閑話 水月の敵に ~ 円花 ~
少し短めです。
~ side 円花 ~
翔琉と一緒に水月を送り、その後翔琉の部屋に行った。部屋に入ると、それぞれパソコンへと向かう。いくつか経由して目的のものを見つけた。
「見つけた」
「こっちも見つけたぜ」
翔琉の言葉に翔琉のそばに行って開いている情報をみる。
「ふう~ん。こいつなのね。水月のトラウマを呼び起こした奴」
「ああ。高松利規。アホ大学出の26歳。大学時代は顔の良さを武器に女を落としまくってたようだぜ。俺に落とせない女はいないと豪語してたとか」
「最っ低~。でも翔琉。アホ大学はそこを出た他の人に失礼だよ」
「アホをアホって言って何が悪い。こんな奴がいたとこなんてアホで十分だろ」
「まあね。それで、どうすんの。こいつ、まだ水月の事狙うんじゃないの」
「ああ、だろうな。だけど、これ以上水月に近づけないように首輪をつけようと思うんだ」
「首輪?」
「ああ」
そう言って次に翔琉が出した情報に、口元に笑みが浮かぶ。
「あら、うってつけのお嬢さんね」
「そうだろ。大学の合コンで知り合ってからこの女はこいつを忘れられないって吹聴してるってさ。今は離れたところに住んでいるが、ここにいることを知らせたら飛んでくるだろうな」
「それに、本社の方の取引先の専務のお嬢さんというのもいいわね。上手くいけばここからいなくなるんじゃない」
「ああ。是非ともそうなるように手伝ってやらないとな」
「どうするの?」
「まず、この女には大学のサークルの伝手の、この彼女にこいつの居場所が分かったと伝えさせる。で、こっちに住んでる友人、この彼女にこいつと会うための仲介をさせる。それから、こいつはこの女から逃げるためにここにいるようだから、美人局をして女と入れ替わらせて既成事実を作って逃げられないようにしてやらないとな。前にも関係を持っているんだからちゃんと責任を取らせようぜ」
翔琉がすごくいい笑みで言っている。ほんとこいつはとことん水月に甘いんだから。まあ、私も水月を傷つけた奴を許すつもりはないけど。
「そのためにも、まずは岡部に連絡しないとな」
「岡部? なんでその名前が出てくるの」
「あれ、知らねえの。友達の友達はみな友達。で、どっかしらで繋がってんだよ」
訊いたことはあるけど、こいつの人脈ってどうなっているのかしら。基本引きこもりのはずなのに。水月が絡んだ時の行動力には呆れるわ。
「それで、岡部って人に会ってどうするの」
「岡部はこいつが逆らえない先輩の坂本と仲がいい。で、坂本に合コンの誘いをさせる」
「でも、直に顔を合わせたら逃げるんじゃ」
「美人局っていっただろう。こいつを酔わせて、気に入った女の子とホテルに行った気にさせて、入れ替わらせるのさ」
「そんなにうまくいくかしら。酔っていてもわかるんじゃないの」
「もちろん、バレてもどうしようもない状態に持っていかせるのさ」
「あんたね~」
「大丈夫。最後は2人とも気持ち良くなるんだからさ」
はあ~。私以上にキレてるわね。口調も水月の前じゃ少しは取り繕ってるのに。
「全は急げっていうからさ。とっととやるぞ。ああ、だけど、水月に気づかれたくないから、由井に代わりに動いてもらうか」
そう言って翔琉は、計画の指示書を打ち始めた。鼻歌を歌いながら機嫌よく指さきが動いていく。
書き上げたものを読みなおして確認すると、メールを送って私の方を向いた。
「で、円花は何を見つけたんだ」
「深見と宮本と寺田。それから佳代の情報」
今度は私が使ったパソコンの方に来て椅子に座って見ていく。
「ふう~ん。頭は悪くないようじゃん。宮本は真面目。寺田は脳筋か。って、おい。寺田の彼女、うちの小学校じゃん」
「えっ、・・・本当だ。まずいかな」
「一っこ下か。まあ、小学校の情報ぐらいなら構わないだろう」
「そうね」
「で、佳代ちゃんは~、普通の家の子だね~。だけど、かわいかったことによる嫉妬でいじめにあったんだよな」
「そう言ってたよ」
「なら、水月を裏切らないか。そばにおいてもいいかな」
「そうね。それよりも深見よ。翔琉はどう見る」
翔琉は私の問いにう~んと考える。
「水月次第だな。水月が本当に嫌がったらどんな手を使っても排除するけど」
排除と来たか。こいつもとことんヤンデるわね。
「でも、嫌がってなかったわよね」
私の言葉に翔琉が顔をしかめた。面白くないのだろう。私だってそうだもの。
「水月を2回も助けてくれて、そのあとも強引に迫ってなくて。女の姉弟がいるからかもしれないけど、傷ついた女の子に対して気遣いもできる。水月が恋愛を拒否しながらも心が揺れるはずよ」
最初に聞いた水月の深見への評価。あれも裏を返せば水月が深見を意識していたってことになる。翔琉もそれに気がついていたんだろう。渋面がひどくなった。
「それに、彼の利点がもう一つあるわよ」
「なんだよ、それは」
「水月に甥や姪が出来ること」
翔琉は笑い飛ばそうとしたのだろう。口角をあげて口を開けた。でも、笑うことは出来なかった。
「翔琉も分かっているでしょう。水月が今まで何を諦めてきたのか。香月が生きていて2人とも結婚すればいつかは子供を産んで叔母さんになれた。それが事故で家族を失って、去年には祖父母も亡くして一人になった。どれだけの孤独を抱えているのかわからないわ。私達じゃだめじゃん。家族にはなれないもの。一度拒否されてるし」
「わかってるよ」
翔琉がブスッとした声で言った。
「だったらさ、深見に賭けてみるのも有りじゃない」
「だけど水月がまた傷付いたら」
「その時は私達が支えればいいでしょうが」
翔琉はムスッとした顔のまま何かを考えている。しばらくして口を開いた。
「却下だ。深見がいい奴で水月のことを任せられる奴かもしれないけど、水月がそれを望むまでは俺は認めない」
まあ、確かにそうね。水月がいまは恋愛する気がないと言っていたんだもの。
「わかった。私も水月が望まないことをする気はないから」
翔琉が疑わしそうに私を見てきた。失礼な。可能性を言っただけで、水月の不利益になるかもしれないことを私がするわけないでしょうが。
「それよりも、首輪をつけるまでの水月の守りはどうするの」
「それなんだよな。遅番が終わるのは8時過ぎって言ってただろう。迎えに行く口実がない。こんな事なら、9時過ぎじゃなくて8時過ぎって言っておけばよかったか」
「それをしたら水月に嫌われるわよ。とりあえずは佳代を使いましょ。一緒に帰らせるか、深見達に護衛をさせるか」
「水月が嫌がりそうだな。だが、番犬くらいにはなるか」
「ええ、そこは上手く言うわよ。バスに乗るまで見守るようにって」
「強引に送るとか言いださないか」
「そこは水月が気にするからっていえば、男共も引き下がるでしょ」
2人して溜め息を吐く。
「いっそ私が仕事を辞めて水月の送り迎えをしようかしら」
「それこそだめだろう。水月にも言われただろう。ちゃんと外で働けって」
「翔琉は自宅にいるじゃない」
「おれは男だからいいの。お前は研究しかできないんだから今の仕事をやめたらどうするんだよ」
「株をやるからいいわよ」
「そこで引きこもりになるだろうが」
「あんたも引きこもりでしょうが。言われたくないわ」
思わず翔琉と睨み合った。そしてどちらからともなく溜め息を吐く。
「ほんと。いくら水月のはとこだからって、どうしてこんな女と付き合っているんだか」
「それはこっちのセリフ。あんたが水月の従弟じゃなきゃ及びじゃないっていうの!」
「おまえな、いい加減水月に執着するのをやめろよ」
「それもこっちのセリフだっつうの。男だったら堂々と告白すればいいでしょ。ほんと、何で私は女なんだか」
「言えるわけないだろうが。知ってて言うんだから性格悪いよな、お前。お前が男じゃくて良かったよ」
また翔琉とにらみ合う。ああ、なんでこんな不毛な言い合いをしているんだか。
「もう一度確認するけど、翔琉は水月の幸せを願っているのよね」
「ああ、もちろんだ」
「それをするのが自分じゃなくても構わなかったのよね」
「ああ。水月が笑っていてくれるなら、俺以外のやつとくっついたって構わないさ」
その答えに私の顔に笑みが浮かぶ。
「俺からも確認するぞ。円花は水月が好きだよな」
「ええ、もちろんよ」
「水月の幸せを望んでいると」
「そうよ」
「水月が幸せなら誰といても構わないんだよな」
「ええ。でも、水月に苦労を掛けるような相手なら認めないけど」
私の答えに翔琉も笑う。
「なら、俺と円花の目的は同じ。一緒にいても構わないわけだ」
その答えに私は笑みを深くして翔琉の首に腕を絡ませる。
「私は翔琉が好きよ。水月の次だけど」
「俺も円花のことは好きだぜ。水月の次に」
そうして私達はキスをした。唇を離すと翔琉が行った。
「気分が落ち着かねえ。気を静めるのを手伝ってくれるか」
「いいよ。けど、水月と一緒の子供が欲しいからそれを考えてくれるならいいわよ」
「もちろんわかっているさ」
そうして翔琉と私は寝室へと向かったのだった。
彼らはヤンデレ? なのか?