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ネカマの俺は異世界でもモテる  作者: さささん
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二話:多分これ夢

目を開けるとそこは爽やかな風の吹く草原だった。


いや、ほんとに。

虫か何かに噛まれて起きたから。すげーかゆい。


草の背丈はやけに高かった。立ち上がった俺の腰くらいまである。

辺りを見渡すと森の中にすこし開けた草原らしく、遠くに山が見えた。あ、鳥が飛んでる。


「…?」


もう一度、360度ゆっくりしっかり見渡してみる。だがさっぱり見覚えがない。というか、いかにもこういう草原ってありそうだよなーという想像通りの草原で既視感はあるのだが…

しかしどうしてこんなところにねていたんだろう。俺は確かに自宅のベッドで就寝したと思うんだけど。


ふと視線を落としたら、自分の着ている服が目に入った。

カラフルで大きく膨らんだパンツに、鮮やかなケープ。まるで仮装だ。


「…っ!?」


思わず衣服に手が伸びた。が、つかむその手が視界に入った瞬間、驚きで息が詰まる。

そこには、白くて細くて柔らかそうな、明らかに子供のものと思われる手があったのだ。

とっさにさんさんと降り注ぐ太陽にすかして見ても変わらない。薄っぺらいせいでよく血管と骨が透き通って見えた。

今度はその手で恐る恐る顔に触れる。寝起きならじょりっとくるはずのひげの感触はなく、かわりに大福のように滑らかな肌に触れた。

あからさまな体の変化に脳みそがついてこれない。足も鶏ガラみたいに細くて白い。ありえない、運動不足だったがここまでやせ細ってはいなかった。

頭をガシガシかくとふわふわの頭髪がぐしゃぐしゃになった。ていうか髪の毛も随分長いし…なんか、白い。いや、銀色?

細くてさらさらの髪は日に透けてきらきら光っていた。


「俺は…はっ!?」


唐突に聞こえた少女の声に、思わず辺りを見回す。が、その声は紛れもなく今俺の口から発せられた…


「誰かいるのか?」


一応の問いかけに返事はない。というか自分が考えた事を喋っている時点で俺か、うん、いや、俺なのか?


「…っ!」


急に思い当たって細くて小さな手を股間にやった。ぎゅっと握ったがそこに長年連れ添った分身の気配はなかった。

パンツ、は脱ぐ勇気がなく、おそるおそるシャツの中を覗く…がだめだ、ぺたんこだ。揉んでみたがやっぱりぺたんこだ。虚だ。

意を決して、パンツの中へ手を伸ばし…


「………!!!!!!」


そこに何もないことを確認した。いや厳密にはこう…あるのだろうが。


俺は今、女の子であるらしかった。


「お、俺は一体どうなったんだよ…!」


愛らしい声で悲痛な叫びをあげる。

ここはどこだ、なんで女の子に、俺の息子は、どうして、何が、どうしたら…!?


パニックに陥る俺の足に、かつんと何が硬質のものが当たった。ひっ!と思わず悲鳴を上げる。


「何、これ…棒?」


こわごわその硬いものを拾い上げよくよく見てみると、それは紅白しましま模様で一方が緩くフックのように曲がった杖だった。しっかり立ててみると大きなリボンがあしらわれているのが分かった。

見覚えがある…そうだ、これは


「…『ひよ子』のロッドに似てる?」


ロッドだけではない。外見の特徴がプレイヤーキャラ『ひよ子』ににているということに、ようやく俺は気がついた。


「なるほど、そうか、これは夢だ!」


鈴のなるような可愛らしい声が出た。うーんさすがひよ子。

夢とわかれば一安心だ。俺は寝る直前にやったゲームの続きを夢に見ているのだろう。あまりにリアルな感覚のせいで取り乱してしまった。

目覚ましはいつもの時間に鳴り響くだろうから、それまでの短い時間たっぷり楽しませてもらうとしよう。


「さてと、まずは…魔法って使えるのかな?」


夢でありがちな何もできないオチは勘弁願いたい。

ゲーム内でひよ子の役割は補助ヒーラーだ。それに加えて初歩的な攻撃魔法や防御魔法は使えたはずである。俺はひとまずゲーム中でひよ子がやっていたようにロッドを胸の前に構えた。


「えーとたしか…よし、『切り裂け、ウィンドカッター』!」


ロッドを握る手に力を込めて振り下ろし、初級魔法を叫んでみる。

すると指先から何かを引っ張ってもって行かれるような感覚がしたあと、ロッドの先端のあたりに歪んだ空気の層のようなものが発生した。そして次の瞬間その空気の層が発射されて、目前の草を一直線にザッと切り裂いていく。


「うおー!」


思わず飛び跳ね歓声をあげてしまった。どうやら魔法が使える夢のようだ。発動した魔法は10メートルほどで霧散し、そこにちょうど俺が歩きやすいくらいの道が開けていた。


「迫力すげえ!レベル1帯なめてた!」


低レベルな技でも生まれて初めて(?)体験した超リアルな魔法としては十分に感動に値する。MPが消費されるような感覚も中々真に迫っていた。

すごいぞ俺の現実逃避、再現率高い!

寝る前にアホな事考えてみるのも悪くないな。


とりあえず魔法が使えることがわかったので意気揚々と歩き出す。もちろん道は魔法で切り開く。

ひとまず森に向かって進路をとった。


「『ウィンドカッター』!ふんふふーん♪『ウィンドカッター』!」


割と詠唱はテキトーでも魔法は発動するようだ。ずばばばっと草を刈り取って行くのが気持ちいい。

調子に乗ってロッドをぶんぶん振り回し連続であらぬ方向に飛ばしてみたりする。哀れ住処を追われたバッタがぴょんぴょんとあちこちではねた。

なんだかとてもわくわくする。本当に子供に戻ったような気分だ。


(しかしなあ、これからどうしようか。)


一人でさまよい歩くのもいいが、冒険ものには仲間がほしい。昨日のようにみんなでワイワイおしゃべりしながらこの未知なる世界を探索したい。

鬱蒼と生い茂る暗い森がだんだんと近づいてきた。やはりこんなスリルのありそうなところを探検するならメンツは多い方がいい。


(俺の夢なんだから、念じたらギルメンでてくるんじゃないか?)


この再現度の高さならきっといける、今の俺ならなんでもできる気がする。


(ぶぶんたさん、くるみさん、ハバネロさん、ピロリ菌さん、はまちくんさん…)


ざくざく道を開きながらなじみのギルメンの容貌を思い描く。


(どうやって出てきてもらおうか…よし最初からいたことにしよう。このあと後ろを振り向いたらみんながいる感じで…)


その時、後方でがさっと草をかき分ける音がした。

おおっ?夢だけど本当に自由自在だ。こういう夢のことを明晰夢っていうんだっけな。

しかしこんなにうまくいくんなら、俄然張り切ってロールしなければ!


「ねえねえみんな、どこにいくっ?」


ロッドを後ろ手に、少女っぽさを意識してくるっと振り返る。もちろん笑顔も忘れない。

役者のように演技をしたことはないがきっとそこそこかわいらしいはずだ。

…だが、期待したような反応は返ってこなかった。


「シュー…」

「!」


後ろにいたのは期待した人物、というか人ですらなかった。大蛇が…胴回りが立派な木ぐらいあるやつが…俺の真後ろで大きく鎌首をもたげ、こちらを見下ろしていた。


「…」


鋭い視線と目が合う。

心臓が一拍とんだ。


「~ぅ、『ウィンドカッター』『ウィンドカッター』『ウィンドカッター』『ウィンドカッター』『ウィンドカッター』『ウィンドカッター』『ウィンドカッター』!!!!」


牙が迫るより早く、半狂乱でロッドを振り回し早口で今唯一確実に使える魔法を唱える。あてずっぽに放たれたいくつもの空気の斬撃がとんでいき、そのうちいくつかがヒットし大蛇は恐ろしい叫び声をあげた。


「うそおおおおおお!!」


全速力で森の中へ飛び込んだ。後ろでキシャーとかシャバーとかあきらかに怒りの威嚇音が聞こえてくる。怖い、振りかえれない。

夢の癖にやけにリアルな蛇だった…夢って俺の記憶をもとに作られるんだよな?俺あんな精巧に思い出せるほど蛇をまじまじとみたことなかったんだけど。

それにしてもこの体は足が遅い。身長が低くて足が短いし少女くらいの筋力ではあまり速度がでない。

あきらかにあの大蛇は追いかけてきてるというか小さい木をバキバキ倒しながら進んできてるみたいでやばい、やばい、やばい、ちょっとまって、やばい!俺殺される!!!木を薙ぎ倒す蛇ってなんだよ!!!


「いやだー死にたくなーーーいっ!!!!」


口から願望が駄々漏れになる。しかたない、夢とはいえあの牙を見たらそう言わざるを得ない。それにまだまともに冒険していないのだ、死ねるか!

それにこのリアルな夢のことだ、ひどい食事風景を描写してくるに違いない。たしか蛇は獲物を丸のみにしてちょっとずつ消化するんだったよな…


「…」


想像してしまった。いまはない玉が縮み上がった気がする。


行く手を阻む障害物を呪文で切り裂きながらまっすぐ走って逃げるがこのままではスタミナがもたない。藪や枝葉に髪や体のあちこちひっかけて、柔肌がじくじくと傷んでいる。じり貧だ。どこかで巻くか隠れなければ。

大蛇が地面を這う音は確実にこちらへ近付いてきていた。



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