悪いだろう」


 寺田君の返しに吹き出しそうになった。これは・・・やり過ぎたか。

 ご飯を食べ終わり(ペットボトルの)お茶を出してみんなで座った。


 私は姿勢を正すと頭を下げた。


「えー、ごめんなさい。土曜日は調子にのりまして、ご迷惑をお掛けしてます」

「いや、不甲斐ない俺たちが悪かったというか」

「そうです。断り切れない私が悪かったのですから」

「驚いたけどなんかカッコよかったぞ」

「そうなのよ。水月ってばカッコよかったのよ。もう、カッコよすぎて周りの女の子ときゃあきゃあ言っちゃったわよ」


 あー、佳代のテンションが上がったか。


「もう、忘れて・・・」

「えー、忘れられるわけないじゃない。でも、悔しいな。カッコイイ水月を知っているのは私だけだったのに、みんなに知られちゃって。どこから聞いたのか新田さんからもメールがきて、私も見たかったって言われたわ」

「えーと、新田さんて誰?」

「本社研修で仲良くなった本社の子」


 あー、さいですか。というか、研修で仲良くなった子がいたんだ。


「さてと、聞きたいことがあるんでしょ」


 私から切り出してやる。


「ああ、いったい大谷さんは何者なんだ」


 寺田君の言葉に笑ってしまった。


「何者ってほどのものじゃないわよ」

「だけど波乱万丈すぎるだろう」

「そんなに波乱万丈の人生じゃないわよ」


 小首をかしげながら答える。


「でも、水月。なんか話を聞くにつれて、印象が違いすぎて。何が何だか分からなくなったの。話せる範囲で話して欲しいな。ダメかな」

「まあ、前に言ったわよね。知られて困るような内容じゃないって。ただ、佳代に謝っとく。円花がいる時に言った話は半分嘘だから」

「えっ。うそ?」


 佳代が目をまん丸に見開いた。

 まあ、これが普通の反応だろうな。


 さて、それじゃあ、話しますか。



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