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12 9月 ~ 他の課の手伝い ~

ヒロインが・・・にチェンジした!

 9月になった。今年は残暑が厳しいと予報で言っていた。今日も朝から暑い。


 私は昨日から急遽助っ人で営業1課と2課に顔を出している。事の起こりは12日前。

 8月の終わりの金曜日。あれ以来みんなで集まるのが増えていた。特に金曜日は何故か深見君の部屋で食事をしている。この日は私が作った料理を食べていた。中島さんも必ず合流してきた。


 この日は食事をしながらも男3人でああでもないこうでもないと言い合っていた。話を聞くと、10月に支社をあげてのイベントがあるらしい。課を超えての共同企画とかで、彼らが意見を戦わせていたようだ。 基本お食事処はそういう企画には案の段階では参加しない。というより企画が決まったら協力の要請がくると、バイト3年の長谷さんから聞いていた。


 長谷さんは大学生で今4年生だそうだ。夕方4時から入っている。歳が近いこともあり、遅番をした時に仲良くなった。彼女には珍しがられた。正社員で調理をしていることに。

 あと、同期の彼らの事もさんざん聞かれた。もしフリーなら紹介してほしいとも。

 なので、寺田君には彼女がいて宮本君には好きな人がいることを教えておいた。


 8月の遅番の金曜日。仕事が終わった私達は話しながら建物の外に出た。彼女とは方向が逆なので、歩道のところで別れのあいさつをしていたら彼らに後ろから声を掛けられた。


「大谷さん、いま終わりか。ご飯食べてかないか」


 寺田君が言ってきた。彼はそう言ってから長谷さんが居ることに気がついた。そして困惑したような顔をした。どうやら私1人だと思ったようだ。

 長谷さんは「キャッ」とかわいい声を出した。街灯はあるけど夜だから暗い。長谷さんが顔を赤くしたことにみんなは気がついていないだろう。


「ごめん、1人じゃなかったんだ」

「ああ、いま別れるところで・・・」


 と言いかけたら長谷さんに腕を引かれた。何だろうと見ると腕を絡ませてきた。


「こんばんは。水月さんの同期の皆さんですよね。私長谷文香(はせふみか)と言います。皆さんの一っこ下です。よろしくお願いします」


 声を弾ませてみんなに、特に男3人に媚びるような目線を向けた。それを見て佳代がムッと長谷さんを睨んでいる。


「もしよければ~、私も一緒に行っちゃ駄目ですか~?」


 明らかに媚びを売る話し方に私の眉間にしわが寄りそうになる。

 佳代が一歩前に出た。


「悪いんだけど遠慮してもらえるかな。私達は水月に用があるんだから」

「え~、そんなことを言わずに~。今から皆さんでお食事するんでしょ~。私もまだ食べてないんですよ~。邪魔はしませんから、ご一緒させてくださいよ~」


 はあ~。結局この子もいい男目当てなんだ。私は長谷さんの腕を外すと言った。


「長谷さん、悪いけど一緒はできないわ」

「なんで~。水月さんだって3対3の方がいいでしょ~」

「あのね、合コンするんじゃないんだから、人数揃える必要はないのよ。それに言ったでしょ。彼らには彼女がいるって」

「え~、でも~」


 と言って男たちに流し目をくれようとして、長谷さんが固まった。すぐに気持ちを持ち直したようだけど、私から一歩離れるとガバッと頭を下げた。


「すみません。今の言葉は忘れてください。ごめんね、水月さん。またね」


 そう言って逃げるように帰って行った。彼らの方を向いたら、長谷さんの変わり身の早さに驚いているようだった。

 しばらく沈黙が流れた。


「えーと、どうする?」


 私がみんなに問うたら、気が抜けたような佳代の声が聞こえてきた。


「どこかに落ち着きたい・・」


 うん。確かに。


 それから駅前でタクシーに乗って深見君の部屋に行ったのだった。途中のコンビニでいろいろと買い込んで。


 あの後月曜日に長谷さんと会ったら、彼らのことは紹介しなくていいと言われた。本当に何が心変わりの元かしら。

 長谷さんとはそれ以降とくに何もなく普通の会話をしている。


 ・・・何を余計なことまで思い出しているのかしら私は。


 そうそう、10月の支社をあげてのイベント。これは、取引先を招いての物産展・・・と、違った。展示会だそうだ。うちの商品の売り込み会・・・ゴホン。まあ、そういうことで。

 展示会は普通にやったら毎年変わり映えしないものになる。なのでそのために一工夫がほしいのだけど、これが厄介なようだ。新人である彼らにも案を出せと言われたらしい。同期で一つでも構わないとも言われたそうで、3人で話していたようだ。

 佳代の総務はサポートで忙しくなるそうなので案を出せとは言われないらしい。


 食事が終わり彼らの案をきくとはなしにきいていた私は、彼らの案を基に少し変えたものを紙に書き見せたら、何故か彼らに絶句された。


 そして一昨日にいきなり支社長に呼び出された。言われたのは私の案が採用になったからイベントが終わるまで、営業部の方に顔を出すように言われたのだった。どうも深見君たちがあの紙の内容を提出したようだ。


 昨日彼らと顔を合わせて文句を言ったら3人に平謝りされた。

 どうしてもあれ以上の案が浮かばずに、つい提出してしまったとのこと。まあ、わざとじゃないみたいだから許すとしますか。

 と、いうか、営業じゃない宮本君がいるのは・・・新人の試練てやつね。了解したわ。


 そして日々は飛ぶように過ぎていった。私の案をもとにシミュレーションを重ね、最適な環境を作りあげていく。会場の下見に同行したりして区画割りに修正を加える。

 最初は私が参加するのにいい顔をしなかった人もいたが、次第にそれも消えていった。

 私はなるべく出しゃばらず他の人の影に・・・コホン。他の人の意見を尊重して、少し修正するといい感じになるのではと、言葉を添えて過ごした。


 あとは雑用をするように努めていたはずなんだけど、気がついたら深見君たちと4人で組まされていることが多かった。まあ、他の人よりやりやすいからいいか。


 そうしたら佳代にむくれられた。同期で自分だけ仲間外れは寂しいとか言ってきた。なので行き帰りのバスで佳代のことを構い倒したら、「もういい!」と拒否られた。何故に?


 あっという間に10月になりイベント当日の土曜日。取引先にとても好評で大盛況だった。本社からも社長が視察に来た。らしい。というのも、私はお食事処の出張店に籠りっきりだったから。新しい商品の試食や、甘味屋として裏方は大忙しだった。


 終わった時には、私はへたりこんでいた。この感じは高校の時に文化祭で甘味処をやった時に匹敵した。高校は火が使えるところが限られていたから、火をあまり使わないものを考えたら甘味処になったのだった。懐かしい記憶だ。


 片付けが終わり支社に戻ってお疲れ様会になった。支社長の差し入れのビールを飲んで料理を食べた。気がつくと男性に囲まれていた。みんなとお疲れ様と乾杯をしてコップの中身を飲み干すと、次々にお酒を勧められた。それを次々飲んでいったら、周りの男の人達の様子が変わってきた。どうも、私と同じペースで飲んで酔ってしまったらしい。

 潰れた彼らから離れ別の料理を取りに行った。


 その先には深見君たちが女性に囲まれていた。今日も女性たちは元気だなと思って見ていたら、佳代がそばに来た。佳代もさっきまで男性の先輩に捕まっていたのを見かけていた。


「水月はどこにいたの」


 私は潰れている男達の方を指さして言った。


「あそこ」

「えっ?」


 彼らを見て佳代が目を丸くした。


「えーと、彼らは?」

「私と一緒に飲んでいて潰れた人たち」


 佳代が絶句した。それからなぜか深見君達の方を睨むように見つめた。


「なーにやってんのよ。水月の危機に」


 いや、危機でも何でもないんだけど。

 佳代は私を見上げてきた。


「けど、水月はお酒に強かったのね」

「まあね」


 って、やばっ。前回を酔いつぶれたことにするんだっけ。

 つい、頬をポリポリと指で掻いた。


「それにしても水月ってすごいのね」

「なにが?」

「だって・・・本当なら企画から立案まで一人で出来るんじゃないの」

「・・・さあ?どうだろうね」

「またまた、謙遜しなくていいよ。水月はさ、いるところを間違えたんじゃないの」


 うん? なんかからんでくるな~。何かあったのかな?


「いいよね。水月は。仕事はできるし、背は高いし。下心有りのやつらなんか軽くやっつけちゃうし。私なんていいとこなしだもん」


 そう言って彼らの方をみた。ああ、なんだ。佳代ってば宮本君のことを好きになってるんだ。

 綺麗なお姉さんたちに引け目を感じているのかな。


「私は佳代のいいところ知ってるんだけどな~。ねえ、そんなに嫌なら彼らを連れ出してこようか」


 私の言葉に佳代は顔色を変えた。


「やめて。お姉さま方に睨まれたくない」

「大丈夫よ。あそこにいるのはハイエナで、素敵なお姉さま方はあちらにいらっしゃるから」


 そう、歓迎会で私達にキスの雨を降らせてくれたお姉さま方は別のところにいて、さっきからハイエナちゃんたちを睨んでいる。

 ふむ、佳代に嫌な思いをさせたんだから、少しくらいやってもいいかな。


「佳代、ちょっと待っててね。許可をもらったら王子達を救出してくるから」

「えっ、何をするの。ちょっと待って、水月」


 佳代を置いてお姉さまの方に人ごみをすり抜けて近づいた。上着を脱いで左の肩にかける。


「あら、大谷さん。今日はお疲れ様。あなたのおかげでここ何年かで一番の大盛況で終わったわ」

「あなたも疲れたんじゃないの。なんだったら上には言っておくから早く抜けてもいいわよ」


 あら、こちらが言う前に沓谷(くつのや)先輩ってばいいことを言ってくれたわ。なら、沓谷先輩と桜木先輩に許可をもらいましょう。


「先輩方、今日の功労者が私ならご褒美もらっていいですか」

「まあ、大谷さんがそんなこと言うなんて。面白いわね」

「欲しいご褒美ってなにかしら」


 私は先輩から視線を外し彼らを見る。私の視線を追いかけた2人は眉間にしわを寄せた。


「捕らわれの王子達を心配して姫が泣いております。救出の許可と、彼らを私の従者とすることをお許しいただきたい」


 大袈裟に右手を振り上げて、胸の前に振りおろす。加えてお辞儀をする。沓谷先輩と桜木先輩だけじゃなく、周りにいたおじ様達までドッと笑い出した。


「よろしい。許可を与えよう。功労者の騎士殿にはその資格がある」


 支社長までがのって許可してくれた。


「では、行ってまいります」

「ああ。そのまま、退出することも許可しよう」


 おい、本当にノリがいいな。


 私は背筋を伸ばしハイヒールをカッカッと鳴らして歩いた。今日はパンツスーツだったから、気分は本当に騎士になったつもりだ。

 私が動くと人が割れて道が出来た。そして私の後ろを少し離れた位置からついてきた。


 彼らに近づくとハイエナちゃんたちがこちらを見てきた。1人が口を開いた。


「何か用? 同期だからって彼らを独り占めしないでくれる。あなたも男の人を侍らせてたじゃない」

「何をおっしゃいます、お嬢さん。私に纏わりついていた者どもはあちらで休んでおりますが」


 みんなが私が示した先を見た。そこには8人の男性が潰れていた。


「あのような者ども、私の従者には事足りません。なので彼らを私の従者にしたいと思います」

「何言って・・・」


 ハイエナちゃんが何か言おうとしたらおじ様たちが囃し立ててきた。それに怯んで小声になるハイエナちゃん。

 私は深見君たちの顔を見ながら言った。


「さあ、私と一緒に冒険の旅に出ましょうか、王子達」

「王子達って・・・」


 寺田君が呟いたけど、またまたおじ様たちの囃子声にかき消される。


「さあ。それともいつまでも茨の中にいたいのですか。姫を泣かしたまま」


 その言葉に宮本君がハッとした。

 私は宮本君の腕を掴んで引っ張って女性の間から抜けさせた。続けて寺田君、深見君も引っ張り出す。

 ハイエナちゃんたちは何か言いたそうにしていたけど、周りに注目されているので動けないようだ。

 私は彼らの前に出てまた、手振りを加えて大袈裟にお辞儀をした。


「では、本日の報奨を頂きました。私どもはこれにて次なる冒険の旅に出発したいと思います」


 そう言って出口に向かって歩き出した。おじ様たちが囃し立てる。私の前でまた人が割れて道が出来た。 私が扉の外に出ると深見君たちも続けて出てきて扉が閉まった。


「お前、何やってんだよ」


 あら、失礼な。助けてやったのに。


「何って、小芝居を少々」

「だから、なんで王子なんだよ」

「えっ、みんなイケメンだから王子でいいでしょ」


 私の発言に3人して凝視してきた。その時扉が開いて佳代が出てきた。私は佳代を軽く抱きしめて放し、顔を見ながら言った。


「姫、無事王子達を助け出したよ。私に褒美をくれないか」


 佳代が困ったように3人の方を向いた。


「酔ってるよね、これ」

「ああ」

「この意味不明な言動はそうだな」

「酔うとこうなる人だったんですか」

「失礼な。酔ってなんかいないぞ。みんなも楽しんでくれてたじゃん」


 もう、失礼過ぎる。と、頬をプクッと膨らませた。


「どうする。戻らないとまずいよな」

「そうだな。先に帰るわけにはいかないだろう」


 寺田君と深見君が相談している。


「っていうか~、なんで私に訊かないわけ?」

「どういうことですか」

「だから許可はもらっているんだってば!」

「何の許可ですか」

「みんなを連れて帰っていいっていう許可」

「ちなみにどなたにもらいましたか」

「支社長」


 みんなが顔を見合わせた。あっ、これ、信じてないって顔だ。ひどいな~。

 私はムスッとした顔をした。


 その時扉が開いて誰かが出てきた。


「何だ、君達。まだ帰ってなかったのか」


 支社長だった。


「支社長、みんなひどいんですよ。私が帰る許可をもらったって言ってるのに信じてくれないんです」


 私の言葉に皆が慌てている。なんか、失礼だぞとか、相手を見ろとか言っている。


「ハハッ。そうか信じてもらえなかったか。そうだ君達、少し私に付きあわないか」


 そう言われて、何故か支社長室に連れて行かれたのだった。



あれ? 甘さはどこへ?

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